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とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
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第34話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第34話




 シグブリット辺境伯の要請により寄生生物を攻撃する事は自己防衛でしか出来なくなったが、気にしなければ実害が有る訳でもないので、俺とヘレナは翌朝から岩石地帯や深淵の森で狩猟を再開する事にした。


前回の作戦時に最後に救援に赴いた場所である、深淵の森に1マイルほど入った所に転位し、そこから奥へ向かって狩猟を行いながら進んでいく。


キメラ以外のランク5以下の生物との戦闘で今のヘレナが手子摺る訳もなく、15マイルほど奥までは殆ど歩みを止めること無く進んできたのだが、数十ヤードほど先の正面に聳え立っている大きな樹木の方から何か妙な気配を感じた瞬間に俺は急に立ち止まった。


「どうかした?」


俺が急に歩みを止めた事について、ヘレナが訝しげな顔で尋ねてきた。


樹木が太すぎて『探査』の魔法ではその裏側に隠れている存在を感知出来ない。


「何かが隠れている。」


俺がそう答えると、ワーウルフ第4形態みたいに裸眼では見えるのに『探査』の魔法では全く感知出来ないタイプが存在する事を経験しているヘレナは、徐ろに臨戦態勢をとった。



 久々に亜人から長柄の武器で襲われた、それも正々堂々と。


マフィアの抗争だろうが国家間の紛争であろうが、武器を使用して集団で不意打ちするのが命を掛けた争いの基本であるのに、コイツは一体何を考えてこんな果たし合いみたいな事をしているのか、俺には理解出来ない。


大きな樹木の影から現れたそいつは、気配を隠すこともなく十数ヤードの距離まで近づくと俺に向かってハルバートを突きつけた後、ヴィクトリアの縮地みたいな素早さで、俺の目の前に瞬時に移動して斬り掛かって来た。


 槍術だけに限って言えば、俺とまともに打ち合うことが出来た人間は最高師範たちくらいのもので、外人部隊時代にも着剣した小銃や短槍などで敵兵を数え切れないほど殺して来たが2合以上打ち合えた者など皆無だったし、俺に確実に勝てる者に至っては宗家ただ1人しか居なかった。


以前戦ったワータイガーも4合しか打ち合うことが出来なかったが、この竜頭人身の生物は既に10合以上打ち合っている。


但し、あのワータイガーは俺の打ち込んだ刃を棟で受けるか、鎬で受けて逸らしていたが、コイツは刃に刃を打ち合わせて受け止める様なド素人なのに、俺よりも圧倒的に速い瞬発力と反射神経だけで強引に凌いでいる。


 人間は、目に異物が入ると反射的に瞑るし、首が閉まると反射的に振りほどこうとするし、関節を極められれば折れないように反射的に力を入れてしまう。同時にこれらの状態にしてから投げる、これが所謂奥義の原理である。


基本的に初見殺しではあるが、数十種類ほどの反射行動を幾つか組み合わせて詰んだ状態にしているので、実は仕掛ける側にも決め技の選択肢が1つか2つしかない場合が多い。


そのため、目を潰されたり、首を締められたり、関節を折られても怯まない様な者が決め技の対応策を知っていると、逆に仕掛けた側が不利な体勢を強いられる事になる。


 そして、コイツも親指を圧し折り、片目を潰し、手首を捻り折り、足の指を踏み潰し、片耳を引き千切ったのに反射行動を一切とらない。


かと言って痛覚が無いという訳でも無いみたいで、俺から離れると負傷箇所を痛そうに押さえる行動をする。


治癒魔法なのか、治癒能力なのかは分からないが、何度傷つけてもいつの間にか負傷箇所が治っていて、このままではいつまで経ってもケリが付かない。


 いつの間にか俺の口から笑い声が漏れていた。


それに気づいたのは結構大きな笑い声になってからだった。


武術とは身体能力に優るヤツに勝つために生まれたモノなのに、それを身体能力だけで凌ぐというのは、俺にとっては未知との遭遇でもあるから面白くて楽しくて仕方がないのだろう。


 ヘレナの呆れたような視線を感じて笑うのを止めた俺は、敵から眼を反らさないまま、深呼吸して臭いを嗅いだり唇を舐めたりして嗅覚や味覚が機能している事を確認し、敵に集中しすぎて失っていた視野の狭さを回復させる。


