第9話 溶けあわない夜
朝子さんが去った店内は静かだった
店長のグラスを拭く音は消えている
俺の頭にはさっきの店長の顔が浮かんでいた
(今なら…今なら…)
俺の中でずっと形にならずに隠れていた欲望が顔を出した
勇気をだして、甘えたら、
店長は無関心を貫かない気がした
自分の心のぜんぶ明け渡せる人
何も怖がらずに甘えられる人
素直に浮かんだ言葉を話せる人
俺はずっとそんな人が欲しかった
あの日、店長に声をかけられた時、
きっと俺はそれを店長に期待していた
きっと…それは……幸せで………
俺にとっては幸せで、
(でも、きっと、それは店長を壊すんだろう)
俺は…店長のこと…どう思ってるか分からない
分からない…じゃない。理解しちゃいけない
おれは”溶け合わない”
(だけど…っす)
「ねぇ〜店長ぉ〜」
「客もいねぇし、カクテル作ってみてもいいっすか?」
「…………」
「いつも店長の見てたから簡単のなら作れるはずっす!」
俺はそう言って、店長の返事も無関心も待たず、酒を作り始めた
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「よっしゃー!店長ぉ〜これ飲んでくれっす!」
いつもの様に軽く笑いながらそう言って、
作ったカクテルを手渡した
「……………」
店長は俺の手からグラスを受け取ると、静かに飲んだ
「……何混ぜたんだ」
「ニューヨーク…色が綺麗なんすけど。カクテル言葉が大人の恋ってなんか違くないっす?」
「だからカシス足してみたっす!!」
「夜が混じって、いまっぽいっすよね!」
夜が明ける
ニューヨークのカクテル言葉:大人の恋、またニューヨークの日の出の様だと評される




