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228.西から東から

最終章前半パートのラストです。

 バーンヘイズ公爵領



「あれが竜骸……」


 遠くに見える竜のような怪物が見える。、バーンヘイズ公は双眼鏡ごしにその姿を確認する。

 長く放置されていたからだろうか、白骨のような特徴は見られず全身が薄汚れてくすんだ色に染まっている。

 見た目は首が長く、頭部が芋虫のような形をしている。腕は見当たらず、二足歩行で脚が異常に発達して巨大、尻尾は長くて前傾姿勢となる体躯のバランスをとっているようだ。



「どう思う?」

「確かに見た事のない化物です、そして想定以上の大きさで全長は10m以上ありそうです。ウェットランド様の情報によると魔法は全く効果がなく、強力な物理攻撃のみが有効との事です」


 バーヘイズ公の質問に側近は、事前に得た情報をまとめた手帳を読み上げる。


「当軍は魔法主体の編成しか組めません、傭兵部隊を出撃させますか?」


 バーンヘイズ公は顎に手を当てて考え込む、あのアンバランスな体型を見ていると何とかなるのではないかと思えてしまう。


「ここから南に何ヶ所か落とし穴を掘ったな、そこへ誘い込もう。あの体型だ、穴に落としてしまえば這い上がれないはず」

「……試してみる価値はありますね。伝令を呼べ」


 側近達がすぐに動き、すぐに作戦が実行される。

 騎馬兵が遠くから放った火炎弾に竜骸はすぐに反応し、猛スピードで騎馬兵へと襲いかかる。

 ただ竜骸は追いかけるだけで何かをする様子はない、猪突猛進に突き進むとまんまと落とし穴へと転げ落ちてしまった。


「脳みそがないのか?」


 バーンヘイズ公は思わず本音が漏れる、不恰好な体型が仇となり大穴の底で(もが)いている。


「奴がどれだけの脅威か……ある程度の尺度となる。油壺を投げ入れろ」


 油が入った壺が次々と投げ入れられ、そして地上から火炎弾が放たれる。瞬く間に油に引火して激しく燃えあがり、落とし穴の中は火焔地獄となる。


 しかし次の瞬間、穴の底から閃光が解き放たれる。


 地面を抉るように乱射される閃光に状況が飲み込めない、穴を囲っていた兵士達が次々と黒焦げになっていく。


「総員この場から離れろ!!」


 慌ててその場を離れようとする、しかし今度は地面を震わせる地響きがおこる。

「いったい何が」

 顔を上げると戦慄が走る、長い首と尾を地面に突き刺して穴を這い上がっていたのだ。


「顔が二つ………」


 遠くから見ていたバーヘイズ公が呟く、全身を覆う汚れで隠れていたが尾の方にも芋虫のような顔があり大きな一つ目が見開いている。そして本来の顔と思われる部分にも大きな一つ目がある。

