リーネの場合 その4
「よくも…よくも……!」
目の前で父親を殺されたリーネは、僅か八歳の少女でありながら凄まじい憤怒の表情を見せていた。大きな鎌を自在に振るい大人でも大変な畑仕事を淡々とこなすその胆力は伊達ではなかったということだろうか。
「よくもお父さんをぉぉっっ!!」
体を捻って兵士の腕を振り払い、自分用の鎌を手に取り、リーネは渾身の力を込めて兵士達を薙いだ。すると、一人の兵士の首が落ち、もう一人の兵士の首の骨に刃先が食い込んで止まった。
有り得ない光景に、ならず者やごろつきとしてそれなりの修羅場をくぐってきた兵士達でさえ怯む。
「リーネ!!」
「お母さん!!」
母親の手を取り、リーネは玄関へと走る。
だが、ドアを開けた瞬間、小さな体が爆風に吹き飛ばされるかのように宙を舞い、壁へと叩き付けられる。
「あ……が…あぁ……」
床に落ちたリーネの体がビクンビクンと痙攣する。口からは血が溢れ、白いものが混じっていた。折れた歯がこぼれ出したのだ。
「リーネ! リー…っ!」
娘の名を叫びながら縋りつこうとした母親が、逆方向の壁へと弾け飛ぶ。
「隊長!」
ドアをくぐって入ってきた、まるで雄牛のような人影に向かい、兵士達が声を上げる。
「ガキ相手にヘタ打ってんじゃねぇ…!」
雄牛を思わせるその男は、そう呟きながら家の中を睥睨した。そしてゴツゴツと床を踏み、半ば意識が飛んだ状態で床に転がるリーネへと歩み寄った。手を伸ばし、男の半分もない小さな体の少女の髪を鷲掴みにし、引きずり起こす。
「美味そうなガキだな。だが、身の程ってもんをわきまえてねぇ。これは躾が必要だ…」
べろりと舌なめずりをした男の顔には、吐き気をもよおすほどに下劣で醜悪な笑みが張り付いていた。明らかに興奮している。
「やめて! その子にはもう何もしないで! お願いです!!」
ガクガクと震える腕で辛うじて上半身を起こした母親が懇願する。しかし男は母親の方には視線さえ向けることなく吐き捨てるように兵士達へ告げた。
「お前ら、そっちは好きにしていいぞ。ガキの不始末は親の責任だ。たっぷりと責任を取ってもらえ……」
待ち望んでいたその言葉に、兵士達の顔にも下卑た笑みが浮かぶ。
「あ…あぁ……」
にじり寄る兵士達を見上げた母親の顔は絶望に歪んでいた。
群がった兵士達に組み伏せられ、終わることのない地獄に、母親は壊されていく。
首を絞められ、叫ぶことも悲鳴を上げることも許されず、やがてどれほど激しく責められても反応すら返さなくなったのだった。
「おい、こいつ、死んでるぜ…」
「なんだよ、もう潰れちまったのかよ」
「かまわねぇからさっさと代われよ」
嘲笑交じりの聞くに堪えない悪鬼の戯言が、朦朧となったリーネの耳を打っていた。




