リーネの場合 その5
この時、リーネ自身も既に意識が混濁していた。奥歯が何本も折れるほど手加減なく殴られて吹っ飛び、激しく壁に頭を打ち付けたことで脳に重大な損傷が生じていたのだ。
「ちっ! 加減を間違えちまったか。大人しくなったのはいいが、これじゃ面白みもねぇな」
悪魔の方が可愛げがあるんじゃないだろうかという程におぞましい笑みを浮かべながら、雄牛のような男はリーネを徹底的にいたぶった。
「あ…うぁ…が……ぁ…ごぼぁ…っ!」
内臓を圧迫されて胃の中のものが逆流し、男の体に掛かる。それでも男は「汚ぇなあ」と苦笑いを浮かべただけだ。
「……」
吐瀉物交じりの血を口からだらだらと垂れ流すリーネの目には、もはや意志を感じさせる光は宿っていなかった。涙なのか血なのか、赤い液体がこぼれて頬を伝う。
おぞましい行為にようやく満足した男は微かにまだビクビクと痙攣するリーネを床に放り出し、あぶれて順番待ちをしていた兵士達に声を掛けた。
「おい、後は好きにしていいぞ。俺は先に帰るからな。後始末はしっかりとしておけよ」
面倒臭そうに言い残した男が家を出て行くと、兵士達は残されたリーネをさらに徹底的にいたぶり尽くす。
とうの昔に呼吸も止まり、鼓動さえ止まってもなお、リーネは、十数人の兵士達の玩具とされたのだった。
ようやく悪鬼共の宴が終わり静寂が戻ったリーネの家に、火の手が上がる。雄牛のような隊長の言った<後始末>であった。すべてを灰にして、なかったことにしようという意図なのだろう。
轟々と燃え盛るそれを、兵士達は酒を飲みながら囲み、ゲタゲタと笑っていた。その光景を、村人達は恐怖に慄きながら遠巻きに見詰めることしかできなかった。
リーネ。享年、八歳。死因。外傷性ショックによる多臓器不全。
平和だった小さな村を襲った戦火の中で少女はあまりにも悲惨な最期を迎えてしまったが、彼女と同じようにして命を落とした少女は数限りなくいたのだろうと思われる。
なお、リーネの死後、その村は何度も戦闘の舞台となり、彼女らが先祖代々守ってきた畑は踏み荒らされて破壊しつくされ、住人も半数以上が命を落とし、残った者も難民として散り散りになって村を離れ、やがてそこにかつて人の営みがあったことすら忘れられていったのであった。




