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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第4章
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第72話

■2015/08/30 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第72話




 翌朝、俺はいつも通り0530時に起き上がるとヘレナと一緒に柔軟体操を行い、ヒルダが目を覚ますと少しだけお喋りしてから、着替えて食堂へ行く。


その途中で客室へ立ち寄り、昨夜泊まっていったジェーンを朝食に誘う事にした。


俺たちが今いるこの借家は、7室もあるアパートだった上にメゾネットタイプなので、入り口は1階にしか無いが2階にも部屋が存在し、1室辺り4部屋もある。


俺とヘレナとヒルダで1室、ヘルガとヴィクトルとヴェラで1室、レナートとヴィクトリアで1室、カールとヘルミーネで1室を使っているが、3室が客室という名の空き部屋だった。


因みにカールは休暇の前日しか泊まれず、他の日は寮で生活しているので、その時はヒルダがヘルミーネと一緒に眠っている。


 俺は客室の扉をノックして呼びかけた。


「ジェーン!起きてるか?」


「起きてるよ!開いてるから、遠慮無く入って来てくれ!」


俺は客室の扉を開けて中に入り、リビングを通り抜けて1階奥にあるベッドルームに向かう。


ベッドルームの扉は開いており、ジェーンが鎧の部品を『収納』の魔法から適当に取り出して、床に並べているのが見えた。


「ジェーン、おはよう。朝食に行こうぜ。」


「おはよう、ソード。少し待ってくれ。取って置きの鎧を見せてやるよ。」


「鎧?」


「ああ。しかもオーダーメイドの動甲冑なんだぜ!」


ジェーンは、黒色に近い紫色の鎧を身に付けるのではなく、鉄靴の上に手楯を置いて土台を作ると、その上に草摺や腰当や胸当を順に載せていく。


最初はメンテナンスモードにでもするのかと思ったが、手甲と腕当と肘当と上腕当を組み合わせたモノとは別に、臑当と膝当と腿当に予備の手甲を組み合わせて腕を作り、1つの肩当に腕を2本ずつ組み合わせた段階で、彼女が何のオブジェを作ろうとしているのかが俺にも分かり、呆れてしまう。


「これって、お前とミユが好きだったカトゥーンの聖闘○に出てくるふたご座の冥○じゃないのか?」


「その通り!しかもオリジナル版では装甲の存在しなかった場所にも、外見を損なわないように鎧下に見える特殊な装甲を組み込んであるんだ!どうだ?クールだろ?」


そして最後に、両側面に人面が彫刻されている兜を4本の腕が存在する鎧の上に乗せると、俺の質問に対してジェーンは自慢気に答えた。


 ジェーンとミユは、このキャラクターの1/1サイズのガレージキットを2人で作って、金色のをミユの自室に、黒色のをジェーンの自室に飾っていた程のギーグである。


しかも、カトゥーンもコミックスも読んでいない俺が下手にコメントでもしようモノなら、彼女らは永延と布教を始める始末だった。


「これって、幾らしたんだ?」


「大金貨5千枚だ。」


大金貨とは1オンス金貨の事だが、地球よりも金の相場が6倍近くも高いので1枚で約1万ドルになるから、この同甲冑は約5千万ドルもした事になる。


俺が購入した大陸間輸送船に比べれば遥かに安いものだし、地球の旧型戦闘機と同じくらいの値段だと考えれば妥当な気もするが、外見が趣味丸出しなせいで何となく納得出来ない。


動甲冑は俺も欲しいと思っていたんだが、それを今言ったりしたら同じ系統のモノを無理矢理作らされるに決っているので、当分は黙っておくことにした。


「そうか・・・。飯にしようぜ。」


俺は動甲冑に関してのコメントを避けて、ジェーンを再度朝食に誘った。


仏ほっとけ神かまうなではないが、触らぬ神に祟りなしである。


「むぅ・・・。そうだな。」


ジェーンは、俺がコメントしない事に対して不満そうだが、昔からの事なので諦めたみたいである。



 食堂へ行く途中で、俺は気になっていた事をジェーンに尋ねてみる


「そう言えば、ジェーンが昨夜言っていた俺の知っているマレビトって誰だ?」


同じ地球出身の人間という理由だけで、俺が親近感を覚える事など絶対に無い。


俺と直接敵対した人間は、この世界だと誘拐組織と狂信者を合わせても百人に満たないが、地球だと左翼ゲリラや麻薬組織の幹部だけでも数百人に及んでいたし、末端構成員など多過ぎて数える気にもならない。


つまり、地球出身の人間に対しての方が、俺は警戒する必要があるという事だ。


「名前は何だっけな?

