第70話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第70話
◇
アラクランノイドに指揮されたかの様に、千体近いグールやアンデッドが、俺たちに襲いかかってきた。
しかも、続々と増援が駆け付けて来ているみたいで、周囲はグールとアンデッドに埋め尽くされていく。
「レナート。お前のファンが押しかけてきたぞ!」
「人気者は辛いなぁ。」
軽口を叩いている俺とレナートだけなら全部を捌き切れるかもしれないが、ランク3相当の兵士が大半を占める駐留軍や諸行軍ではそれは難しいし、彼らを守りながら戦うのは俺たちにも不可能だ。
この世界のグールやアンデッドは、本当に不死の存在というか、死体が動いているだけなので、とどめを刺すためには焼却しなければならず、この場では四肢や頸部をバラバラにするしか対処の方法が無い。
そしてこいつらは人間だけを執拗に殺そうとするが、別に僭神の眷属という訳では無く、行動原理は謎に包まれている。
因みに、アンデッドは死体が腐敗するに連れて戦闘力が大幅に落ちて行き、数週間ほどで動けなくなるが、グールは何故か大して腐敗が進行しないので、十数年間に渡って活動し続ける場合すらあるらしい。
「攻撃開始!接近を阻止する事を優先せよ!」
俺たちは駐留軍の千人長の指示に従って、即座に方円陣のままでグールやアンデッドに向けて攻撃を開始した。
方円陣といっても実際には三角形をしており、俺とレナートで一辺、駐留軍10名が一辺、諸侯軍9名が一辺を担っている。
だが、相手がランク4程度の化け物とは言え、士官と下士官だけしかランク4の実力がないので、駐留軍と諸侯軍の兵士はグールやアンデッドを押し留めているに過ぎない。
グールやアンデッドには魔法攻撃を霧散する固有領域が存在しないのが、せめてもの救いだ。
とは言え、駐留軍や諸行軍の得意とする間断ない魔法攻撃を行うにしても味方の兵力が少なすぎて、所詮は多勢に無勢である。
グールは、下手くそな編集をしたコマ飛び動画のように動きが不規則な上に、高速で移動しながらカマキリの腕みたいに歪に変形した肩甲骨で斬り掛かったり、コサック鞭みたいな形状に変形した頭頂骨から骨片の鏃を投げ飛ばしたりしてきた。
兵士たちの魔法攻撃を掻い潜って接近してきたグールは、俺とレナートか隊長の何方かが四肢をバラバラに斬り伏せる。
だが、アラクランノイドはランク6ハンターである俺にしか1撃で切断出来ないほど甲殻が硬いみたいで、兵士たちでは弾き飛ばすだけとなっていた。
「俺は帰るんだぁ!!」
しかも、暫くすると懸念していた通り、もう一人の体力の低い若い兵士が視野狭窄に陥り、味方が魔法攻撃をしている最中にも関わらず、突然大声を上げて槍を振り回しながらグールの集団の中へ向かって突撃して行く。
「あのバカに注意しろ!」
諸行軍は下士官が咄嗟に指示した事で、その兵士に魔法攻撃を当てないように射線をズラしたが、これが却って弾幕によって行動を阻害されていたグールどもを自由にしてしまった。
数十体のグールが若い兵士を格好の獲物として迎え撃ったが、標的を一つに絞ったせいで同士討ちが起こり、彼は自陣まで数ヤードほど弾き飛ばされただけで即死を免れた。
但し、外傷による出血は特に無いのに、口から盛大に血を流している。
ドラマやカトゥーンなどとは異なり、現実に数ヤードも吹き飛ぶほどの打撃を胴体に食らって血反吐を吐いたりしたら、折れた肋骨が肺臓に突き刺さっていたり、胃腸が破れていたりして、重傷と言って良いほど内蔵を傷めているハズだ。
