第8話 明けない夜
……俺は挫折を知らない子どもだった
勉強も運動も人間関係も苦労したことは特になく、自然と「俺が誰かを守るのは当然」という驕りがあった
大学の時、サークルで顔を合わせた新入生の朝子に告白をされたのがきっかけで、付き合い始めた
朝子の親戚には警察官僚がいて、俺は自然と「正義」の道に進むことを選んだ
警察官は誰かの暗闇を照らす事ができる仕事だと思った
俺は俺の「正義」が肯定される仕事に就けて満たされていた
そんな時……俺は汚職を見つけた…組織ぐるみだった……朝子の親族も関係していた…
俺は、俺は何も告発できず、結果として警察官を辞職した
朝子には何も言えなかった
両親は俺を今まで見たことがない目で見た
「根性が足りない」
母には泣いて揺さぶられ、父には殴られた
俺は自暴自棄になり、朝子はいなくなり、でも酒を飲んでも酔えなくて、
そんな時
「酔えないくせに酒が好きなのかい?ガハハ、ならBarの仕事でもやってみるかい?」
たまたま入った飲み屋のマダムが俺をそう誘ってきた
警察とは関係がない仕事…いいかもれない…
俺は深く考えずに頷いた
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そんな風に店を始めて数年が経った
やる気がない俺が運営するBarは流行らない
いつも通り、客がいない店内に、見た目も口も軽い若い男が飛び込んできた
聞いてもない事をべらべらと一方的に話す男
急に話すのが止まったので、視線を上げると目が合った
あの日の俺だと思った
「うちで働くか?」
つい、こぼれ落ちたあの言葉
俺が言われたかった言葉だった
あの日、両親に、朝子に、
ただ傍にいるだけで、それだけで良いと言われたかったんだ