自分の五感すら認識出来なくなるほど余裕をなくしていたら同格以上の敵に勝てる訳がない。


 そして、とうとう俺が武器をショヴスリに持ち替えようとしたのは、ポール・アックスでは修めた槍術を十全に発揮出来ないと無意識の内に判断したからだと思う。


『収納』の魔法で格納しておいたショヴスリを取り出して構え、俺がポール・アックスを投げ捨てた直後に、大きな樹木の影から竜頭人身の生物がもう1匹現れた。


しかし、特に襲い掛かってくるという事もなく、竜頭人身の生物2匹で話し合しを始めてしまった。


俺にもステータスを読取る余裕がやっと生まれた。



【名称】

 ヒト型爬虫類 ダイノサウロイド科 ドラゴニュート

【レベル】

 192



 ワイバーンやワーウルフ第3形態と同じくらいのレベルの生物である。


最高速度や最大パワーはワイバーンやワーウルフ第3形態の方が圧倒的に勝るが、初動速度や機敏な対応力などはドラゴニュートの方が遥かに優れているので、小銃のような高速連射が出来る筈もない魔法攻撃などでは、一度接近されたら為す術もなくなる。


少し離れた場所に居るヘレナが呼吸を乱しているが、ドラゴニュートが2匹とも同程度の腕前なら、魔法攻撃がメインのヘレナでは太刀打ち出来ない事が本人にも分かっているから焦っているのであろう。


 先程まで俺と戦っていた方のドラゴニュートが、突然俺に向かってハルバートを突きつけたあと、2匹揃って森の奥へ消えていった。


「アイツは何がしたかったんだ?」


「さあ?」


俺の独言にヘレナが答えたあと、暫くしてから2人して同時に大きな溜息をついた。


「帰るか。」


「ん。」


気勢を殺がれた俺がそう告げると、ヘレナも気怠そうに同意した。


ポール・アックスを回収すると俺は、ヘレナを抱き寄せてから、『転移』の魔法でハンターギルドの中庭へ移動した。



 ハンターギルドの解体場に移動したらヘレナは、ここでも職人と言った雰囲気の60歳くらいの男性に声を掛け、2つの作業スペースを借りた。


2人共そのスペースに『収納』の魔法で格納しておいた自分の獲物を並べた。


今日の獲物にも1匹含まれているが、ヘレナが今まで狩った事のある亜竜はバジリスクだけである。


そして、俺の獲物にも3匹の亜竜が含まれているのだが、体長約26フィート、体重約4400ポンドもの巨体がヘレナのと合わせて4匹、しかも全て別の種類の亜竜が並んでいるので、解体場には人集りが出来てしまった。


暫くすると先ほどの爺さんが人集りを掻き分けて中学生くらいの少年を6人ほど連れてきた。


 爺さんが俺たちの獲物の種類と数と状態を書類に記入している光景を俺は腕組みして眺めていたのだが、脚に何かがぶつかったのでそちらを見てみると、幼い子供が俺の脚に抱きついて俺を見上げていた。


「君は誰だい?」


俺は腕組をやめて、その娘の目を見ながら問いかけた。


「ヒルダ!」


その娘はニコッと微笑んだだけだったが、ヘレナから回答を得られた。


「ヘレナ。」


その娘もヘレナの存在に気づいたようで、そう言いながら今度はヘレナの脚に抱きついた。


この娘が昨日話していたヘルミーネの娘さんか?


「やあ、変わったショーを開いてるね。」


俺がそんな予想をしていると案の定、人集りを掻き分けてヘルミーネが現れ、俺に声を掛けてきた。


「引き続いて解体ショーもやるから、堪能してくれ。」


「おやまあ、ジャックポットじゃないか。」


ヘルミーネの挨拶に俺がそう返すと、今度は後ろからヘルガの声が聞こえてきた。


「そんなに珍しいものか?」


「私もこの街でタラスクを見るのは初めてだね。」


「生態系がジルヴェスター辺境伯領と違うのか?」


「この街の水源になっている大きな川は深淵の森を通らないし、この辺りの深淵の森の中の川は細いから、タラスクが巣を作るのに向いてないだけだよ。」


「なるほどな。ありがとう、ヘルガ。

ところで、ヘルミーネ。ヒルダが見も知らぬ俺に抱きついてきたんだが、あの娘は人懐っこいのか?」


「いや、何方かというと人見知りする娘だよ。でも、あんたはあの娘の亡くなった父親に似てるからね。」


「何だい、まさか子供の扱いに慣れてないのかい?」


ヘルミーネからの答えのあとに、今度はヘルガが俺をからかってきた。


俺は小学校の全校生徒が50名くらいしか居ない様な郷で育ったから、年下の子の面倒を見るのには慣れている。


それに俺は、腹筋の割れている巨乳の女性相手にしか勃たないので、子供に欲情するような異常者でもない。


しかし、テロに使われた子供たちを大勢見てきたせいで、つい距離をとってしまう癖がある。


「そんなところだ。それよりもヒルダの亡くなった父親というのは俺とそんなに似てたのか?」


「うーん。あの人は顔以外は毛むくじゃらだったけどあんたは体毛が殆ど無いし、顔の作りもそんなに似てないかな。でも、肌や髪や瞳の色は同じだし、体格や雰囲気はソックリだね。」