しかも、アドレナリンだけでなく、状態が酷くなるほど脳内麻薬も過剰に分泌されて痛みを全く感じなくなるので、そのまま動き続けると、内出血のせいで突然死に至る場合すらある。
「俺はっ・・・」
「このバカが!」
若い兵士も気絶しなかった為に鈍鈍と起き上がり、またしても突撃を行おうと槍を構えたので、下士官が素早く後ろから近寄って絞め落としてから陣形の中心部へ引き摺って来た。
下士官に替わり、衛生兵が気絶した兵士の応急処置を始めるが、2人抜けた事で諸行軍の担当する方面は予備兵力が無くなり、戦線を維持するのがやっとの状態に追い込まれる。
休憩なしで魔法攻撃を永遠に続けられるハズもないので、このままでは諸行軍の誰か一人でも倒れるとグールどもに斬り込まれて蹂躙されることになる。
応急処置が終わると衛生兵が直ぐに戦線へ戻り、負傷した兵士を下士官が簡易転移門で本部へ強制送還した。
◇
俺とレナートはスタンピードの様に長期戦になる事を想定して、体力の温存を心掛けている。
だが、俺たちが四肢をバラバラにして行動不能にしたグールやアンデッドどもの十倍以上ものアラクランノイドが未だ残っている上に、増援が増え続けていた。
しかも、只でさえ2名も本部へ送還した事で兵力の減っていた諸侯軍だが、1時間にも満たない内にもう1名の兵士が過労で倒れた事で、あと十数分もすれば戦線を維持出来なくなる。
今回同行している諸侯軍の兵士は、半数が実戦部隊では無く、遺跡などを調査する研究職なので仕方無いのかも知れない。
更に、あと数分もすれば日没を迎えて辺りは真っ暗となるだろう。
暗視する事自体は『探査』の魔法を使えば不可能ではないが、魔力を更に消耗する事になるのは確実だ。
ついでに言うと、今朝から続いている倦怠感が一層増してきたせいで、俺はロクに頭が回らなくなってきた。
このままで非常にマズい。
俺の『転移』の魔法は一度に移動可能な質量が自身を含めて3名が限界だし、『倉庫』の魔法は一度に空間内に入れる人数が自身を含めて十名までが限界であり、さらに再度同じ魔法を使用するには十数秒ほどのクールタイムを必要とする。
いや、正確に言うと現在の俺の実力だと、『倉庫』の魔法には空間を維持する必要性から1度に通過出来る物体が大きさを問わずに11個までという制限があり、1度通過すると十数秒間掛けて空間を復元するためにその間は使用不能となる。
また、生命体は人間1人でも小鳥1羽でも必ず1個とカウントされるが、非生命体は大陸間輸送船でも衣服でも全部で1個とカウントされるので、真っ裸でも良ければ1度に11人まで『倉庫』の魔法の中へ入る事は可能である。
何れにせよ、戦友を置いて逃げるという選択肢は存在しないので、打開策を求めて俺は駐留軍の士官に大声で話し掛けた。
「千人長殿!動甲冑とか持って来てないのか?」
「あれは起動するだけでも数分間は必要とするし、今回は龍神像の確認が目的だったから、自分と百人長しか持ち出していない。」
「じゃあ、俺が周りを一掃しても良いか?その代わり、こいつらのサンプルを回収するのは諦めてくれ!」
「こいつらの規模と行方が知れただけで目的は達した。多少手荒でも構わん!是非頼む!」
レナートが俺の意図を察して、俺の分までグールどもへ激しく攻撃し始めた。
千人長と会話しながら俺は『気化』の魔法を4つ並列で発動する。
「合図をしたら攻撃を中止して、全員で障壁を張ってくれ!」
「了解した!総員、ソードの指示に従え!」
「3、2、1、今だ!