私が居た頃はカルテルに潜入調査している捜査官だったけど、その後はうちのPMCに転職して、ソードと同じデルタ小隊にいた黒人の彼女だよ。」


あのPMCに白人女性は複数所属していたが、黒人女性は1名しかいない。


「まさか、ブラッディ・マリーか?俺の相棒だったヤツじゃないか!」


「そう、そのマリー。十何年か前に遭ったんだ。彼女は米語しか話せなかったから、この世界に来てかなり苦労している、と言っていたぞ。」


マリーはアメリカ人として施設で育てられたが、彼女が赤ん坊の頃に亡くなった両親は南ア国籍だったらしい。


問題は、彼女には思い込みなどではなく、医学的に恐怖を感じる遺伝子が殆ど存在しないらしく、自殺志願者かと見間違うほど危険な任務ばかりを好んで引き受ける、と有名だった事だ。


そしてマリーには、ブービートラップが存在すると分かっていながらワザと踏み込む悪癖があるせいで、相棒になりたがる者がおらず、新人だった俺が無理矢理組まされた経緯がある。


この世界に飛ばされる直前にも、アイツがあからさまに怪しい金色のアサルトライフルを勢い良く引き寄せたせいでトラップが発動し、転がってきた手榴弾で俺はかすり傷とはいえ怪我を負っていた。


「そうか。アイツは今、どうしているんだ?」


「さあ?私とマリーは知り合いというだけで、特に仲が良かった訳でもないからその後のことは知らない。

会った時には彼女もこの世界に来て何年間か経ってたみたいだけど、未だレベル100程度だったから情報交換だけして別れたんだ。」


「なるほどな。アイツが最後に南米に居たのが何時なのか聞いたか?」


マリーは俺とほぼ同じ時刻に、この世界に飛ばされた可能性が高いハズだ。


「細かい日時は覚えていないけど確か、金色のアサルトライフルを鹵獲した直後だ、とアホな事を言っていた記憶がある。」


「やはりな。ありがとう。」


「もしかして、ソードと同じ時刻なのか?」


「ああ、そうだ。一緒に行動していたから同じ時刻に飛ばされたみたいだな。」


「でも、ソードは目覚めた時には、アドルファ王国のシグブリット辺境伯領近くの深淵の森の中にいたんだろ?

彼女は確か、アマデウス王国のシュテファン辺境伯領にいたと言っていたぞ!」


「アマデウス王国というのは、俺たちが今居るアロイジウス王国の北東の隣国で、十数年前に自らが作り出した僭神のせいで、国土が丸ごと焦土と化して滅亡した国の事だよな?」


「そうだ。その跡地を神社主導の基でハンターたちが僭神の残党刈りを行っている最中に転移門から現れたそうだ。」


「俺とアイツは出発場所と出発時刻が同じハズなのに、到着場所と到着時刻が全く異なるとはな。

こりゃあ、地球には帰れそうにないな。」


「ソードは帰りたいのか?」


「正確に言うと、自由に行き来したいな。」


「そうだな。カトゥーンが無いのが辛いよな?」


「それについて同意を求められても困るが、俺としては日本酒が無いのが困りモノではあるな。それにケイも放っておくと周りが大変な事になるし。」


この世界には味噌や醤油そのものはないが、大豆を原料としたタイのタオチオみたいな味噌を薄めたような調味料はあるし、豆を醗酵させた中国の豆板醤などの穀醤類もあるので、固体発酵の文化は発達している。


しかし、穀物酒に関しては、ウイスキーやウォッカなどしか酒場バルには置いてない。


「純米酒ならあるぞ!ほら!」


そう言いながらジェーンは、一升ほど入りそうな酒甕を『収納』の魔法の中から取り出した。


「どうしたんだ、これ?」


「この世界でも米を主食にしている国では売ってるからな。遠征した時に千個ほど買い貯めしておいたんだ。帰ってきたら飲もうぜ!」


そう言えば、この街でもインディカ米みたいな米を使ったパエリアなどは普通に食されているのを忘れていた。


近所の酒屋を探せば、泡盛みたいな蒸留酒なら見つかりそうな気がする。


「そりゃあ、良いな。楽しみだ!」



 朝食の席で「この世界に俺が最初に現れた場所へジェーンと一緒に行ってくる」と皆に今日の予定を告げた後、俺たちはギルドへ寄ってから目的地へ出かけた。


ヘレナたちが妊娠して狩猟に行けなくなってから俺とレナートは5勤1休のペースで狩りに行ってきたが、今日はその休暇に当たる日では無いので、レナートは「ヘルガと一緒にヴィクトルとヴェラのお守りでもしてるさ」と言っていた。


