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【平安転生】ありえない源氏物語 〜桐壺の更衣を救ったら光源氏の愛が重すぎて労基違反です!〜  作者: 揚子江
第二章 日本一モテるのに日本一不憫な東宮

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嵐の夜、忍び寄る毒香

夜這い(未遂)を匂わせるシーンがあります。

苦手な方はご注意ください。

紅蓮の君は、元々、その調査結果を知るために、太后宮様の元へ訪れたことを思い出す。



「お忙しい中、ありがとうございます。


して、何か問題は……?」



「……少々人格に問題があるようだな。



上司の目を避けて、東宮付き女房という威光を傘に、下の者には傍若無人に振る舞うのだと、


下女(げじょ)の不満が溜まっているらしいぞ」



「やっぱり……」



ガックリと肩を落とす。



「通りで一目見た時、嫌な予感がしたものですわ……。



今まで勤めていた場所から、特に悪評は聞かなかったのですが」



「上のものがいる所では良い顔をするのが得意なのだろう。



まあ、見てくれと愛嬌はそこそこいいからな。



それを利用して、主人に気に入られ、うまく手玉に取っていたらしい。」



「表と裏をうまく使い分けることが得手な性なのですね。いっそ感服しますわ」



言葉に若干の棘が出てしまうのは許して欲しい。



「そなたの勘は、見事に当たっていたというわけだな。



彼奴には早々に暇を取らせよう。



東宮付き女房の品位が疑われれば、東宮の品位も問われる。」



「その通りでございます。」



深く頷く。



そんな人間を、若君のそばに置いていくわけにはいかない。




「桐壺の中宮からは私から話しておこう。



確かな筋から、新たな女房を派遣させる。



ーーご苦労だった、紅蓮の君」



「勿体無いお言葉でございます、太后宮様」



ホッと息を吐く。



「それでは、これで。御前失礼いたしまーー」



その時、ゴロゴロ……と、外から音が聞こえた。



辺りが急に暗くなる。



突如、ピカッと外が光り、稲妻の閃光が瞬いた。



鼓膜を麻痺させる程の激しい雷音に、思わず耳を塞ぐ。



瞬間、叩きつけるような雨が降り始めた。



「まずいな、秋の嵐だ。


先ほどまで晴れていたのに、こうも急に……」



「わ、私……早く東宮御所に戻らなければ……!」



「待て、紅蓮の君。



この野分(のわき)の中、簀子縁(すのこえん)を歩けば全身を雨に叩きつけられるぞ。



雷も危ない、室内にいろ」




「ですが……」




「お前の側近、衛門を東宮御所に置いているのだろう?



なら、一晩くらいお前が抜けても問題はあるまい。



光るの宮も、もう童(わらわ)ではないのだから」



「しかし、私は東宮の尚侍(ないしのかみ)です。



できる限りおそばにいなければ……」




「むしろ、お前が全身雨に打たれて風邪をひき、雷に脅かせる方があやつは心配する」



ぐ、と紅蓮の君は押し黙る。



「嵐が止むまではここにいろ。



命令だ」



「……御意」



紅蓮の君は、静かに頭を下げた。



雨に叩きつけられる庭の落ち葉を、そっと見つめる。



(夏の夕立のように、すぐに止んでくれればいいのだけれど……)



だが予想に反して、嵐は夜になっても御所を襲い、激しい雷が鳴り響き続けた。



結局、紅蓮の君は太后宮の御所で一晩を過ごすことになったのだった。



***



「何? 紅蓮の君は、今晩は太后宮御所に泊まる?」



足軽(あしがる)に携えられた文に、光るの宮は眉を顰めた。



「ええ、太后宮様がお引き止めになられたらしく……」



衛門は、深々と頭を下げた。



光るの宮は不満気に唇を噛んだが、やがて大きくため息をついた。



「……まあ、この嵐の中、無理に東宮御所まで戻らせるのは危険だ。



相分かった。



今晩は気にすることなくそちらに滞在するようにと、使者に伝えてくれ」




「畏まりました」



衛門は、深く頷いた。



***



闇夜が訪れる。



月の代わりに、響き渡る雷の閃光が光るの宮の御帳台(みちょうだい)を照らした。



外からは、雷に怯えた女房たちが慌てふためく声が漏れている。




(まあ、無理もない)




