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第十二話 流行り病の原因

 コマリちゃんに家まで運んで貰った私は、そのままベッドに寝かされることに。

 限界を越える前にこうして休憩出来たからか、さほど悪化もせず大事には至らなかった……んだけど。


「なるほど、それでシルフィは熱を出したわけか……無茶するね、ほんと」


「あう……ごめんなさい……」


 狩りから戻ったルンさんに呆れの視線を向けられて、軽くお説教されてしまった。


 しゅん、と体を縮こまらせる私に、ルンさんは溜息混じりに手を伸ばす。

 叩かれる、と思ってぐっと目を瞑った私は、優しく頭を撫でられる感触に戸惑いながら、恐る恐る目を開ける。


「そういうことは、先に相談してね。シルフィが傷付くと、僕も悲しいから」


「はい……ありがとうございます」


 恥ずかしげもなくそう言って貰えて、嬉しさに緩む顔を隠すようにベッドに潜り込む。

 そんな私を見てくすりと微笑むルンさんの隣から、「私も!」と主張するようにコマリちゃんが顔を出した。


「シルフィにばっかりがんばらせてたらカッコ悪いもん、次は私もがんばるよ!」


「頑張るのはいいけど、みんなの病気を引き受けるのはナシだからね? いくらコマリでも危ないから」


「ええー!?」


 ルンさんの一言で、コマリちゃんは「がびーん!」と言わんばかりに体を仰け反らせる。


 うん、よかった。私もやっぱりそれはどうかと思ってたし、ルンさんはこっち側みたい。


「私なら平気なのにー!」


「平気とかそういう話じゃなくてね……というか、病気を他の物に移せるなら、自分達以外にしなよ。適当な草とか動物とか……何なら、石とかにも出来るかもしれないし。まずはそれを試すところからでしょ」


「おお、なるほどー! さすがおねーちゃん!」


 ポン、と手を打つコマリちゃんの横で、私は思わず両手で顔を覆ってしまう。


 そうだよね、よく考えたらまずはそれで試すべきだったよね!

 なんで思い付かなかったんだろ……うぅ、私のおバカ……。


「それに、この病気に罹ってる人はまだたくさんいるからね……あんまりシルフィの力に頼りきりなのも、負担が大き過ぎる」


「わ、私なら大丈夫ですから! ……と、いうより、その、具体的にどれくらいの人が……?」


 平気だとアピールしようとしたけれど、ルンさんのジトリとした目に気圧されて、するすると言葉尻が小さくなっていく。


 うぅ、ルンさんこわい。


「知ってるだけでも三十人くらいかな。村全体で百人もいないから、かなり多いよ」


「そ、そんなに……!?」


 人口百人以下の村で、三割近くも……しかも、些細な体調不良を含めればもっといるみたい。


 まだ子供のルンさんがこんな真冬に連日狩りに出ていたのも、そうやって動けなくなった人達の食い扶持の足しになればと思ってのことだったんだって。


 ルンさん、優しいなぁ……。


「病気の大元が断てれば、それが一番良いんだけどね。この村には医者もいないし、なかなか難しいよ」


「…………」


 ルンさんの話を聞いて、私は考え込む。


 こういう集団で罹る疫病の大元は、必ず何か、感染媒体みたいなものがある。

 人から人への感染なら、今病気に罹っている人を全員治せば、きっと収まるはず。


 でも、もしそうじゃないなら……。


「あの、ルンさん。この村の食べ物や飲み物で、みんな全く同じ物を摂っているものって、何かありますか……?」


「え? そうだね、食べ物は大体森で獲った動物や魔物、それからこの村で育てている野菜が少し。今の時期だと大体漬物になってるけど……後、水は全部近くの川から汲んで来てるよ」


「うん、いつも私が汲んでるんだよー! たまに、運ぶの大変そうなユー君達とかおじいちゃんを手伝ったりして……」


「それです! 水!」


「どういうこと?」


 首を傾げるルンさんに、私は自分の考えを伝えた。


 この村で、生活用水は全部たった一つの川に依存している。

 もしその川が何らかの理由で汚染されていたら、村の人達が揃って病気になってもおかしくない。


 そして、本来ならそういうもので真っ先に倒れるはずの子供や老人のところは、コマリちゃんがお手伝いと称して先に触れて浄化してるんだ。


 それに……。


「私、何度も治療しているうちに、黒い瘴気みたいなものが段々よく見えるようになってきたんですけど……倒れている人の家で、それが一番"溜まって"いるように見えたのが、キッチン周りだったので……水が一番、怪しいんじゃないかなって」


 ただの思い付きみたいなものですけど、と、最後は若干自信を失くして尻すぼみになる私の言葉を、ルンさんは最後まで真剣に聞いてくれた。


 顎に手を添えてじっと考え込む姿に緊張していると、やがて思考に没頭していたルンさんの目が私へ向く。


「その……瘴気? っていうのはよく分からないけど、シルフィが川まで向かえば、原因になってるかどうか分かるってことで合ってる?」


「は、はい、たぶん! ですからその、あの……川まで案内して欲しいなって……!」


 一番肝心な部分伝え忘れてた! 私のバカ!