 俺がジェーンを連れて『転移』の魔法で移動した先は、俺がこの世界に来た初日にドラゴンを仕留めた場所である。


数百ヤードほど離れた大木の樹上には、大分色褪せているがナイロン製の赤色のパラシュート・コードが見えるので、間違いはない。


これはランドマークにするために、俺が設置して置いたモノだ。


以前なら双眼鏡が必要だったが、今では『探査』の魔法が使えるお陰で、劣化具合まで難なく見ることが出来る。


 ドラゴンの骨と同じ場所にあったハズのイノシシやデイノニクスの骨は全く存在しなくなっているが、ドラゴンの骨の大半は俺が最後に見たときのまま存在していた。


爪や歯やトゲなど尖った部位が無くなっているが、これは食われたのではなく、恐らく亜人などが武器にするために持ち去ったのであろう。


7.62×51mm NATO弾が命中しても、文字通りかすり傷1つ付かないドラゴンの骨の中でも、特に硬い部位だけを食う様な生物がいるとは思えない。


「ジェーン!こいつがお前の探していた下等竜か?」


「ああ、多分間違いない。

こいつの骨に刻まれている傷痕は全て並行だから、私や相棒の使っている2枚刃鉤鎌槍のモノだろう。

同じ武器を使っている奴は他にもいるだろうが、私たちが刻んだのと全く同じ場所全部に斬りつけるとは思えない。」


俺の問いかけにジェーンはそう答えたあと、相棒の仇である下等竜の亡骸を暫くのあいだボーっと眺めている。


「そうか。」


俺はそう呟いたあと、暫く黙って彼女を放置しておく。


 俺が交戦した時にこの下等竜ドラゴンは飛翔しなかったし、ブレス攻撃もして来なかった。


下等竜の翼の付け根および、頸部と胸部の境目に治りきっていない傷跡があったのが原因だと思われる。


これらは、ジェーンと相棒が俺よりも前に交戦した際に負わせた怪我らしいが、無傷な状態のコイツと戦っていたらあの頃の俺では確実に死んでいたであろう。


この世界の特定の生物は、固有領域フィールドによって魔法攻撃を霧散したり、10フィート以上離れた場所からの物理攻撃の運動エネルギーを減衰して軌道を偏向したりする事が出来る。


更に、下等竜以上のドラゴンは通常、魔法攻撃を防ぐエネルギー・シールドと、物理的な攻撃を防ぐ粒子シールドの2種類の偏向シールドを発生させる事も可能である。


そのため、実際に試したジェーンによると対戦車ロケット弾を20ヤードほどの近距離から命中させても、全く効かなかったらしい。


また、個体によって攻撃の種類が異なるが、この下等竜は火炎放射器みたいな赤色の火炎を放つブレス攻撃を連射してくるタイプだったみたいである。


あの当時の俺は、そんな事を知らなかったし、本物のドラゴンを見た事で相当舞い上がっていたから、全く考慮出来なかった。


 ジェーンが酒瓶を『収納』の魔法の中から取り出し、封を切って下等竜の腹部へ酒を振りかけた。


空になった酒瓶を『収納』の魔法で格納するとジェーンは俺の方へ振り返った。


「待たせたな。」


「もう良いのか?ジェーン。」


「ああ、相棒の供養は胴体の方で既に一度やってある。」


「そうか。」


「ソード。お前が現れたのはここか?」


「いや、ここから数百ヤードほど離れた場所だ。」


「そこへ連れて行ってくれ。見てみたい。」


「分かった。」


高さ60フィート辺りで太い枝が二股に分かれており、目印として樹上に放り投げておいたパラシュート・コードの引っ掛かっている大木を通り過ぎ、俺の足跡を辿って行くとまたしてもフタの開いたマンホールみたいな縦穴が存在しているのを見つけた。


もっとも、距離が離れている場所からはそう見えただけで、近寄ってみると実際には直径約30ヤード、深さ凡そ3百フィートもの大きな穴であった。


「何だこれ?」


そこだけ樹木が無いせいで強烈な太陽光が射しており、縦穴の底の方に雨水らしきモノが溜まっていて、泥水の中で何か小さな生物が蠢いているのが見える。


隕石が落下したクレーターにしては小さいし、周囲に全く被害ないので、地表層が崩落して生ずるシンクホールである可能性が高い。


いや、待てよ。ここは確か転移門らしきモノがあったはずの場所だ。


もしかして、掘り出したのか?