うら若き乙女なら、耳を貫く雷鳴を怖がるのが当たり前だろう。




(紅蓮の君は……怖がらないだろうな)




『雷は嫌いじゃないです、落ちてこなければ』




そんなことを平然と言ってのけた彼女を思い出し、光るの宮はくすっと笑う。




寝返りをうつ。




(ひとり寝は、寂しいものだな)




ここに彼女がいてくれればいいのにと、思わざるを得ない。



(私がまだ童だった頃は、よく添い寝してもらったな。



『雷が怖い』だの、『闇夜が怖い』などと、嘘ばかりついて……)




そんな子供騙しの言い訳に、あの人はころっと騙されていたものだ。




『大丈夫ですよ、若君。手を繋いでいてあげますから。



ほら、こうして一緒に眠れば、怖くないでしょう?』




そう言って優しく手を繋ぎ、そっと抱きしめて、その温もりを全身で感じさせてくれた。




ここまであっさりと嘘を鵜呑みにする彼女に、罪悪感がなかったといえば嘘になる。



だがそれ以上に、どうしても、この甘く柔い、温かな居場所を手放したくなかったのだ。




母上と添い寝するのも、乳母に撫でてもらうのも、もちろん好きだった。



でも紅蓮の君の、甘く優しい梅の香りに包まれる温もりに勝るものはなかった。




――いつしか、背丈があの人を超えた頃。



もう、共に眠ることはできなくなったのだが。




周囲から嗜められただけではない。




紅蓮の君が隣に眠っていると、緊張で目が冴え、一晩中一睡もできなくなってしまったからだ。




(あれから数年経ったというのに。あの頃の私と今の私は、そう変わらないな)




ふっと、苦笑混じりの笑みが浮かぶ。




きっと、今彼女がいれば、幼子のように一喜一憂して、戸惑う自分しか思い浮かばぬ。




(でも)




こんな雨の中、冷えた御帳台で。




(温まるのなら、あなたがいい)



彼女の長い黒髪を指に絡め。



その首筋に顔を埋め、あの梅の香りを楽しみたい。



幼い頃から慣れ親しんだあの香りを思い出しながら、そっと目を閉じた。



***



どのくらいの時が経ったのだろう。



ふと、意識が微睡から戻ってきた。




――気配がする。




漂う薫物が、鼻腔をくすぐった。



(梅の香りだ……) 

 



寝ぼけた声がこぼれ落ちる。



「紅蓮の君……?」




御帳台の灯りはすでに消してある。



暗闇にまだ目が慣れず、目を擦った。




その時――闇の中で、何かが蠢(うごめ)いた。





ぞわりと、背筋が粟立つ。




眠気が一瞬で吹き飛び、咄嗟に傍らの小刀を引き寄せる。





「……何者だ」



低く厳しい口調で問いただす。





「東宮様……お慕いしておりましたわ」




甘くねっとりとした女の声は、腐りかけた果実を思わせた。



クラクラと眩暈がするほど濃い香が、鼻をつく。




その瞬間、音もなく夜空が光った。



稲妻が雷光となって天窓から差し込み、暗闇の中に女の顔を浮かび上がらせる。





「……お前を呼んだ覚えはない。



――早苗」


ここまでお読みいただきありがとうございます!


とうとう不穏なキャラが出てきました……


どうなる、光るの宮!?



「面白かった!」「次も気になる!」と思っていただけましたら、

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次回は明日【18:00】に更新します!

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