 竜骸の頭と尾の先端が歪な形で口を開く、そして双方から凄まじいエネルギーの熱光線が無差別に乱射する。


「………こんな化物が」

「恐怖に飲まれるな! 全軍撤退させろ!!」


 絶望して恐怖に飲み込まれる側近達に喝をいれ、バーンヘイズ公が大声で指示を出す。


 だがすでに時遅く、逃げ遅れたバーンヘイズ軍はほぼ壊滅状態であった。


「……ここまでの脅威とは」


 頭と尾の口から死体を捕食する姿にバーンヘイズ公は戦慄を覚える、そして竜骸の進路に住む住人を事前に避難させられた事を心底良かったと思った。


「すぐに被害を確認して撤退だ、私はこのまま王都へ向かう。この脅威は国をあげて対策をしなくてはならない……これは人類の存亡をかけた戦いになる」


 側近達に指示を出すとバーンヘイズ公はすぐに動き出した。





 エルバニア王国南東・ヴィーツ子爵領



「なんで、なんでまたあの化物が……」

 アカデミーの元教諭サンドラ・ヴィーツは再び目の前に現れた悪夢に目を疑った。


 サンドラは王都での不祥事でアカデミーを追放され、居場所がなくなり実家であるヴィーツ子爵領へと帰ってきてた。

 エルバニアの東の端にあるヴィーツ子爵領は海に面しており、漁業と海を隔てたロスローリア教国との交易で独自の発展をしていた。

 ただ王都からかなり離れており、いわゆる田舎の辺境貴族に変わらないのでサンドラ自身はこの環境が好きではなかった。

 ただ出戻ったサンドラを周囲は優しく向かい入れてくれた、自信を失い傷心していたサンドラにとってそれが本当に嬉しかった。


 周囲の優しさに触れてサンドラは出直そうと決心した。故郷のためになろうと地元の子供達のために勉強を教え始め、新しくやりがいを見つけつつあった矢先であった。


 海から白骨体のような化物が突如として現れた……サンドラはその姿に見覚えがあり、あの時の恐怖が蘇る。

 アカデミーを襲った竜骸と呼ばれる化物、その特徴に酷似していたのだ。


 骨のような外殻は一緒だが、身体の造形は全く違う。

 頭は鋭利な刃物で切り落とされたように無く、代わりに胴体部分に大きな口がある異形な姿をしている。二足歩行で腕が異様に大きく、長くて細い尻尾が生えている。


「陣を組め、上陸させるな!」


 ヴィーツ子爵家を継いだサンドラの兄が大声を指示を出す、だがサンドラの脳裏にはあの惨劇が蘇る。


「戦ってはダメ! 逃げるのよ!!」


 出撃しようとするヴィーツ子爵をサンドラは必死に止める。


「あれはアカデミーを襲った化物よ!! 絶対に勝てない!!」

「何だと!?」


 縋るように懇願する、ヴィーツ子爵はサンドラの必死さに戸惑いをみせる。


「しかし領主が真っ先に逃げるなどあってはならない!」

「そうではなくて! みんな逃げるのよ! とにかくどこでもいいから、みんなバラバラにこの場から逃げるの!」


 ドオオオォォン!!


 突然の衝撃に言い争う2人は堪えられずにその場に倒れ込む。

「化物の攻撃です」


 ドゴオオオオォォン!!


 2人に報告が入る時にはもう次の攻撃がくる、凄まじい衝撃によって報告にきた兵士が吹っ飛んでいく。

「いったい何が」

 ヴィーツ子爵が外を見ると竜骸はすでに上陸しており、領軍の先遣隊と抗戦していた。


 ただ抗戦というには一方的であった、武器攻撃は白い外殻によって簡単に弾かれ、数少ない魔法使いの攻撃も全く効いていない。

 竜骸は腹部の大きな口から凄まじいエネルギーの球体を吐き出す、それを手に取ると長い腕を使って投げつける。その威力は凄まじく、一撃で建物が全壊してしまった。


 無差別の攻撃に街はあっという間に火の海になる。


「とにかく逃げて!! どこでもいいからとにかく逃げて!!」


 サンドラが悲痛な声で呼びかける。


「兄様! 私達も逃げるの!!」


 サンドラはヴィーツ子爵の腕を掴むと強引に連れ出す。

 街は逃げ惑う人々でパニック状態に陥っていた、さっきの衝撃でみんなが一斉に逃げ出したのだ。


「こっちよ、とにかく走って!!」

「先生!」


 街で教えている子供達を見つけると呼び込み、足を怪我をした子供達がいれば脇に抱えて街の外へ逃げる。

 とにかく走って何とか街を一望できる高台まで来る事が出来た。

 見下ろすその光景に思わず涙がこぼれる、建物は破壊され、火の手があがり街は黒煙に覆われている。


「あああ、おウチが」


 泣き崩れる子供達、みんながバラバラで逃げたので誰が生存しているのか分からない状況であった。


 ドオオオォォン!!


 これだけ離れていても竜骸の攻撃による衝撃が響いてくる、そのまま怯える子供達を抱き抱え不安な夜を迎える事となった。


 数日経った後、襲撃されたヴィーツ子爵領都へとサンドラ達は様子を確認しに来た。

 街は壊滅状態で生存者はいないだろう、ただおかしな事におびただしい血痕はあるが死体は一切残っていなかった。

 血痕は一筋の道となって続いており、竜骸はそちらに向かって進んでいる事が推測できた。


「……西へ向かっている?」


 サンドラはそう呟き、遥か遠くの西の方角へと視線を向けた。





 王都・王城内研究施設



 ゼラム・マクウェルが何かの実験に没入してるところに、レミオは申し訳なさそうに声をかける。


「マクウェル様、ウィルヴァー公爵様がいらっしゃってます」

「今いいところだ、放っておけ」


 レミオの報告にゼラムは興味なさげにあしらう。


「ずいぶんだな〜、そんなんだから嫌われるんだぞ?」


 入口付近に立つ派手な美女が口を尖らせている。


「おい、部外者が入ってきた、つまみ出せ」

「無茶言わないで下さい」


 レミオが泣きつくとゼラムは大きな溜息を吐く。


「レミオ君、君ならいつでも大歓迎よ!! そんな偏屈な男よりウチで楽しくやりましょうよ」

「……イリーナ・ウィルヴァー、いい加減誰彼構わず声かけるのを止めろ」


 イリーナはレミオを大人の色香で誘惑するが、すぐにゼラムが止めに入る。


「うふふ、レミオ君への愛が止まらないのね」

「目を潰すぞ」


 殺気立つゼラムに対してイリーナは平常運転だ。


「試作機が出来たって聞いたんだけど?」

「……ふん、ついてこい」


 そう言うとゼラムは研究棟の裏にある広場へと向かう。


「……相変わらず悪趣味ね」

 マイペースなイリーナでも口を引き攣らせる、目の前には魔法石でコーティングされた竜骸が鎮座している。


「仕方ないだろ、死んだはずなのに動き出した。どんな手を使っても息の根を止められないのだから封印するしかないだろうが。まあ、おかげで兵器の破壊力の実験には役立った」


