【第八章】私と何も知らない総大将【七十九話】
「で、なんでまた家でただ飯食ってんだよ! 大家だからってちょくちょく来るんじゃねぇよ!」
結構な割合でぬらりひょんの奴、私の部屋に飯を食いに来てやがる。
大家だからってやっていいことと悪いことがあるだろ?
一応は嫁入り前の娘の部屋だぞ?
まあ、妖怪だから貞操の危機とかない…… ないよな?
あるのか?
まあ、爺だからないだろう。
だって、私の部屋で飯食う理由が、
「小豆洗いの作る飯は胃もたれがな。それに比べてこの豆腐の味噌汁の優しいことよ」
これだもんな。
そして、上手そうに飯を食いやがる。
トウフが何とも嬉しそうな目でぬらりひょんの奴を見ていることか。
「それはご愁傷様としか言えないが…… だからってうちに来るなよ、ほぼ毎日じゃないか」
確かに朝から老人に小倉トーストはきついってのは理解できるけどな。
こう毎日来られても迷惑なんだよ。
「何を言う、三日に一日じゃぞ?」
あれ? そんなもんだっけか?
そういえば昨日は来てなかった気がするな。
三日に一度か、じゃあ、まあ…… よくねーよ!
「カズミさん、そんなことで怒らないでくださいよ」
トウフがそう言って私にも味噌汁を出してくれる。
なんで私よりぬらりひょんのほうに先に出してるんだ?
大家だから? 妖怪連合の総大将だからか? 偉いからなのか?
「トウフもトウフで、なにもてなしてんだよ!」
トウフがこうやって甘やかすから、こんなぬらりひょんがつけあがるんだぞ。
それは私もか。
トウフにものすごく甘やかされて過ごしてんもんな、私。
家事全般トウフやってくれるし。
「ええー、心狭いですよ、カズミさん」
そうか?
私の心が狭いのか?
「そりゃ狭くなるだろ? 週に二、三度は朝飯食って、その後一日中だらだらしていくんだぞ」
百歩譲って朝飯を三日に一度、食いに来るだけならまだいい。
だけど、その後もこの爺、私の部屋でゴロゴロして暇を潰していくんだぞ。
しかも私の部屋は何度も言うがワンルームで、部屋の四分の一位をペットのスネカジリに場所を占領されているんだぞ?
コイツにゴロゴロされたら、私がゴロゴロするスペースがなくなるじゃないか!
「カズミさんだって、だらだらしているじゃないですか」
トウフにそう言われたら私は何も言い返せないけどな。
「ワシはそういう妖怪じゃからな」
と、ぬらりひょんに言われたら頭にくるものがあるんだよ!
「私がだらだらできないだろ? この部屋は私の部屋だぞ!」
つい、本音を漏らしてしまう。
まあ、隠すつもりもないけどな。
「ワシはその大家だぞ」
そう言ってぬらりひょんは笑いやがる。
それを言われると何も言い返せない。
「ぐぐぐっ…… だけど、今は私が借りている部屋だろ? ちゃんと家賃払っているだろ?」
そうだ。
正当な値段を払ってやっているんだ。
今は私の部屋で間違いないはずだ!
「なら、値上げしてもいいのだぞ?」
ぬらりひょんにそう言われて私は本当に何も言い返せない。
けど、ちょっとくらい値上げされても別に払えるんだよな。
想像以上にトウフの稼ぎがいいから。
でも、それはそれとして、値上げは嫌だ。
「ぐっ、卑怯な……」
「はい、ぬらりひょん様、今朝は焼き鮭ですよ」
そう言って、またもぬらりひょんに先に提供する。
お、おい、トウフ。
まずは私からだろ?
私が顔を歪ませていると、私のほうをちらりと見てから、ぬらりひょんは笑顔をトウフに向ける。
「おお、ありがとう、豆腐小僧よ。今朝も大変うまそうじゃな」
そうして、トウフを労う。
トウフもトウフですごい嬉しそうに照れやがって!
「いいのかよ、アライの奴が客がいないって泣いてるぞ」
そうだぞ。
それにアライの奴は、ぬらりひょんのことを尊敬しまくっているからな。
多分、泣いているぞ。
そう思っていたのだが、
「後でボクが行ってきます! ボクはコーヒーも小倉トーストも好きですよ!」
トウフの一言で、すべてがどうでもよくなる。
なんだ、トウフ、お前も隅に置けない奴だな。
なんだかんだでアライと友情、それと友情以上の何かをちゃんとはぐくんでいるんだな。
私はうれしいよ。
「そうかそうか、うんうん、いい傾向だ」
私が笑顔でそういうと、ぬらりひょん逆に、胡散臭そうなものを見る目で私を見る。
「お主、何を企んでおる?」
そして、問い詰めてくるが、私は強制などしていない。
多分…… 少なくともトウフには強制はしてないぞ。
アライにもしてないと思う。
「企んでるんじゃない!! これは純粋な願い! そう、愛だよ」
そう、これは愛なんだよ。
友情を超えて愛になる物語なんだよ!!
「この方は同性同士の友情に興味がありんすよ」
そこへカラカサがやって来て、瞬時に状況を把握してそう答えた。
同性同士じゃない。少年同士だ! 間違えるな!
「なるほどのぉ」
と、ぬらりひょんの奴は分かったような顔をしやがる。
「言ってもわからないだろ」
私がそう言うと、
「いやいや、昔からある古典ではないか」
と、ぬらりひょんは笑った。
「え? そうなのか?」
古典だったのか?
そういえば、そんな話もちらほらと聞いたことがあるような……
「なんだ、まだまだだな」
そう言って、ぬらりひょんは意味ありげに笑った。
な、なんだコイツ! 本当はトウフに興味あるのか!?
それはどうなんだ? トウフの相手が爺とか……
ふむ…… 一考の余地はある…… か?




