9記
「お嬢様、仮面舞踏会の準備が整いました。」
そう、協力ありがとう。アルフ。
我が主と認めたリリアーヌ嬢の忘れ形見のリリー様は、領地についての指示を出しつつ、仮面舞踏会を采配し、更にはメイドの君を妹として養子に迎えた。
元は、分家筋の村長の庶子らしいのだが巡りめぐって本家の娘預かりとなったらしいの。
「フィアのことも。
今日まで本人には黙っててくれてありがとう。」
フィアには幸せになってもらいたいから。
だから、サプライズにしたかったの。
それに、これは我がノーザンバード辺境伯家の汚点を注ぐ目的もあるわ。
私は、このノーザンバードを仮初めの領地として選んだのではない。
安住の地と思い、総領娘を継ぐ決意をした。
願わくば、私の子孫がこの地を守る強さを持つ辺境伯となるよう教育も惜しまないつもりだ。
もちろん、未だ学生の身の上であるから自らの教育もしかり。
ノーザンバードを守る一族の末裔としてきちんとその任と責務を果たすつもりだ。
「ああ、…なんと。」
なんと、この方は在りし日の主に似ておいでなのだろうか。
主の忘れ形見を新たな主に頂き、感激しないわけはあろうか。
この方を、新たな主と認めよう。
「舞踏会の前にいらしていただきたい場所があるのです。」
領主館の裏手にある墓地に新しい主を必ず案内すること。
それが、弱々しい、本当に主が書いたのかと疑うような弱さの筆跡の手紙に書かれていた。
死期を悟り、そのような命令をしたのだと今になればわかる。
「あなたを、ノーザンバード辺境伯と認めましょう。
我が主として認められる場合にはこの、代々の辺境伯家の一族が眠る墓所に案内することが先代の女辺境伯、あなた様の母君からの遺言でございました。」
どうぞ、こちらの墓碑に花を。
献花の花を手渡され、刻まれた文字を…。
ああ…。
…何てことなの?
「…ノーザンバード辺境伯家の総領娘をここに葬る
ヴァンプ歴5年冬
リリアーヌ=アイリス」
お母様…。
こちらの墓碑はアイリス伯爵家より分納していただいた…。
ああ、やっと会えたのね…。
アイリス伯爵はリリーの墓参りを今まで一度として許したことはなかった。
「リリー様、お体を冷やされてしまいますわ。
これを。」
大判のショールを巻き付けてくれたのは、今やリリーの唯一の親族となった娘。
まあ、リリー様を泣かせて。
アルプ様は一体何を…。
墓碑の文字に気づくと、我が事のように涙を流して優しい声をかけてくれる大切な妹。
泣きじゃくる二人を連れ帰るアルプはひそかに似た者姉妹であると確信をしていた。
同じ色の髪に同じ色の瞳。
容姿も似通っており、遠縁とは思えない血の濃さを感じさせる。
ああ、これはリリー様の妹御で間違いはなかろうと思った___。