 よく見ると胴体の一部分だけコーティングが剥がれており、大きな穴が空いていた。


「実験て……性格も悪いとやる事なす事全部酷いのね」

「ふん、対抗手段を見つけるためなら何でもする」


 ゼラムの割り切った返答にイリーナは溜息を吐くことしか出来なかった。


「天国のフェリス様が泣いてるぞ」

「何を言う! フェリス叔母上ならよくやったと褒めてくれるはずだ」


 この世で唯一ゼラムが懐いていた人物の名前を出す。だが逆効果のようで自信満々の表情で行ってのける、それを見てイリーナは反論するのを諦めた。


「ゼルメア帝国の奴等の真似をするのは癪だが背に腹はかえられん」


 ゼラムの命令で砲身の長い大砲のような兵器を持って来させる。


「火薬を使っているから連射は出来ない、ただウェットランド卿が火薬の原材料である硝石を大量に提供してくれたから砲弾は生産できそうだ。とりあえず試作機の威力を見せてやる」


 研究員が円錐形の砲弾を装填しする。

「レバーを引け」

 研究員がレバーを引くと轟音と共に凄まじい勢いで砲弾が発射された。


「かなりの威力ね」


 砲弾は実験用の防壁を貫通し、向こう側の岩に突き刺さっていた。イリーナはその威力に息を呑むがゼラムは納得はしていないようだ。


「急造の割にはな。ただ改良の時間もなく、砲座を生産する時間もあまりない、圧倒的に時間が足りないのが現実だ」

「それでも何も無いよりもマシよ、大したものだわ」


 自笑するゼラムだが、イリーナはすぐにそれをやめさせる。


「もうすぐ北からこの国で最強の魔法使いと最高の軍師が到着するわ、この兵器も必ず役立ててくれるはず」


 握り拳を作ってイリーナは息を巻く、その様子をゼラムは鼻で笑う。


「何よ?」

「いや、俺もそれなりの準備をしている」


 すると液体の入った入れ物を取り出す。


「それは?」

「竜骸の外殻を分析して作った分解薬だ、魔法石を溶解させて魔力に反応するようにした……そろそろ来ると思うが」

 イリーナは理解に苦しむ顔をしている。


「マクウェル様、グランマーレ様がいらっしゃいました」


 研究員が背の高い男性を連れてくる。


「イリーナ様? なぜここに」

「アレクシスこそ」


 アレクシス・グランマーレはゼラムから呼び出されてやって来たが、その場にイリーナがいる事に驚いている。そしてイリーナも、予想外の人物の登場に驚きを隠さないでいた。


「情報は共有しておいた方がよいだろう。これが例のやつだ」

「完成したのか……やってみよう」


 ゼラムから薬物を受け取り、アレクシスはその液体に目視できるほどの濃い魔力を流し込む。それを球状にして竜骸へ向かって放つ。


 ジュワアァァァ


 蒸発するような音を立てて外殻が溶けていく。


「……成功だな」

「ああ」


 2人は納得した表情をみせるが、イリーナは状況が飲み込めないでいた。


「これは?」

「魔力を流し込むことで魔法石が反応し、竜骸の外殻を溶解させる。ただ俺の魔力では表面を削る程度しか威力が出なかった、そこでアレクシスに協力を頼んだ。成果はご覧のとおりだ、おそらく使えるのは青色の魔力のエキスパートであるアレクシスかアルバレス殿くらいだろうが、これも一つの武器として考えても良さそうだ」


 この場にアレクシスが呼ばれた事にイリーナはようやく納得出来た、2人が密かに別の視点から対抗策を探っていた事に思わず感心してしまった。


「ふう、2人とも良い男なんだけど、性格がなぁ……」


「おい!」

「どういう意味だ!!」



読んでいただきありがとうございました。


これにて最終章前半パートの終了です、次の連載で最終話までいきたいと思います。

ここまでお付き合いしていただき、本当にありがとうございました。


再開は来年の春くらいになると思いますが、出来るだけ早く再開したいと思いますのでよろしくお願いします。

今後の予定では年末か年明けくらいに短編小説を投稿したいと思っているので、またその時に活動報告でお知らせしたいと思います。


今回は色々とあって大変でした、今作では比較的に平穏だった感想欄も少し荒れてしまって申し訳なく思います。

それでも楽しみにして下さる方がいる事は本当に心強く感じてます、皆様の期待に沿えるように最後まで書きたいと思います。


本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 春の再開が楽しみでもあり、終わりが近づいているのが惜しくもあります。
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