表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある狩人の追憶記  作者: 白眉万丈
第3章
32/78

第32話

■2015/08/15 誤字脱字の修正、及び表現の一部変更を行いました。

第32話




 是見よがしに少しだけ顔や尻尾を出して、俺たちに存在を感知させていたのはどうやら囮だったらしい。


直ぐ傍にある全長4フィートほどの大岩の影から突然、ネコ科の生物に襲い掛かられた。


この辺りの岩石は、薄い灰色をした岩肌に濃い緑色の苔が生えているので、このネコ科の生物の白地に灰色の模様は、遠くからだと目立つが近くだと迷彩になって気付き難い。


そして、岩が分厚過ぎるために、温度分布やエックス線を映像として視る事が出来る『探査』の魔法では、全く感知出来ない。


「ヘレナ!」


声をかけると同時に、俺の左手を歩いていたヘレナの襟首を掴んで引き寄せ、左後方から襲い掛かってきたネコ科の生物の口元に向かって、右手に握っていたポール・アックスを横一文字斬りに叩き込んだ。


口から上の頭部を分断されて転がっていったのは、体長7フィート程度のホワイトタイガーであった。


このホワイトタイガーもベンガルトラの白変種とそっくりで、アルビノではなく、普通のトラでは黄色になる部分の体毛が白色をしており、黒い縞模様の部分は色が薄い白化型である。


 ジルヴェスター辺境伯領に着いたばかりの頃の俺だったら、こんな糞重たい総金属製のポール・アックスを片手で振り回すなんてことは出来なかったが、転居前のヘレナたちのレベリングに付き合った御蔭で今ではレベル113にまで上がっているので、軽い物干し竿を振っている程度にしか感じない。


以前も『強化』の魔法を使えば同じくらいのパワーは出せたが、この魔法を使っている最中は息を止めて走っているのと同じくらいに苦しいので、長時間の使用は難しい。


次に俺の後方からもう1匹が襲いかかってきたが、これは振り向きざまにポール・アックスで頭蓋骨を狙って斬り下ろした。


日本刀で斬り付けていたら綺麗に切断してしまい、ホワイトタイガーの突進する勢いで俺たちまで吹き飛ばされていただろうが、ポール・アックスの刃は日本刀の数倍も分厚く重いので、切断するというよりはまさに叩き込んだという感じになった。


頭部を分断されて地面に叩き落とされたホワイトタイガーは、首の骨を折りながらひっくり返り、大きな音を立てて仰向けになった。


その直後には、少しだけ顔や尻尾を出して俺たちの気を惹いていた囮のホワイトタイガーたちが姿を消した。


「ヘレナ。負傷してないか?」


「勿体無い。」


「勿体無い?」


「ホワイトタイガーは不味いけど毛皮が高価。頭部が重要。」


「つまり頭部が無傷の状態で仕留める必要があるのか?」


「そう。」


取り敢えず、ヘレナが無傷の様で安心した。


ホワイトタイガーの死体を『収納』の魔法で格納すると、俺たちは再び深淵の森を目指した。



 この辺りの深淵の森には、寄生生物が生息している。


4足歩行の生物に寄生して、2足歩行する亜人のように擬態させ、だまされた亜竜がこれを捕食し、亜竜の体内で卵を産み、亜竜の糞と共に卵が排出され、その糞を4足歩行の生物が食べて体内で成長する。


人間や亜人の体内では卵が孵る事はないらしいが、ハンターギルドでは寄生された生物を買取ったりせずに廃棄する決まりとなっているし、腹を空かせた亜竜の餌に丁度良いので、亜人ではない生物が2足歩行していたら、狩ったりせずに無視するのが不文律となっていた。


そんな生物を放置したら却って繁殖するんじゃないのか、と思っていたが案の定、オークでもないのに2足歩行するイノシシなどの姿を浅い領域でも結構な頻度で見掛けた。


その姿をみていたら何となく、サーカスで2足歩行する象を見た記憶が蘇った。



今日は様子見だけをしたら早めに切り上げて、ギルドへ戻った。


獲物を買取って貰った後、ヴィクトリアが丁度休憩時間に入る事になったので、俺たちも酒保で一服しながら先ほどの光景を話した。


「あの浅い場所は亜竜の領域でもないから、たまたま糞をした亜竜がいたのだろう。

だから、あの寄生生物に操られた動物たちがいるのだとは考えられる。


しかし、亜竜が常にあの辺りにいる訳でもないし、次に現れた時に必ずしもアイツらを捕食するとは限らない。

次もまたアイツらを捕食せずに糞をしただけで、亜竜が去って行ったら、更にアイツらが増える事になる。


この街の食肉の価格がジルヴェスター辺境伯領よりも割高なのは、アイツらが多いせいで広い範囲を狩猟しなければならない事が原因の一つだ。


なあ、ヴィクトリア。浅い場所からアイツらを一度駆除すべきではないのか?」


「分かりました。ソードが駆除する、と言うならマスターに掛けあってみます。」


ヴィクトリアはそう言うと直ぐ様立ち上がって2階の部屋へ向かっていった。


「え?何で俺が駆除しなければならないんだ?」


「ソードが自分でそう言った。頑張って。」


ヴィクトリアの後ろ姿が見えなくなった頃に、俺が尋ねるとヘレナがそう答えた。


俺は「ハンターギルドの手で駆除すべきである」と言ったつもりだったが、この世界の言い回しに慣れていないせいで、どうやら「俺の手で駆除しなければならない」と言った様に受け取られたみたいだ。