くたばれ化け物!」
俺を除く全員で『氷湖』の魔法の障壁を張ったのを確認した直後に、俺は前後左右十ヤード以内に居るアラクランノイドを『気化』の魔法で消し去った。
その瞬間、想定していた通りに凄まじい爆発が発生する。
鈍色をしているだけあって、アラクランノイドの甲殻も相当量の金属質を含んでいたらしく、『気化』の魔法によって消される際に大量の熱エネルギーを放出したみたいである。
やはり、この『気化』の魔法は標的を昇華しているのではなく、分解しているのかも知れない。
いくら魔法を霧散する固有領域があるとはいえ、魔法攻撃そのものではないので、電磁バリアなどの偏向シールドを所持していないアラクランノイドでは防ぎようがないハズだ。
今の爆発によって先ほどまで群がっていたグールやアンデッドが吹き飛んだだけでなく、樹木までもが倒壊してしまい、兵士たちが張った魔法障壁の外側は俺を中心として半径400ヤード以上が完全な更地になっている。
しかも、一番近くに転がっているアラクランノイドでも800ヤード以上離れているし、上空にはキノコ雲みたいな噴煙も生じていた。
良く見れば、『氷湖』の魔法で張った障壁も大半が消し飛んでおり、魔力の質からして恐らく残っているのはレナートのモノだけである。
樹木を家屋と置き換えて考えれば、地球で攻撃機が1キロトン爆弾を落とした際の破壊力に相当する威力なのではないかと思われた。
俺は、そんなクレーターの様になってしまった周囲を呆然とした表情で眺めていた千人長に話しかける。
「千人長殿!簡易転移門なら持っているか?」
「それなら大丈夫だ!総員緊急脱出!」
千人長の声で我に返った兵士たち全員が『氷湖』の魔法を解除した後、1個ずつ『収納』の魔法から簡易転移門を取り出して起動に取り掛かった。
簡易転移門は起動する際に10秒間ほど身動きの取れない無防備な状態を曝す上に、1度に移動出来るのは最大で裸体の成人男性2名程度なので、戦闘中の使用は不可能に近い。
だが、こうやって800ヤード以上もアラクランノイドを追いやれば、あいつらが仮に時速百マイル近い速さで駆け寄って来たとしても、再び接触するまでに15秒ほどは要するので、兵士たちは十分に脱出可能となる。
そして俺とレナートは、彼らの簡易転移門を回収した後に『転移』の魔法でギルドの中庭へ移動すれば済むハズだった。
「起動しません!」「自分のも駄目です!」
「何故だ?!先ほどは送還できただろう?」
全ての兵士たちが脱出出来なかった事を報告しているが、これには士官も狼狽えてしまい、次善策を指示出来ないでいる。
簡易転移門が起動しないという現象が発生する場所が深淵の森の中に存在する事は知られているが、原因は全くの不明らしい。
先ほど起動したのは確実なので、先ずは先例を踏襲してみて、それでも駄目なら可能性を1つずつ検証していくしかない。
「千人長殿!取り敢えず、1つずつ簡易転移門を起動させてはどうだ?」
「そうか、その可能性があるな!百人長。女性や研究職から順に脱出させろ!」
俺が提案すると、この場の最高責任者である駐留軍の千人長が指示を出す。
「イエス、サー!十人長、頼む!」
「イエス、サー!全員起動中止!マリー、貴様だけ起動しろ!」
副官にあたる諸侯軍の百人長が振った直後、下士官が兵士に指示を出した。
「イエス、サー!」
「マリーが移動したら次はパトリシア、貴様だ。他の奴らは全員裸になれ!以降は2人1組で転移する!」
マリーと言う女性兵士が無事に転移した直後、もう1人の女性兵であるパトリシアが簡易転移門を起動する。
パトリシアから視線を上げると奥の方から、大量のアラクランノイドが時速50マイルほどの速さで突撃してくる姿が見えた。
殆どのアンデッドとグールは五体がバラバラになっているので既に脅威ではないが、アラクランノイドは頑丈な上に後方にいたせいで無傷なのが多い。
「千人長殿!やつらにもう一発お見舞いするから障壁を頼んでも良いか?」
「了解した!転移門を起動している者を除いて、総員障壁を張れ!」
パトリシアと言う女性兵士の次の2名が転移した瞬間、先頭を走っていたアラクランノイドが障壁に激突した。
