【第八章】私と何も知らない総大将【七十八話】
「で、大家さんよ」
今朝はトウフが、アライが寂しがるというので、アライのカフェモドキの部屋に朝食を食べに来ている。
うんうん、なんだかんだでトウフとアライの仲が良くなって来て私は満足だぞ。
「なんだ?」
そう言って飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置き、ぬらりひょんは顔を上げる。
その姿はなんというか、風格がある。
どこぞの親分といわれても納得ができるほどの、なんだろう? 大物感が自然とあふれ出てるんだよな、コイツ。
さすがはぬらりひょんだ。
「アライの奴はいいのか? 勝手に部屋を間借りしているけど? 大家なんだろ?」
だよな。
勝手に部屋使われて怒ってないのか?
「なっ!? ぬっ、ぬらりひょん様のものとは知らず、申し訳ありません!!」
アライの奴もここがぬらりひょんの持ち物だとは気づいてなかったんだな。
もしかしたら妖怪のよしみで住み着いているかと思ったけど。
「別に構わんよ。勧められたからアパートにしただけだからな。ワシはそもそも人間の金に興味があるわけではない」
その割にはいい服着ているんだよな。
全身和服のブランドものじゃないか?
この爺さん。
爺さんだから和服でも違和感ないけど、もう少し若かったら、やっぱりどこぞの親分って感じだよな。
「そう言えばそうだな。大家さんも妖怪だったな。どうも人間くさいから妖怪に思えなくて」
妖怪は妖怪なんだな。
なら人間の金儲けに興味がないのも当たり前か。
飯は食うけど、必要だからではなく旨いから、って理由らしいしな。
「ワシはそういう得体のしれない妖怪じゃからな。これ、小豆洗い。ワシのはバターもアンコも少な目でいいぞ」
アライは勝手にぬらりひょんの物件に住み着いたことを恐れてか、ぬらりひょん用の小倉トーストにバターもアンコも大盛で盛り付けていたのを咎められる。
「す、すいません! でも、いいんですか? 少なくて?」
アライは驚いて、急いでアンコをそぎ落とし始める。
「老体にはその量はきついんだとよ」
と、理由を私が告げてやる。
「おまえ、ぬらりひょん様を老体とか!」
折角おしえてやったのに、アライはそっちのほうで怒り出しやがった。
恩知らずめ。
「まあ、事実は事実だ。生まれた時からワシは爺だがな。それ故荒事も向かない」
ぬらりひょんは大きなため息と共にそう言った。
「その姿で生まれて来たのかよ。それはなんか嫌だな」
生まれた時から爺さんとか、それは確かにため息が出るな。
トウフが小僧でよかったよ、本当に。
そう思っていることを見抜かれてか、
「豆腐小僧が、豆腐おやじになって豆腐爺になるのは、お前とて嫌であろう?」
と、ぬらりひょんに笑われながらそう言われてしまう。
それは確かに嫌だ。
けど、トウフは永遠の少年ってことなんだな!
なんてすばらしい存在なんだよ。
「それはそうだけど、まあ、妖怪だしそんなもんなんだな」
結局は妖怪だから、に落ち着くな。
そんな私を見て、トウフが珍しそうに、
「カズミさんが言いくるめられている…… さすがぬらりひょんさんですね」
と、尊敬の眼差しをぬらりひょんに向ける。
なんでその眼差しを私に向けてくれなくなったんだ、トウフ!!
まあ、それは置いておいてだ。
「言いくるめられてるって、私それほど口が上手いわけじゃないぞ?」
別に私は口が上手いわけじゃないんだよな。
トウフが押し弱いだけで。
ふむ、それを考えるとトウフを焚きつけるよりもアライの奴を焚きつけたほうがいいのか?
そうなのか?
「強引なだけでありんすからね」
カラカサが突っ込んでくるが、確かにそれはそうなんだが、とりあえず無視だ。
「というか、大家さんには小倉トーストじゃなくて、ぜんざいでも出してやれよ」
爺さんにはそっちのほうが合ってんだろ。
「餅で喉を詰まらせたらどうするんだよ!」
それに対して、アライがそんなことを言い返してきやがる。
「お前が爺扱いしているんじゃないか?」
なんだよ、おまえ親孝行の少年かよ、割といい奴なんだな。
「あ、いや、これは…… 違うんですよ! ぬらりひょん様!」
アライがフォローしようと必死になっているが、ぬらりひょんは特に気にした様子もない。
器も大きそうだな、やっぱり大将向きなんじゃないか? こいつ。
「ぜんざいか。まあ、今は季節ではなかろう? 冬になったら考えてくれ」
ぬらりひょんは軽く笑ってそう言った。
「は、はい!」
「なら、小豆のアイスでも作ってくれよ、あのかったい奴」
作れるかどうかは知らないけど。
なんであのアイス、あんなに硬いんだろうな。
下手したら歯が欠ける硬さだよな。
「あの硬い奴ですよね? 歯が欠けるかと思いましたよ! でもおいしかったですよ」
トウフが目を輝かせてそんなことを言ってきた。
あの頃のトウフの中ではアンコが甘味だからな。
今は高い乳脂肪分を基準に選ぶようになっちゃったからな、あのトウフが。
カラカサが余計な知識を教え込むからだぞ。
「な、なんだよ、それは?」
台所でせっせと料理を作っているアライが小豆のアイスに反応見せて顔を覗かせてくる。
やっぱり小豆となると気になるもんなのか?
「それなら、かき氷の宇治金時でいいんじゃありんせんでありんすか?」
カラカサの指摘に私も納得する。
「それもそうだな」
アライのために、かき氷のシロップと抹茶でも買ってきてやるか。
メニューが増えるなら安いもんだよ。