 そんな風に思いながら、私はこくこくと何度も頷きを返す。


 今の私なら、一目見れば川に異常があるかどうか分かるはず。

 異常があれば、間違いなく川の水のせいで広まった疫病だって分かるし、無ければ無いで、まずは病気の人をみんな治療して様子を見ればいいって方針が固められる。


 どちらにせよ、これは熱を出した体を押してでも早く行かなきゃならない。


「……今日はもう遅いから、明日の朝にしよう。それまで、ちゃんと寝て体を休めること。いいね?」


「は、はい……!」


 出来れば今すぐ行きたいけれど、ルンさんとしてはこれが精一杯の妥協点なんだと思う。

 純粋に私を心配してくれてるんだし、言われた通りちゃんと一晩で治さなきゃね。


「じゃあ、今日も一緒に寝よ! そうすればすぐに治るよ!」


「ま、また!? でも、そんなに毎日迷惑じゃ……」


「シルフィと一緒に寝ると夜も暖かいし! ね、いいでしょ?」


「あうぅ……は、はい……」


 キラキラとした眼差しに見つめられ、結局私は押しきられるように一緒に寝ることに。



 そして、翌朝。


「本当にばっちり治っちゃうんだから、コマリちゃんはすごいね……」


「えへへー、もっと褒めて!」


 すっかり熱も収まり、元気いっぱいなコマリちゃんとマフラーを共有し、手を繋いで川へ向かう。


 ルンさんの先導の下、村の外れにあるその場所に到着した時、私は思わずびくりと体を震わせた。


「シルフィ、どうしたの?」


「あ、うん……思った通り、川からすごい瘴気が出てる……」


 コマリちゃんの問いに、私は固い表情で答える。


 二人にはやっぱり見えてないみたいだけど、私の目には黒い瘴気が川全体から立ち上っていた。

 もう少し近付けば何か分かるだろうかと、ひとまず村のみんなが普段水を汲む時に使っている川原まで降りてみることに。


「ここで水汲みしてるんだけど、何か原因は分かりそう?」


「うーん……」


 少しばかり期待の籠った視線をルンさんに向けられるも、私は何も答えられない。


 川の水が病気の原因なのはわかったけど、だったらどうして川がこんな風になっちゃったのかが分からないと同じことだ。みんな、この川の水で生活してるんだから。


 そう思って必死にそれらしいものを探すけど、なかなか見つからない。


 川の近くだからか、この場所は村の中よりも一段と寒いし、川ごと凍り付いてないのが不思議なくらい。

 付き合わせちゃってる二人のためにも、出来れば早く済ませたいんだけど……。


「……あれ?」


 その時ふと、川面に一際黒ずんだ部分を見付けた。

 ほんの小さな、だからこそ余計に気になったそこへ近付いてみると──パシャン、と不意に水が跳ねる。


「シルフィ、危ない!!」


「ひゃあ!?」


 コマリちゃんに引き倒され、雪と砂利だらけの地面を転がる。

 痛みに顔を顰めながらどうにか顔を上げると、そこにいたのは一匹の小さなおたまじゃくしと……そいつが吐き出した紫の液体が石を溶かし、不気味な蒸気を上げている光景だった。


「この……!!」


 次の瞬間、ルンさんが背負った大槌を全速でおたまじゃくしに向け振り下ろす。


 明らかに威力過剰なその一撃が小さな体を押し潰し、地面を震わす衝撃を体で感じていると、ルンさんは初めて見るほど険しい表情で吐き捨てた。


「ポイズントードの幼体……どうしてこんなところに!!」


「ポイズントード……?」


「猛毒を持った蛙の魔物だよ。幼体は見た目通り強くないんだけど、全身から出す毒液で周囲の環境を汚染して、弱った獲物を食べて成長する習性があるんだ」


「ふえぇ……」


 そんな魔物がいたなんて、全然知らなかった。

 もしコマリちゃんが助けてくれなかったら、私は今頃……あ、危なかった……。


「本当なら、もっと森の奥……沼地辺りに棲んでる魔物なんだけどね。そうでなくとも、幼体が卵から孵るのは春頃のはずなのにどうして……いや、それは後でいいか。まずは人を集めて、駆除しないと」


「おたまじゃくし狩りだね! 私もがんばるよ!」


「期待してるよ。飲み水の問題はまだ残ってるけど……シルフィのお陰で、大事に至る前にどうにかなりそうだ。ありがとう」


「い、いえその、私はただ見付けただけで……でも、少しでも役に立てたなら、嬉しいです」


 お礼を言われて少し照れ臭くなりながら、私は思わず顔を逸らす。


 私でも、誰かの役に立てた。コマリちゃんやルンさんに、助けてもらった恩を少しでも返すことが出来た。


 それが、すごく嬉しい。つい、顔がにやけちゃうくらい。


「うん! シルフィはすっごい役に立ってるよ! でも、私だって役に立つところ見せちゃうから! 今晩はおたまじゃくしの丸焼き、お腹いっぱい食べさせてあげるから、期待しててね!」


「うん、ありが……って、ええ!? あれ食べれるの!?」


「いや食べないから。コマリも適当なこと言わない」


「えーっ!? 食べれないの!?」


「むしろなんで食べられると思ったのさ」


 がびーん! とショックを受けるコマリちゃんに、呆れ顔で溜息を溢すルンさん。


 そんな二人の姿に、私は思わず噴き出してしまうのだった。

次回、「おたまじゃくし駆除」

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