第十三話 おたまじゃくし駆除
「よーし、いっくよー!! うーりゃりゃりゃりゃりゃりゃーーー!!」
目の前で、コマリちゃんが両手に桜狼の前足を産み出し、勢いよく川の中を突き進む。
そのまま凍り付いちゃうんじゃないかと心配になるほど冷たい水を、腕力だけで吹き飛ばしながら力づくで中にいるポイズントードの幼体を仕留めていく姿は、まさに凄まじいの一言。
難点は、その吹き飛ばされた冷水が集まった他の獣人さん達に思いっきりかかってることくらいかな。
「コマリ、派手にやりすぎ! 少しは周りも見て!」
「ああっ! ごめんなさーい! ……って、わぶぅー!?」
ようやく気付いたコマリちゃんが手を止めると同時、それまで無理矢理押しのけていた川の流れに呑まれ流されていく。
川面から顔を出し、失敗失敗と笑うコマリちゃんに、ルンさんはやれやれと頭を振り、他の皆さんは楽しげに笑っていた。
「ふふ、すごいですね、コマリちゃん」
「元気過ぎるのが困りものだけどね。シルフィは大丈夫? もうずっと外にいるけど、体が冷えるようなら家に戻った方が」
「いえ、大丈夫です。コマリちゃんにたくさんぎゅってして貰ったので、体の調子は良いですし……マフラーもこんなに巻いてるので」
やたらと長いマフラーを何重にも巻き付けたせいで、もっこりと膨らんだ首回りを指し示し、苦笑する。
コマリちゃんと二人で巻いてる時はいいけど、一人でいる時はやっぱり少し使いづらい。
ちゃんと一人用のも作った方がいいかな……でも、そうしたらコマリちゃんと手を繋ぐ理由がなくなっちゃうよね……で、でもでも、コマリちゃんを不便なままにしておくわけには……。
「シルフィ?」
「な、なんでもないです!」
ルンさんの呼びかけで現実に引き戻されて、私はぶんぶんと頭を振りながら余計な思考を吹き飛ばす。
手を繋げるかどうかなんてことで悩んでる場合じゃないでしょ、私! 今は川に棲みついた魔獣の駆除と水の浄化を進めなきゃいけないんだから!
「え、えっと、コマリちゃん! そこ、もっと奥の方にたくさんいると思う!」
「はーい!」
私が指示した方へとコマリちゃんが突っ込み、盛大な水飛沫を上げながら魔獣を一掃する。
私のスキルで魔獣の位置を特定して、コマリちゃんが纏めて吹っ飛ばす。
細かい取りこぼしはどうしても出るけど、それは集まった他の獣人さん達がやってくれるから……まずは大雑把に数を減らすならこれが一番だってことで期待もされてるし、その分がんばらなきゃ!
「よーし、つぎつぎー!!」
冬の寒さも、川の冷たさも何のその、元気いっぱいに暴れ回るコマリちゃん。
その姿を眺めながら、私はそういえばと、今更過ぎることをルンさんに尋ねてみた。
「あ、あの、ルンさん。コマリちゃんのスキルって、【地母神】なんですよね? それなら、魔力で狼の体を作り出すあれは、獣人族の魔法か何かなんですか……?」
「ん? ああ……あれもスキルだよ。魔力を使って獣の姿に変身する、【獣王】スキルっていう能力だ。ただ、創造神様からじゃなくて、親から譲り受けたスキルなんだけどね」
「えぇっ!? お、親からスキルを貰うなんて、そんなこと出来るんですか!?」
「もちろん普通は出来ないけど……コマリの場合、親が普通じゃないから。僕ら狼族の守り神だった魔獣……聖獣モルガナイトウルフ。それがコマリの父親だ」
「え……ええっ!? 魔獣が、お父さん……!?」
とんでもない情報の連続で、頭がパンクしそうになる。
モルガナイトウルフ……確か、桃色の毛皮を持つ大きな狼の魔獣だよね。
宝石みたいに綺麗なその毛皮を求めて挑む人は多いけれど、そのほとんどは返り討ちに遭っちゃうと言われるくらい強い魔獣だ。
「そっか……そんなにすごいお父さんがいるなんて……やっぱり、コマリちゃんはすごいなぁ……」
私の【疫病神】スキルの影響を間近に受けて平気なのも、あんなに小さいのに魔獣を仕留められるくらい強いのも、お父さんの血筋なんだろうか?
今までずっと、このまま傍にいても大丈夫なのかなって不安もあったけど……それを聞くと、少しだけ安心出来る気がする。
そう思っていると、ルンさんはなぜか私を見て目を見開いていた。
「……怖がらないんだね、シルフィは」
「へ? あ、ええと……こ、怖がった方が良かったですか?」
「いや、そんなことはないけど……コマリが魔獣から生まれた獣人だなんて話をしたら、話そのものを疑うか、警戒されるかのどっちかが普通の反応だからさ」
確かに、目の前にいる獣人は魔獣から生まれた子供なんです、なんて話を聞いたら、疑うか怯えるかくらいはするものなのかもしれない。
だけど……。
「ルンさんの言葉を疑う理由なんて、どこにもありませんから。それに……たとえコマリちゃんがどんな存在でも、私にとって大切な恩人であることに違いないです」
私みたいな疫病神を優しく受け入れて、こうして役に立てる機会までくれた。私を……家族だと言ってくれた。
そんな二人を疑ったり、ましてや怖がるなんて絶対にあり得ない。
「もちろん、ルンさんも同じです。たとえどんな力があっても、どんな存在でも、私の大切な恩人です!」
そういった素直な気持ちを伝えたんだけど……なぜか、ルンさんから返ってきたのはどこか困ったような苦笑いだった。
「……嬉しいけど、あんまり人を信じすぎるのはよくないよ? シルフィは結構騙されやすそうだし」
「え……ええ!?」
思わぬ指摘に、私は体を仰け反らせるほどの勢いで驚いてしまう。
いや、いやいや、私一応は転生者だよ!? 確かに何の取り柄もなかったけど、でも人生経験だけはルンさんよりもあるはずで……!!
……いや、うん。私、嫌われものだったから対人経験なんてほとんどなかった。その意味ではコマリちゃん以下かも。
うぅ、そう思うとなんだか悲しくなってきた……。
「ま、まあ……それがシルフィの良いところでもあるから、あまり気にしないでいいよ」
「うぅ……」
ずーん、と落ち込む私を見ていられなかったのか、ポンポンと頭を撫でながら励ましてくれるルンさん。
けど、一度へし折れた私の心はその心地よい手付きを前にしてもなかなか立ち直れなかった。
ううん、このままぐずってても何も変わらない。ここはバシッと私の知恵でみんなの役に立って、年の功を見せ付けるんだ……!!
「あ、あの、ルンさん!」
「うん? どうしたのシルフィ」
撫でる手を止め、話を聞く姿勢に入ったルンさん。
ここで、ポイズントードをもっとスマートに駆除する方法とか、しばらく川の水が使えない問題の解決策をずばっと……!
「…………いえ、なんでも、ないです……」
「そ、そう?」
すんなり思い付くなら、こんなことになってないよ……私のバカ……!!
もう一度ルンさんに撫でて貰いながら、私はガックリと肩を落とすのだった。
次回、「ルンの想い」