それにしては、周囲に掘り返した際の土砂がないのが気にかかる。


まさか、周囲の土砂ごと転移門が転移してしまったとか、ありうるのか?


縦穴を睨みながら俺が思考していると、ジェーンが断言するような口調で話しかけてくる。


「ここって、ソードが初めてこの世界に降り立った場所だろ?」


「何故分かるんだ?ジェーン。」


「私が最初に居た場所も、数日後に戻ってみたらこんな感じの大穴が開いてたんだ。」


「マレビトを吐き出した転移門は他の場所へ転移するのか?」


「他のマレビトに聞いた話しを総合すると、人類が管理していない転移門は消えるらしい。

でも、マリーみたいに管理されている転移門から現れた場合は消えないみたいだ。」


「そうなのか。」


「ちなみにマレビトが現れるのは、各大陸の中央部にある深淵の森周辺だけらしいぞ。」


「中央部だけ?」


「そうだ。しかも、この碧翠大陸以外のマレビトは一人も地球人じゃない。」


「じゃあ、碧翠大陸にいるマレビトは地球人が多いのか?」


「そうとも言えるし、そうとも言えない。

さっきの下等竜に殺された私の相棒も碧翠大陸に現れたマレビトだったんだが、私たちとは別の地球の人間だった。」


「別の地球?」


「カトゥーンやシネマなんかに良くあるだろ?パラレルワールドってのが。あれに近い。

英語が通じるし、生まれた年代も似通っているのに、お互いが知っているタイトルのカトゥーンのストーリーに違和感を感じてな。

話しをよくよく聞いてみると、相棒は第二次世界大戦後に日本がドイツみたいに東西に分割された世界から来た事が分かったんだ。

それからは相棒と一緒に各大陸を渡り歩いて、マレビト探しをやってたんだ。」


「何でそんな事をしてたんだ?」


「私たちの知らないカトゥーンのストーリーとかを聞くのは面白そうだと気づいたからだ。

同じ様な趣味を持つ相棒が見つかってからの20年間はあっという間だった。」


「それで、おれたちと同じ地球出身の者はどれくらい居たんだ?」


「50人以上のマレビトに出会ったけど、私達と同じ地球の人間は、今のところ私とソードとマリーの3人だけだ。」


「50人以上?マレビトは数十年に1人くらいしか現れないと聞いた覚えがあるぞ。」


「認知されていない者も多いから、実際には各大陸とも十数年に1人のペースで現れているらしい。

それが7大陸もあるし、レベル100を超えて寿命が延びているヤツも多いからな。

恐らく全部で100人近く居るんじゃないかと相棒は考えていたみたいだ。」


「なるほど。

俺たちは3人とも同じ様な時期に飛ばされたが、この世界に現れたのは十年間ほどの差異がある。他の奴らはどうなんだ?」


「悪いな。そういう考察みたいな事は相棒が担当してたんで、私には分からないんだ。」


「そうか、ありがとう。続きは家で頼む。」


 俺たちの耳に突然、大型トラックが遠くでクラクションを鳴らしたかのような動物の鳴き声が聞こえてきたので、会話を打ち切る事にした。


「いいとも。

折角だから帰る前にダンスでもして行こうじゃないか!」


何か巨大なモノが走り回っているような音が段々と大きくなっていく。


「そうだな。お手本を見せてくれ。」


そして俺にもステータスが読み取れる程度の知能しかないドラゴンが、時速50マイル以上のスピードで突進してくる姿が目に入った。


とは言っても身体能力としては、以前戦った巨人型の使徒と大差の無いレベル353の怪物なので、レベル161の俺が相手をするのは不意打ちでも無ればほぼ無理ゲーに近い。


だが、レベル246のジェーンが正面切って相手をするなら、未だ勝算があるし、彼女が動甲冑を着込めば楽勝だろう。


「パーティータイムだ。楽しく踊ろうぜ!」


俺が防壁代わりに『氷湖』の魔法で自分の周囲の空気を紡錘形のドーム状に固めて無色透明な障壁を作ると、ジェーンはドラゴンにそう話しかけながら生身で駆け寄って行く。


 体長約33フィート、ティラノサウルスほどの大きさがあるドラゴンは翼を広げて空へ舞い上がりながら、ジェーンに応えるかのように大きな口を開けて青緑色の巨大な火炎を放射してきた。


