第33話
■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。
第33話
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浅い領域から寄生生物を駆除する作戦の計画がまとまった3日後の1000時、状況開始となった。
第一段階初日の今日は、最西部から東方向へ幅約6マイル、岩石地帯から深淵の森の1マイル程奥までのごく浅い領域にいる寄生生物が標的である。
本作戦には、ランク5ハンター1名とランク4ハンター5名で編成された24個分隊と、ランク4ハンター5人で編成された6個分隊が投入されている。
現在この街に居るランク4ハンターの4割とランク5ハンターの3割は、アドルファ王国から転居してきた者たちではあるが、勝手が多少異なるとはいえ彼らが普段活動している領域であり、標的ではない危険生物への対処にも慣れている筈である。
驚いた事にここ数十年以上に渡って、寄生生物に操られた動物と交戦した記録が存在しないが、それ以前の記録や標本によれば、小指ほどの大きさの生物が脳ミソに寄生して2足歩行させているだけで、その他の行動は宿主の生物と変わらないとされていた。
事前調査と威力偵察も兼ねて、俺とヘルガで魔法を使わずに数匹ほど狩ってみた際には特に変わった反撃もなかったので、大した脅威ではないと見込んでいた。
ところが作戦開始後、1時間も経たぬ内にランク4ハンターだけの分隊から、救援要請の合図である『光球』の魔法が上がった。
即座に俺は作戦本部から、上空数十フィートに打ち上げられた『光球』へ向かって『転移』の魔法で移動し、新しく購入した『浮遊』の魔法を何度か使って空中から駆け下りた。
この『浮遊』の魔法は、羽根が空中を舞う様子を再現したものである。
空気を固めて翼のような断面をした板を作り出し、高所から落ちた時に幼児でも怪我しない程度の速さにまで落下速度を抑えるだけのものだが、転移時に何度か空中へ放り出されて痛い目にあった経験から対策用に購入しておいた。
救援に駆けつけた先でランク4ハンターたちが対峙していたのは、口から飛び出しているヒトデみたいな触手をウネウネと動かしながら、2本足で素速く動き回る体長13フィートほどのクマであった。
「おいおい!マジかよ、全く。」
まるで、ビデオゲームのレジデントエビ○に出てきたマジニの口から飛び出しているプラ○ガみたいである。
先ほど『光球』の魔法で閃光が放たれたのにコイツは特に何とも無い様子なので、当たり前かも知れないが、閃光が弱点という訳ではないらしい。
「残念だが、今は関わってられないんだ。」
俺は左手で『投影』を発動しながら足止めのつもりで、頭蓋骨と寄生生物と心臓を結ぶ線を狙って右手のポール・アックスを斬り下ろしで叩き込んでみたのだが、呆気無く仕留めることが出来た。
寄生生物の死体を一通り検分してみたが、どうやら脳ミソや心臓にまで糸みたいな根を張っているみたいである。
「一体どうしたんだ?」
「クマの心臓を背後から一撃で貫いたあと、回収しようと近寄ったら、口から突然触手が飛び出してきた。
触手には一切攻撃が通らないし、身体へどれだけ攻撃しても動きを止められなかった。」
俺の問いかけに、ジルヴェスター辺境伯領で見た事のある顔のランク4ハンターがそう答えた。
クマの身体には深い切創や銃創がところどころにあるが、ヒトデみたいな触手は無傷なので、彼らでは寄生生物を殺せなかったみたいである。
「恐らく、コイツは宿主の動物だけが先に死ぬと寄生生物が変異するパターンだな。」
俺としては更に変異されても別に構わん、というか是非見てみたいが、そのために死人が出るのは寝覚めが悪い。
俺は即座に、『光球』の魔法を上空に向けて3連射し、総員撤退の合図を送ったのだが、時既に遅く、立て続けに救援要請の合図である『光球』の魔法が上がった。
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あの後3箇所へ救援に赴いてから本部へ戻って、ハンターたちが撤退してくるのを待った。
結局、あのヒトデみたいな寄生生物は、俺が始末した4匹とは別に23匹が始末されていたが、仕留めたのは全てランク5ハンターで、ランク4ハンターでは刃が立たなかったそうである
当初想定していた寄生生物に操られている動物も約20匹が仕留められているが、こちらはランク4ハンターが始末していた。
地球での生物の分類とは全く異なっているが、ステータスによると当初想定していた寄生生物は、鉤頭動物科の『ネジレ虫』と言う名称であり、ヒトデみたいな寄生生物は、キメラ有櫛動物科の『下等従属化虫』という名称だったので、全くの別物だった。
そしてキメラという言葉が付いている以上、これは人工的に作り出された生物である可能性が高い。
一通りの情報収集と状況把握が終わったところで、ハンターたちは一旦解散となった。
◇
俺と一緒に会議室に残っているのはヘルガとヴィクトリア、それとヘレナとヘルミーネの4人だけで、、他のギルド職員はシグブリット辺境伯への報告などの事後処理を行いに会議室から出て行った。
