【第五章】私と粒餡派か純情派か、はたまたコーヒー豆か?【五十話】
その喫茶店は誰も知らない。
いや、知られていない。
なぜならば、とある寂れた古いアパートの一室が喫茶店となっているから。
そこでは、それなりに美味しいコーヒーと本当に美味しい小倉トーストを出してくれる。
お代?
お代は無料だ。
文句を言いながらもそこのマスターはおかわりにも対応してくれる。
だって、喫茶店のマスターは小豆洗いという妖怪だし、営業届も出してないし。
そもそも、客は私とトウフだけだしな。
いや、お代を払ってないから、私もトウフも客ですらないけどな。
「なあ、アライ、そろそろメニュー増やさないか? コーヒーと小倉トーストだけだと流石に飽きがなぁ」
他のメニューがあってもいいころだ。
流石に毎朝同じメニューばかりだと、飽きがくる。
「文句があるなら来なくていいんだぞ?」
小豆洗いのアライがそう言って私を睨んでくる。
「本当に?」
けど、と私が言い返すと、狼狽するのはアライの方だ。
「いや…… それは困る…… 頼む、来てくれ!」
だよな。
アライ。おまえは喫茶店で儲けたいんじゃなくて、喫茶店ごっこをしたいだけだもんな。
それには客が必要なんだ。
「そこまでして、喫茶店ごっこしたいのかよ」
私が言うと、
「ごっことかいうな! こっちは命かけてやってんだ!」
と、唾を飛ばしながら言い返された。
命かけてんのか?
「赤字だけどな」
「それは、そのうちどうにかなるし、俺様は妖怪だ。人間の金なんかに興味はない」
本当にどうにかなるのか?
ならんだろ…… どう考えても。
「そうかー、じゃあ、新メニューでも考えるか? なあ、トウフ」
アライに新メニューを考える気がないなら、こちらで考えてやればいい。
そういえば、最近トウフの作った味噌汁飲んでないな。
朝しか作ってくれなかったのに、朝はアライのところで食べるのがデフォになってるからな。
夜にトウフにトウフの味噌汁が飲みたいと、頼んでみるか。
あっ、なんかプロポーズでそんなのあったなぁ。
「豆乳とかどうですか!?」
私がぼぉーとそんなことを考えていると、トウフがアイディアを出す。
おお、いいじゃないか、豆乳。
健康に良さそうだし。
豆乳ラテとか良いんじゃないか?
トウフとアライのハーモニーだぞ。
なんだか、ワクワクして来たな!
「おお、いいな。豆乳! 豆乳ならトウフが出せるんじゃないか?」
私がそういうと、トウフは少しがっかりした表情を浮かべた。
そして、残念そうに答える。
「オカラですら無理です。ボクが出せるのは豆腐だけです!」
そうか、それは残念で仕方がない。
そうか、豆腐しか出せないか。
「そうかー、じゃあ、厚揚げとかは?」
厚揚げを焼いてかつおぶしを乗せたの旨いよな。
そういえば、トウフが厚揚げを出しているとこ見たことないな。
「それも無理です」
顔を曇らせてそう言った。
木綿豆腐と絹ごし豆腐だけしか出せないってことか。
まあ、無から出しているんだから、贅沢言っちゃいけないよな。
「じゃあ、油揚げもか」
「はい、無理ですね」
油揚げも無理か。
そういや、トウフの奴、スーパーで油揚げ買ってるもんな。
なんで今まで不思議に思わなかったんだろ。
「つまり、木綿と絹ごししか出せないのか?」
「まあ、そうですね」
トウフは少し心苦しそうにそういった。
「おぼろ豆腐とかはどうなんだ?」
そこへアライの奴がそんなことを言ってきた。
「なんですか? それは」
けど、トウフはそれが何のことかわからない様子だ。
「あー、えっとな、なんだっけか。寄せ豆腐? だったかな? それの別名だったか」
確か、そうだったよな。
私も曖昧だけど。
「寄せ豆腐…… 無理ですね。扱っていなかったと思います」
トウフは首をかしげてそう言った。
扱ってない?
「それってトウフが生まれた名店の話か? じゃあ、油揚げや厚揚げも?」
「それは扱っていたんですが、ボクは出せません」
うーん? 単純にそういうことではないのか。
まあ、出せないもんは仕方ないよな。
「ふーん、まあ、妖怪だしな。細かいこと気にするだけ無駄か」
「抹茶ラテ餡子トッピングとかどうでありんすか?」
そこへカラカサが来て、新メニューの提案をする。
「おっ、良いな、それ!」
抹茶ラテか。
餡子トッピングも良いじゃないかよ。
「なになに、抹茶ラテだと? まずはレシピを検索して…… コーヒー使わないじゃねぇかよ!!」
だが、抹茶ラテ、作り方、で、私のスマホを使い検索したアライは餡子よりもコーヒーを使わないことに怒りだした。
おいおい、小豆洗い、それでいいのか?
「餡子は使っているだろ? 小豆洗いのくせに餡子よりもコーヒー豆を取るのかよ! コーヒー豆洗いかよ!」
と、私がからかう。
「だから、俺様は命かけてるんだ!」
ああ、そういうことか。なるほど。
小豆洗いがコーヒー豆洗いになろうともってことか。
本当に命かけてたんだな、おまえ。
いや、割とどうでもいいや。
とにかく新メニューを増やしてくれよ。
流石に飽きるって。




