19記
「…して、そなたの今後のことなのだが。」
父が夜明け前に亡くなり、少し落ち着いたと見計らった頃、領主様から私室に呼ばれた。
その場にはリード公爵夫妻と夫人の腕に赤子、そして、医師殿。
父と一緒にこの仕事のために王宮へ上がる時に言い聞かせられた。
これから見聞きすることは一生知らぬこと。
万が一、仕事中に父が亡くなってしまったら元いた家に帰らない、その後は経歴を偽って生きていくこと…。
「そなたはここに居る医師の倅ということにして生きてもらうことになった。」
ここにあるのは、この医師の倅だった者の死亡診断書類一式…。
手渡された書類には僕と同じ年に生まれ、その年に亡くなったという子供の死亡診断に関わる書類。
「領民の生死に関わる申し出を受け付けるのも領主の仕事。
何らかの事由にあって国に嘘をついて領民を守るのも、悪事だが領主の仕事だ。」
暖炉の火に死亡に関する記載がある書類を焚べていく。
すべての書類が燃え尽きて後、医師殿が新しい名前を教えてくれた。
「帰ったよ。」
夕暮れの街角の一軒の家。
今日から過ごすことになる場所。
領主様との会談を終えて、新しい身分証明の作成と即席の経歴を執事長と考えて。
古い身分証明は国に犠牲者の証明をする中に入れてもらった。
優しい香りの漂う中 、台所から顔を見せたのは医師殿がおしどり夫妻と言われるのも納得な女性。
「あら、どうしたの?そちらの方は?」
夕食の席で打ち合わせ通りに医師殿の郷里の遠縁に当たる者で、病気の父親の死を伝えに来たのだという事にする。
何かあれば息子を寄越して後のことを任せて欲しいと大恩がある恩人に伝えていた医師殿の言葉通りにこれから引き取る予定であると。
「勝手に決めてしまって申し訳ない…。
恩人の手紙を携えて領主を訪ねてきた彼を引き取らずに居られなかった。」
医師殿の迫真の嘘によって、医師殿の恩人の息子であり、養子として引き取られた形になった。
名前は偶然にも医師殿の息子と同じアレンという。
引き合わされた時に、驚いてアレンが帰ってきたような錯覚を覚えた。
白々しい嘘を横目にしながらも大人しくしている。
「そうだったの…。分かったわ。」
夫の嘘はもう何年も横にいるのだから、見抜くことができる。
息子のアレンと同じ名前、生まれ年も同じのこの少年はもう身寄りがないという。
夫が何らかの理由でもう引き取ると決めてしまっているのなら…。
数カ月と生きられなかった息子と思って育ててもいいのではないだろうか___。