ヘルガに答えた後、俺が顔を見て問いかけると、ヘルミーネはそんな事を言った。


要するに、体格と黄色人種という点が偶々似ていたからヒルダが父親と勘違いしたという事か。


「そうか。」


「ソード。抱っこして!」


俺がヘルミーネに答えた直後、俺の足元でヒルダが両手を俺に向けて伸ばしながら満面の笑みでそんな事を強請ってきた。


「え?」


「任せたよ。」


郷の子の面倒を見ていた頃みたいに言われるがまま無意識にヒルダを抱き上げてしまってから、俺は自分の行動に疑問を持ったがそれに答える者はなく、代わりにヘルミーネがそう言うと受付の方へ歩いて行ってしまった。


「ソード、あっち。」


その後はヒルダの望むままに次々と亜竜の傍を見て回る事になった。


 この世界にも当然ながら父親とか母親といった概念は存在するが、子供はパパとかママなどとは呼ばずに親を名前で呼ぶ。


逆に名前で呼ばずにパパとかママなどと呼んだり、敬称を付けていたら疎遠だと云う事になるらしい。


欧米で兄や姉を呼ぶ際に兄さんとか姉さんとは呼ばず、名前で呼ぶのと同じ様なモノだし、ミスターやミズを付けるのは親しく無い相手だけなのと同じ様なモノだと思う。


この辺りは日本人の感覚だと違和感があるものの地球にも似た様な文化の国は沢山あるので仕方がないのだが、区別がつかないのも事実だ。


「(もしかしてヒルダは俺を父親と思い込んでいないか?

しかし、ヘルミーネから父親は死んだと未だ聞かされて無いかもしれないのに、君の父親は死んだ、と俺の口からヒルダに言うわけにもいかない。

きっとヘルミーネは、この状況を何処からか覗いて楽しんでいやがるな。)」


俺がそんな予想をしていると、タラスクから剥ぎ取られた大きな甲羅を見つめながらヒルダが声を掛けてきた。


「ソード。凄いねぇ。」


「そうだなぁ。」


日本人の感覚からすると、こんな幼い子供に動物の解体シーンを見せるのはどうかとも思うが、地球の後進国と同じ様にこの世界の子供たちは、これくらいの年齢の頃には家事としてニワトリみたいな鳥やウサギみたいな動物を捌くのが日常茶飯事なので、今更ヒルダ1人を注意しても無意味な事である。


「ソード、ありがとう。ヒルダ、そろそろ帰って食事にしようか。」


「うん。」


亜竜の解体が終わった頃にヘルミーネがそう声を掛けてきた。


「ほら、ソードに挨拶しな。」


「ソード。バイバイ、またね。」


ヘルミーネが俺からヒルダを抱きとりながら促すと、手を振りながらヒルダがそう言った。


「ああ、またな。気を付けて帰るんだぞ。」


「うん。」


その後、ヘルガやヘルミーネとも挨拶をして別れた。


「寂しい?」


「そうかもな。」


ヘルミーネたちが去ったあと、ヘレナが問いかけてきたのでそう答えたが、俺は生れつきそういう感情の起伏が小さい人間なので、そんな殊勝な気持ちは感じていなかった。


それに、同じ街に住んでいる訳だし、ヘレナの親戚なんだから会おうと思えばいつでも会える。


「帰ろ。」


俺がヒルダの相手をしている間に買い取り代金を受け取っていたみたいで、硬貨の入った小さな麻袋を差し出しながらヘレナはそう言った。


「そうだな。」


俺たちもハンターギルドを後にして家路に着いた。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。


ヘレナ……ソードと同棲中。ランク5ハンター。


ヴィクトリア……ヘレナの従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。


ヘルガ……ヘレナの叔母。ランク6ハンター。


ヘルミーネ……ヘレナの従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。



【魔法紹介】

『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。


『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。

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