「どうするんだい?」
「折角のチークタイムだったのに、ランク4ハンターは断られたみたいだしな。
次はランク5ハンターだけで、有無を言わさずにタンゴに誘ってみるか。」
楽しそうな顔をしながらヘルガが尋ねてきたので、俺はそう答えた。
「見てるだけじゃ詰まらないからね、その時には私も参加するよ。」
「じゃあ、ランク5ハンターには残りモノを任せて、俺たちで先にステージに上がるか。」
「第二段階で予定していた3マイル奥まで一気に始末するのかい?」
「いや、先ずは第一段階を確実に終わらせる。
ヴィクトリア、聞いての通り作戦変更だ。
明日からは俺たちが先陣を切り、ランク5ハンターに残党狩りを任せ、ランク4ハンターは後詰に回す。
詳細を詰めるから関係職員を集めてくれ。」
「分かりました。」
十数分後には関係職員が全員集まったので会議を始めた。
一つの役がどれだけ重要でもそれは全体の一部に過ぎないので、全体の調整は基本的に前回と同様にギルドの上級職員に任せ、俺とヘルガは実務上の話しだけに絞って打合せを行った。
またしてもヘレナとヘルミーネは、一応この会議に参加していたのに船を漕いでいただけだった。
そして、作戦の詳細が漸くまとまった頃、会議室に突然ギルドマスターが入って来た。
「たった今、辺境伯から今回の件についての中止要請があった。」
「どうゆう事ですか?」
「はっきりとは言わなかったが、どうやらアノ寄生生物には辺境伯の研究所が関係している様だ。」
ヴィクトリアが立ち上がって尋ねると、ギルドマスターがそう答えた。
「やはり、名称にキメラとあったのは人工的に作り出したという事でしたか。」
「本作戦は現時刻を持って一旦凍結とする。関係各位に早急に伝えてくれ。以上だ!」
「了解しました。」
◇
ヴィクトリアを除く職員は、関係部署への連絡のために会議室から駆け足で出ていった。
「なあ、ヴィクトリア。
シグブリット辺境伯の研究所でも、ジルヴェスター辺境伯の研究所みたいな事をしているのか?」
「生体兵器という意味でしたらその通りです。
アドルファ王国直轄の研究所と同程度の低品質ですが、十数倍の規模で行っている筈です。」
「じゃあ、ここではあの下等従属化虫とかいう寄生生物のキメラを作り出せるのか?」
「その可能性は高いと思います。
この街の地下には、ジルヴェスター辺境伯領にあった地下隔離施設の数十倍以上の広さの地下遺跡が存在していて、研究所や実験場もそこにあるそうです。
それと、一応塞いではありますが、この地下遺跡には迷路の様な通路が複数存在していて何処に繋がっているのかも分かっていません。
もしかしたら、あのキメラはその通路を抜けて逃げ出したのかもしれません。」
「なるほどな。ありがとう、ヴィクトリア。
じゃあ、俺たちは帰るか。」
「帰らない。」
立ち上がりながら俺が帰宅を促すと、ヘレナがそんな事を言い出した。
「ヘレナは、何処かへ寄るのか?」
「ヘルミーネの家。」
「ヘルミーネには今年4歳になる子供がいるんです。たぶんヘレナはその娘に会いに行くんだと思います。」
ヘレナが答えた後に、ヴィクトリアがそんな事を教えてくれた。
「そうか。気を付けて行ってきな。」
「ん。」
俺は帰路に着いたが、ヴィクトリアはそのまま会議室で何か書類を書き始め、その他の3人はヘルミーネの家へ向かった。
<続く>
【人物紹介】
ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。ランク6ハンター。
ヘレナ……ソードと同棲中。ランク5ハンター。
ヴィクトリア……ヘレナの従姉妹。ハンターギルドの契約責任者。ランク5ハンター。
ヘルガ……ヘレナの叔母。ランク6ハンター。
ヘルミーネ……ヘレナの従姉妹。ヘルガの娘。ランク3ハンター。
【魔法紹介】
『光球』……太陽の明るさだけを再現したもの。光だけで熱はなく、手元を離れると10秒程で霧散する。
『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。
『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。
『転移』……転移門の機能を再現したもの。自身だけでなく接触している任意の物体にも作用し、距離や容量は完全に個人の力量に比例する。
『投影』……蜃気楼を再現したものだが、秘伝と裏ワザにより実質的には荷電粒子砲。距離や威力は個人の力量に比例するが、数ヤードほどしか直進しない。発動までにタイムラグがある。
【その他】
シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。
アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。
ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。
アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。