障壁を取り囲んでいるのは先程と異なり、アラクランノイドばかりである。
僅か数匹のアラクランノイドを消し去っただけでも、レナートの障壁しか残っていなかったのだから、数十匹ものアラクランノイドを消し去ったりしたら、流石にレナートの障壁でも耐えられないかも知れない。
という事は、『気化』の魔法を使用するとマズい事態になる可能性が高い。
身体の倦怠感のせいで頭が回っていない俺は、アラクランノイドどもを『落下』の魔法で高空へ放り投げて落下させれば良いじゃないか、と適当に考えをまとめる。
だが、こんな重たい奴らを大量に放り投げるには魔力が足りない、という事にも気づいた。
そして俺はまたしても、先日ヘルガが行った瞬間的なブーストを利用するために、カトゥーンのドラゴンボー○に出てきた元気○をイメージして、周囲から魔素を強制的に掻き集める。
この時の俺は、前回ブーストを使用したせいで現在倦怠感に襲われている、という事も思い出せないほど頭が回っていない状態だったらしい。
但し、変な所だけは頭が回っていたみたいで、魔素を掻き集めながら魔法を発動すると酷い目に会う、という事は何となく分かっており、今回は掻き集めた魔素を圧縮して魔力に練り上げてから魔法を発動する。
しかし、大量の幻想生物に囲まれているせいなのかは分からないが、圧縮した魔力の半分近くが魔法に変換する前に元の魔素へと霧散していってしまう。
だが、魔力が魔素に霧散するなら、魔法を発動する段階でも必要な魔力が残るくらいに、大量の魔素を掻き集めて練り上げれば良いだけだ。
自動車の部品を作る際に、日本人みたいに失敗作を無くすという考え方ではなく、欧米人みたいに完成品が必要量を満たせば良いという考え方である。
技術力が向上しない上に、資材を浪費するし、廃棄物の処理にも労力を要するので無駄でしかないのだが、この際しかたない。
俺は集めた魔素すら使用して、周囲から強制的に奪い取ってでも魔素を更に掻き集めた。
「くそったれ!これでどうだ?!」
その直後、ストローでゼリーを吸い込んだかの様に、ズルっと魔素の塊が大量に俺の体内へ流れ込んで来た。
その結果、周囲の魔素が一気に枯渇したために、人間が標高の高い場所などの空気の薄い所に突然放り出されたかのように、俺の周囲半径500ヤード以内にいたアラクランノイドが軒並み高山病みたいに昏倒したり、運動失調に陥ったりしている。
無事なのはレナートだけで、障壁で守られていたにも関わらず、士官や下士官も顔色が真っ青になってふらついているし、兵士に至っては転移門を起動していたものを含めて全員が昏倒してしまった。
「ソードの魔法は、ホンットーに傍迷惑なのが多いよな!」
「うるせえな!しみじみ言うんじゃねえよ!泣けてくるだろうが!」
大げさに呆れたといった感じのジェスチャーをしながらレナートが笑顔で話しかけてきたが、俺も今回は内心で同意してしまったことに余計に腹がたった。
「どうしたんだ、ソード?雨期に放置しといた雑巾みたいな顔をしてるぞ。」
「何だそりゃ?良いから、さっさと後始末して帰るぞ!」
レナートが、周囲に転がっている数十匹ほどのアラクランノイドを『凍結』の魔法で冷凍してから『収納』の魔法に格納していく間に、俺は練り上げた膨大な量の魔力の処理方法を考える。
既に敵勢力の無力化に成功しているので、危険を冒してまで魔法攻撃を行う必要はなくなったのだが、宇宙空間や海上へ放り出した場合の影響を考えるのは面倒くさいので、有り余っている魔力で『倉庫』の魔法を発動し、3つ目の空間を作り出す事にした。
これはこれで影響がありそうな気もするが、後の祭りである。
3回目ともなれば慣れたもので、『倉庫』の魔法の中に使い道のない巨大な空間が出来上がった事を除けば特に問題は無いし、魔力を一気に放り出すのではなく、慎重に消費したお陰なのか、倦怠感も綺麗さっぱりと消え去っていた。
「千人長殿!兵士たちを俺の『倉庫』の魔法の中に匿っても構わないか?」
「すまないが頼む。」
俺は今にも気絶しそうな士官に確認した後、転移出来なかった残り10名の兵士たちを『倉庫』の魔法の中に格納していく。
