揉め事①
それからはずっとハンナと行動をともにした。
二人とも性格は全然違うけれど、不思議と気が合い、特にプリニワトークにはしょっちゅう花を咲かせていた。
ハンナはゲームシナリオでは孤児院育ちの平民でありながら、アカデミーに入学してくるらくらいの才女という設定であったため、その点についてハンナに聞いてみた。
「ヴェロたんさぁ、あたしのことバカだと思ってんでしょ?偏見ー。
あたし転生前もかなり頭良かったから!ちゃんと大学も通ってたし!」
その言葉通り、彼女は意外なことに本当に優秀であった。
アカデミーのテストでは1位を取っていたし、マナーの授業ではソツなくこなしていた。
でも、普段はなぜああなっちゃうんだ…という言葉はそっと飲み込んだ。
ハンナと仲良くするようになってひと月ほど経った頃、ヒルデガルド公爵令嬢とその取り巻き達に声を掛けられた。
「ヴェロニカ様、少しお話いいですか?」
「なにかしら、ヒルデガルド様?」
「あなた最近あの下品な話し方の転入生と仲良くしていらっしゃるのね。
あの子のそばにいるだけで公爵家の品位が下がるわ。
しかも孤児院育ちの平民!
わたくし、同じ公爵令嬢として注意したほうが親切かと思いまして。
あの方と一緒にいるのは控えたほうが良いんじゃないかしら?」
どうやらハンナは、転入早々アカデミー内で浮きまくってるようだった。
それもあの話し方と性格じゃあ仕方ないのかもしれない…。
「ハンナはとても良い子ですわ。私はハンナと仲良くしていきたいとおもっているの。ご親切には感謝いたしますが、余計なお世話というやつですわね。」
取り巻き達が「まあ!」みたいな声を上げていた。
そしてそのうちの一人が話しだした。
「ヒルデガルド様、あの平民はしょっちゅう黒曜石様を盗み見たり、周りをうろちょろしているんです。身の程知らずの無礼者ではないですか?」
ヒルデガルドの顔色が変わった。
「マティアス様の…?それは…見過ごせませんわね。」
この人たち、黒曜石様ファンクラブの人かぁ。
やっかいそうだな…。
「黒曜石様」 の一言で、ヒルデガルドのスイッチが入り、捲し立てて始めた。
「平民の分際で、王家の人間に媚を売るなんてはしたないと思いません?そもそも、成績が優秀というのも本当なのでしょうか?
まぁ幸い、見た目だけはそこそこ良いみたいですから?ヴェロニカ様の婚約者であられるベネディクト様あたりが気に入って個人的に推薦したのではないか、なんて噂も一部で立っているんですのよ。」
うわぁ、めちゃくちゃ正解じゃん。
ベネディクト…どんだけ女好きだと思われてんのよ…。
このことが後々どう影響するかわからないため、私は否定も肯定もしないことにした。
「仮に私の婚約者がそのようなことをしていたとしましょう。
それでもハンナ・ストランドの成績が優秀であることには変わりありません。」
私の発言に対してヒルデガルドが口を開こうとしたその時、呑気な声が聞こえてきた。
「ヴェロたん〜?どうしたの〜?」
「ハンナ・ストランド!」
ヒルデガルドがとてもご令嬢とは思えない顔で睨みつけた。
「えっなに?」
「あなた!黒曜…いえ、マティアス様の周りをうろつくのをやめてくださらない?あなたのような下品極まりない平民がマティアス様に好意を寄せるなんてもってのほかです!
身分不相応ですし、まずそんな慇懃無礼な話し方で!
みっともない!恥ずかしいと思わないの?
マティアス様もきっととんだご迷惑だわ!!」
マティアスに迷惑が掛かってる、と指摘されたハンナは傷ついた顔をしていた。
私はイライラしてきた。
「お言葉ですが、ヒルデガルド様。
ハンナは成績といい、外見の華やかさといい、私はアカデミーでもトップクラスの女性だと思っております。
あぁ、ヒルデガルド様が譲れない、家柄以外は。
ですから安心なさってくさだい。
家柄だけは、ヒルデガルド様が勝っておられますよ。」
「なっ!?」
「それにアカデミーは勉強するところでしょう?ここでの身分差なんて関係ないと思いますけれど。」
ぐっ…とヒルデガルドが下唇を噛んだ。
「ねね、ヴェロたん。」
ハンナが耳元で声を掛けてきた。
「な、なに?」
妙なあだ名のせいで、臨戦態勢から急に戻された。
「ってかさ、この人、誰だっけ?」
ハンナは小声のつもりだったが、バッチリ聞こえていたようで、ヒルデガルドの顔は怒りに染まっていた。
「なんて無礼な子なの!!!この私のことを知らないなんて!!!!」
私にフックを入れられているところに、ハンナのストレートが決まったヒルデガルドは、完全にブチ切れていた。
バッと手を振り上げ、ハンナの頬をめがけて勢いよく振り下ろした。
バシッ!!!
ヒルデガルドの振り下ろした手は、マティアスによって止められていた。




