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20話

 魔法少女として働く事となって数か月が経ったころ。

 久しぶりの完全休日をかなり満喫していた。

 休みたいという気持ちがある訳ではないが、俺にとっては一日中男で居れる日。


 既に心の休まり方が全然違うので、今後もこの日は大事にしたいという気持ちがより一層高まった。


「しまった……スマホの充電し忘れた……」


 湖の見える公園にて、別に湖を見ずに過ごしていて気づいた。

 思うに、これは遠くから来た人しか利用していない気がするがそれはさておき。


 現代っ子ではあるが、実を言うとスマホを多用していない。

 全く使っていない訳では無いのだが、うっかりするとバッテリ切れになる程で……意識を「せめて持ち歩く」のラインギリギリにしか割いていなかった。


 こんな自然豊かな場所で人間社会に接続できるデバイスが利用できないとなると、いよいよ自然に置き去りにされた感が強くなってくる。


 まあ、そんな日があってもいいか。そう思ったその時だった。


「ちょっとー、そこのお兄さん。」

「……俺?」

「他に誰が居るのさ! 避難指示が出てるんだから早く逃げてくれないと!」

「あー……しまった……」


 男の魔法少女として活動するようになった今、避難指示は俺にとって全く逆の意味を持つ単語になってしまった。

 それ即ち出勤の報せという事だが……幸い今日は非番と言うことで、連絡がつかずとも何かしらのお咎めが発生する事は無い。


 しかし非番であれば避難指示は再び反転して、元の意味を持つ事をすっかり忘れていた。


「しょうがないなぁもう……連れて行ってあげるから大人しくしてね。」

「大丈夫大丈夫! 場所は分かるから……それじゃ――」

「ダメだよ! こんな場所に置いていける訳ないじゃない!」


 恐らくだが、ほぼ間違いなくこの子は俺を一般人と認識している。

 男である時点で魔法少女である可能性というのは本来0なのだから、当然と言えば当然だろう。

 であれば話は合わせておいた方が、彼女に余計な心配はかけないだろう。


「1番近い所ならすぐだから……掴まって!」


 飛行タイプの魔法少女らしく、まずは一般人を安全な場所に連れて行く段階。

 であれば俺はいつもと変わらない。変身しても別に飛べるようにはならないし、そもそも人前で変身するなと言われている身。

 それでも最悪の場合は隙を見て変身する事はあるだろうが……今はその時ではなさそうだ。


 そう判断し手を掴んだ。

 が、身体が持ち上がる事は無く、むしろ魔法少女の方が徐々に高度を落としている。

 最初は頭の上程の高さに飛んでいたが、もうほとんど着地している。

 逃げるという話ではなかったのだろうか?


「まずい……時間切れだ……」

「変身って時間あるの?」


 基本的には無い。少なくとも俺も朱華も変身時間という制約がある魔法少女ではないし、見た事もなかった。


「えーと……私は時間制限があって……マジックナンバーって言うんだけど、こんな事お兄さんに言ってもしょうがないよね。」


 分かるには分かる。が、やはり面倒なので適当に話を合わせておくことにした。


「しまったなぁ……次の変身もちょっと……時間がかかるし……」

「それもマジックナンバー?」

「いや、これはその……」


 少女が言い淀んだその時だった。


 視界の端に、銀色に光る何かを見た。

 それを認識した途端に脳に届く匂い……これは……スーパーの奥や商店街で感じた事が……


「魚!?」


 地面に刺さるとコンクリート塗装が途端にぬかるみ出した。

 自然に魚が降り注ぐ事はあっても天然物が刺さる事はほぼ無いだろうし、コンクリートが液化する事などもっと有り得ない!


 身の危険を感じ、地面に沈みゆく魚を思い切り蹴った。


 ギリギリなんとか蹴り飛ばせた……が、それは無数居る中の1匹だ。

 こうしている間にも似たような魚は降り続いている。こうなるとスマホで天気予報が確認出来ない状態なのが憎い。


「ちょ、お兄さん!? その瞬発力があるなら逃げて!」

「君も今すぐには戦えないんでしょ? だったら一か八かに賭けたんだけど……重いな……」


「いや、それはありがたいけど……! そうされると立場が無いというか……!」

「あとどれ位かかる? 体力は俺の方があるから、逃げて時間を稼ごう。」

「……10分だけ! 10分間だけ協力してくれると……!」


 流石に抱えて走るなんて程の体力は無いが、手を引きながら走るぐらいは出来る。

 ……最も、こんな変な攻撃の雨から逃げる目処は全然立たないが、とりあえず降ってきた方向から反対に向かって走ってみる事にした。


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