そうしているうちに、俺たちから500ヤード以上離れているアラクランノイドが再び駆け寄ってくる姿が見えたため、俺はレナートを連れてギルドの中庭へ転移した。
◇
匿っていた真っ裸の兵士たち10名をギルドの医務室に預けて、俺とレナートが食事をしながら数十分間ほど応接室で寛いでいたら、復調した千人長と百人長が装備を整えてやってきた。
途中経過は通信の魔法で本部へ報告済みだったらしく、今回は千人長が同行していた事もあって事情聴取が簡単に終了し、すんなりと指名依頼の報酬を受け取る事が出来た。
辺境伯も「あの状況で損耗無し、負傷1という結果は僥倖である」と言ってご機嫌な様子らしく、かなり報酬を弾んでくれた。
俺とレナートが、駄目もとで今後の予定を訪ねてみたら千人長と百人長はあっさりと教えてくれる。
「ミュルミドネスやアラクランノイドどもについての今後の対応予定を聞いても構わないか?」
「ああ、問題ない。
ミュルミドネスについては強化人間部隊が順調に駆除を行っているが、アラクランノイドも明日から駆除を行う事が決まっている。」
「この街の兵力だけで、あの数を相手にするのは難しいんじゃないのか?」
「いや。全部を相手にするつもりはない。あくまでも我が国の領域にいる奴らを始末するだけだ。
それに万が一仕留められなくても追い払う事さえ出来れば、次に繋げる事が出来る。」
「しかし、ランク4程度の強さでしかないとはいえ、アラクランノイドの甲殻は異常なくらいに硬い。ランク5のレナートでも真っ二つにするには最低でも2撃が必要だったしな。
ランク5相当に改造した強化人間も未だそれほど配備されてないだろ?どうするんだ?」
「強化人間部隊は金が掛かるからな。それこそ本物のランク5ハンターを専属で雇い続けるのと大差ないかも知れん。そのため、暫くの間は現状の百人隊を維持するので精一杯のハズだ。
その代わりに、国王陛下と辺境伯閣下からの救援要請に応えて、周辺諸国にいるランク5ハンターが続々と集まって来ているとの連絡が先程あった。」
俺たちが来るまでこの国にはランク4以下のハンターしか居なかったため、駐留軍や諸行軍は基本的にスタンピードの時くらいしかハンターギルドに協力を求めたりしない。
つまり、隣国を滅亡に追いやった蜘蛛神の眷属が関わっている今回の件は、スタンピードと同程度の問題だと認識されている訳だ。
僭神の使徒が出てきたら、少なくとも一般市民の大半が死傷するのが普通なので、仕方ない事だといえる。
「僭神が関わっているのに珍しいな。」
千人長の説明に、レナートが不思議そうに呟いた。
スタンピードの場合には、ランク5以下の危険生物が大半を占める為、ランク5以上のハンターが救援に赴く事もあり得る。
しかし、僭神の眷属討伐の場合には、精神を汚染する能力を持つ眷属も過去には存在しているなど、相手にどんな能力があるのか手の内が全く分からない事が多いので、ランク5以上のハンターが救援要請に応えるなどまず有り得ない。
実際俺だけでなく、ヘルガ、レナート、ヘレナ、ヴィクトリアも今まで他の街からの救援要請に答えた事は一度もないらしい。
「今回は、隣国で数十年前にどのような能力を有しているのか確認済みの僭神の眷属の残党刈りという名目になっているからな。」
「なるほどな。手の内が分かっている眷属が相手なら何とかなるし、眷属の死体は割高で買い取って貰える事が要因か。そして、ミュルミドネスやアラクランノイドはあくまでもオマケとして処理させるつもりだな?」
「その通りだ。しかも今回はランク6ハンターまでもが2人ほど参加する予定らしい。」
「そりゃあ、ホントに珍しいな。」
俺のファーストコンタクトは単独の下等竜だったし、使徒も8匹にまで増殖していたので実感がわかないが、一般的にはランク7の危険生物はレベルが低いモノほど番いで行動するし、ランク7相当の使徒は単体で大量の眷属を引き連れているものらしい。
そのため、もう少しでランク7に成れそうなランク6ハンターだけは、手の内が分かっている使徒を狩る事には積極的である、という様な事をヘルガが以前言っていた。
その後も十数分間ほど色々な情報も聞いて、俺たちが帰ろうとしたところで、百人長が明日の予定を告げる。