この鱗の絶妙な色合からするとこのドラゴンは以前、深淵の森の20マイル付近で見かけた下等竜に違いない。


それにしても、青緑色の炎など見るのは化学の授業以来だ。


確か、銅かモリブデンの炎色反応が青緑色だった気がする。


俺がそんな事をくだらない事を考えていると、ジェーンが無造作に『突撃』の魔法を放ち、ドラゴンのブレス攻撃を一瞬で消し飛ばした。


ドラゴンが再攻撃の為に吸気を行ない始めた瞬間に、ジェーンは飛翔して一気に肉薄し、2枚刃鉤鎌槍で片方の翼の付け根に斬り付ける。


ジェーンの鋭い一撃もドラゴンが巨大なせいで切断は出来なかったみたいだが、翼の一部が切り裂かれたためにバランスを崩したらしく、ドラゴンは蹌踉めきながらもブレスを吐き散らしつつ地表に着地した。


 ドラゴンは羽ばたいて飛行したり浮遊したりしている訳ではないが、翼も何らかの重要な役割を果たしているみたいで、再び飛び立とうとはせずに翼を折りたたんだまま、俺に向かって凄まじい速さで突進してくる。


その勢いのままドラゴンは俺が張った紡錘形の障壁の斜面にぶち当たった。


だが、俺の『氷湖』の魔法の耐衝撃性能についてはヘルガからもお墨付きを貰っているくらいに強固なので、ドラゴンは撥じかれて俺の真右に転がって行き、ボットンと縦穴に落ちた。


折角の好機だが、中距離や長距離攻撃用の魔法に関して俺は平均的な威力しか持っていないので、追撃する為には手を伸ばせば接触出来るくらいに近寄る必要がある。


接近さえ出来れば、俺はジェーンに劣らぬ威力を誇る強力な『秘伝』系の魔法を叩き込む事が出来る。


だが、このドラゴンは俺が以前交戦した病み上がりの下等竜など比べモノにならない程の機動力があるし、ジェーンの魔法攻撃は威力も範囲も『剛力』の魔法を使用した状態のヘルガを遥かに上回るので、接近戦を仕掛けるのは危険極まりない。


俺がそんな言い訳を考えていると、ジェーンが上空から急降下し、ドラゴンの頭部に触れる直前に巨大な『爆裂』の魔法を2つ放っては、急上昇する事を繰り返した。


ジェーンのヒットアンドアウェイ戦法の1撃目で、ドラゴンは脳震盪を起こしてフラつき、3撃目で目鼻口から血を流し、4撃目でそのまま縦穴の中へ沈んだ。


 俺が見ていた範囲だとジェーンは無傷のハズだったが、地表に降り立った彼女は金属製の兜や鎧だけでなく、鎖帷子の編み込まれたトーガも切り裂かれており、顔や手足の切傷から血を流していた。


「ジェーン。大丈夫か?」


「大丈夫だ。まだまだ歌って踊れる。」


俺が声をかけると、ジェーンはいつもの事だという感じで笑いながらそう答えた。


「その怪我はどうしたんだ?」


「ん?ドラゴンとか使徒に接近して攻撃をぶち込むと、爆発反応装甲みたいにエネルギー・シールドや粒子シールドが弾け飛ぶんだ。

それが手裏剣を大量に投げ付けられたみたいな感じで飛んでくるから、こんな風になっちまうんだよ。

物理攻撃に比べれば、魔法攻撃の方がこっちの被害は遥かに小さいけど、フィールドのせいで魔法の減衰率もデカいからどっちもどっちだな。」


俺の問い掛けに対して、ジェーンは説明しながら治癒魔法を発動し、器用に傷口を塞いでいく。


「そうなのか。

それにしても治癒魔法まで使えるとは、ジェーンはホントに器用だな。」


「そうか?ソードは使えないのか?」


「ああ、俺には適正が全く無いと言われた。」


「意外だな!あれだけゲリラどもを切り刻んでいたのに。」


「ヒトを切り裂き魔みたいに言うんじゃ無い!