若い時には買ってでも苦労しろと云われるが、今回の件でわざわざ面倒事を買って出ても、自分を鍛える事や成長に繋がらない気がする。


どちらかと言うと本日の教訓として、口は災いの元、という諺を思い知っただけだ。



 この大陸では、血継の秘伝の存在があるので、親子兄弟ではあっても同じファミリーとは限らず、誰の秘伝を受け継いでいるのかでファミリーが決まる。


ヘレナの祖父であるオリンピオの秘伝は、既に他界したがヘレナの母親であるヘンリエッタと、ヘレナの異父姉妹の姉であるヘラが継承しているので、ヘレナはオリンピオのファミリーではない。


ヘレナは父親であるヴィンセントとヴィンセントの父親の秘伝を継承したファミリーである。


ヴィクトリアの母親であるヴェネッサは、ヴィンセントの妹ではあるが、ヴェネッサの母親の秘伝を継承した別のファミリーである。


そしてこの街には、ヘレナの母親であるヘンリエッタの異父姉妹の妹のヘルガと、その娘のヘルミーネがいるが、ヘルガの母親の秘伝を継承している。


 ファミリーではなくても、親戚に変わりはないので仲は良いのだが、ヘレナとその従姉妹であるヘルミーネは全く似ていない。


ヘレナとヴィクトリアは黒髪ブラックヘア青色ブルーの瞳の黒人種ネグロイドだが、ヘルミーネは赤毛レディシュ緑色グリーンの瞳の白人種コーカソイドである。


オリンピオもヘラも黒髪ブラックヘア青色ブルーの瞳の白人種コーカソイドだったから肌の色が違うくらいなら分かるが、ヘレナやヴィクトリアと同じ21歳なのに、ヘルミーネは15~16歳くらいに見える童顔をしている。


その代わりにヘレナとヴィクトリアは巨乳だが、ヘルミーネは貧乳どころか、発達した大胸筋だけで膨らんでいるという感じである。


もしも口に出したりしたらマウントポジションでタコ殴りにされそうだから言わないが、ヘレナは叔母であるヘルガと同じ年齢くらいに見える。


ヘレナがヘルミーネに会えて嬉しそうにしながらも何となく不機嫌なのは、同じ年齢なのに親子ほどに違う見た目に腹を立てているのだと思う。


 ヘルガは、俺が来るまでこの街で唯一のランク6ハンターだったが、ヘルミーネはランク3ハンターである。


天才と呼ばれているヘレナやヴィクトリアが例外であって、この年齢ならこれが普通らしい。



 俺が要らん事を口にしてしまった為に、浅い領域からの寄生生物の駆除が実施される事になり、この1週間ほどは俺とヘルガとギルドの上級職員とで作戦の概要を取りまとめていた。


ヘルガと初めて顔を合わせた時に、彼女から最初に掛けられた言葉は「あんたも奇特なヒトだね。」だった。


ギルドの上級職員もランク5以上のハンターたちも、やらなければならない事であるのは分かっていたが、言い出しっぺが割りを食う事も分かっていたので、誰かが言い出すのを待っていたらしい。


今回は、シグブリット辺境伯領内にある深淵の森の最西部の浅い領域に、ランク4以上のハンターを南北に並べて、最東部まで寄生生物の駆除をしながら進むだけの単純な作戦だが、前例がないので何かが起きた時にどう対処するかなどの対策案を事前に取り決めるのに時間を要した。


明日ランク4以上のハンターへ招集を通知しておき、明後日ランク5ハンターへ詳細を説明し、明々後日から作戦の開始である。


ヘレナやヘルミーネも一応この会議に参加していたが、2人とも船を漕いでいただけだった。



<続く>

【人物紹介】

ソード……主人公。本名は、惣田真悟。ステータス上の名前が、シングル・ソード。


ヘレナ……ソードと同棲中。傭兵ギルドの教育担当。


ヴィクトリア……ヘレナの従姉妹。ハンターギルドの契約担当。


マティアス……ヴィクトリアの父方の祖父。ハンターギルド、ジルヴェスター辺境伯領支部のマスター。


オリンピオ……ヘレナの母方の祖父。傭兵ギルド、エスパダニャのマスター。


ヴェネッサ……ヘレナの叔母。ヴィクトリアの母親。



【魔法紹介】

『探査』……亜人の視力や視覚を再現したもの。実際に視力を強化している訳ではなく、周囲へ魔素を放って反響する魔素を知覚し、視覚と共感覚を引き起こしているだけなので、可視光線以外の映像を視ることも出来る。


『収納』……麻袋などに物体を放り込むという光景を再現したもの。自由に出し入れできる収納空間。容量や時間の流れは個人の力量に比例し、一度構築すれば状態の維持に魔力は消費しないが、出し入れ時には質量に応じた魔力を消費する。生きているモノも入れられるが、消失する事がある。



【その他】

シグブリット辺境伯領……主人公が転居してきた街。アンブロシウス王国の最南端に存在する。


アンブロシウス王国……アドルファ王国の北東に800マイルほど離れた所に在る隣国。


ジルヴェスター辺境伯領……主人公が最初に辿り着いた街。アドルファ王国の最南東に存在する。


ミクローシュ辺境伯領……アドルファ王国の最北東に存在する。


アドルファ王国……ジルヴェスター辺境伯領が所属する国。碧翠大陸の中央辺りに存在する。


碧翠大陸……アドルファ王国が存在している大陸。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