「そうだ。龍神像の確認も明日行う予定になった。よろしく頼む。」
「了解した。それじゃ、また明日。」
俺たちはギルドの中庭に戻ると、徒歩3分ほどの場所にある借家ではなく、『倉庫』の中にある自宅へ帰宅した。
<続く>
【人物紹介】
ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。
ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。ランク5ハンター。
ヴェラ……ヘレナの父方の又従姉妹。ランク3ハンター。
ヴィクトリア……ヘレナの父方の従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。
レナート……ヴィクトリアの同棲相手。ランク5ハンター。
ヘルガ……ヘレナの叔母。元ランク6ハンター。
ヘルミーネ……ヘレナの母方の従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。
ヒルダ……ヘルミーネの娘。4歳。
カール……ヘルミーネの同棲相手。ハンターギルドの渉外担当。ランク4ハンター。
ヴィクトル……ヘルミーネの母方の又従姉弟。ランク3ハンター。
【基本魔法紹介】
『凍結』……豪雪地帯で雪解け時に出てくる凍死体を再現したもの。対象を凍らせる。威力は個人の力量に比例し、接触している対象に発動する。
『氷湖』……物体が湖の氷に閉じ込められている光景を再現したもの。対象を凍らせる訳ではなく、指定位置周辺の動きを止める。距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。
『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。
『強化』……亜人の頑丈さとパワーやスピードを再現したもの。実際に筋力や筋肉を強化している訳ではない。
『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。
【秘伝魔法紹介】
『倉庫』……倉庫に居る光景を再現したもの。容量は個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出入り時には質量に応じた魔力を消費する。床が存在する正方体の空間で、人間が居住可能。
『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。
『爆破』……建物解体用の時限爆弾を再現したもの。モンロー効果により穿孔を穿つ事や爆切が可能。 威力は個人の力量に比例し、任意の方向や時間で発動出来るが、手元を離れると10秒程で霧散する。
『落下』……物体が落下する様子を再現したもの。対象は垂直落下に限らず任意の方向へ落下する。距離や質量や速度は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。
『気化』……水の蒸発を再現したもの。対象は液体に限らず、指定位置周辺の物質を昇華する。
距離や範囲や威力は個人の力量に比例し、任意の場所で発動するが、距離に比例して発動時間が遅くなる。
【その他】
シルヴェストル辺境伯領……主人公が転居してきた街。アロイジウス王国の最北端に存在する。
アロイジウス王国……アドルファ王国と深淵の森を挟んで真南に500マイルほど離れた所に在る隣国。
シグブリット辺境伯領……主人公が住んでいた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。
アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。
ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。
アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。