さっきの話しの続きなんだが、使徒もドラゴンみたいな万能型の偏向シールドがあるヤツが多いのか?」


「正規の使徒はそうらしい。

使徒の亜種や準使徒みたいなのは、片方しか無いヤツとか全く無いヤツもいるみたいだ。

その代わりに厄介な能力を持ってるヤツが多いけどな。」


「使徒ともやり合った事があるのか?」


「勿論だ。この2年間で4回くらいジルバを踊ったんだが、2度ほど逝きかけた。

しかも、着込んでた動甲冑(ドレス)を毎回剥ぎ取られて、土手っ腹ん中にぶっ太いの突っ込まれてな。」


俺の問い掛けに、ジェーンは笑いながら答えているが、遠くを見ている様な目をしている。


相棒の仇を討つ為の力を得るのに、今まで相当に無茶をして来たんだろう。


俺はその仇を横取りした事になるのだが、今更どうしようもない。


「ジェーン。そろそろ帰ろう。」


「そうだな。」


俺が帰宅を促すと、ジェーンはそう返事をしたのち、下等竜の死体を『収納』の魔法で格納した。


ジェーンを連れてギルドへ戻り、下等竜を買い取って貰った後、借家へ帰宅する。


 未だ昼前なので、ヘルガやレナートたちは当然帰宅してないし、ヘレナやヒルダは『倉庫』の魔法の中にある大陸間輸送船上の自宅にいるハズだ。


俺とジェーンだけで、彼女の相棒の供養の為に酒を酌み交わし始めた。


ジェーンの話しを聞いていると、彼女の相棒はミユが大人になった様な人間みたいなので、一度も会った事はないのに俺は非常に親近感を感じる。


因みに、俺も知り合いだったハンターの埋葬に何度か立ち会ったが、この大陸での葬儀は日本の仏教みたいに死を悲しむ暗いムードで行うのでは無く、欧米のキリスト教みたいに昇天を祝う明るいムードで行うのが普通である。


この世界では輪廻転生が信じられている事もあり、早く生まれ変わって来れる様に生者は死者に未練を残させてはならないという考え方らしい。


俺とジェーンはしんみりする事など全く無く、日没頃に帰宅したヘルガやレナートも交えて陽気に飲み続けた。


そう言えば、ジェーンの妹ともこうして一緒に無理やり陽気に振る舞って飲み明かした気がする。


あれは誰の死を悼んでの事だったろうか。



ヴィクトルとヴェラから事情を聞いたヘレナやヴィクトリアが夕食を持って来てくれたが、特に参加したりはせず直ぐに引き返して行く。


結局、俺たちは酔い潰れるまで追悼の宴を続けた。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ギルド登録名が、ソード。ステータス上の名前と地球での愛称は、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ケイ……主人公の嫁。本名は、惣田恵子。


ミユ……主人公の姪っ子。本名は、香田美幸。


ジェーン……主人公の友人。本名はリサ・タイラー。ギルド登録名が、タイラ・リサ。ステータス上の名前と地球での愛称は、カラミティ・ジェーン。ランク6ハンター。


マリー……主人公の元相棒。本名はマリー・ムーア。ギルド登録名が、マリー。ステータス上の名前と地球での愛称は、ブラッディ・マリー。



ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。


ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。



ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。



ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。


ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。


カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。


ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。



【基本魔法紹介】

『爆裂』……手榴弾の爆発を再現したもの。対象を爆破する。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『突撃』……カノン砲での砲撃の着弾を再現したもの。対象を吹き飛ばす。威力は個人の力量に比例し、火の玉を投擲後に対象との接触で無音発動するが、手元を離れると10秒程で霧散する。


『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。


『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【秘伝魔法紹介】

『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『飛翔』……グリフォンの飛翔を再現したもの。実際には空中に浮遊している訳ではなく、『落下』の魔法と似た様なモノで目標座標に向かって自身が落下しているだけである。



【その他】

シルヴェストル辺境伯領……主人公が転居してきた街。アロイジウス王国の最北端に存在する。


アロイジウス王国……アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国。


シグブリット辺境伯領……主人公が住んでいた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。


アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。

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