〜そして、陸へ~13.
先程部屋を移動した時と同じように、ワゴンにつかまって、それはそれは広い湯殿にたどり着いた。
歩くうちに少しずつ、コツが分かってきて、体重移動の仕方がうまくなってきた。
脱衣所からはリーアが手を貸してくれ、何とか広い湯舟まで連れて行ってもらう。
生まれて初めての温かいお湯。淡く濁り、桃色の花びらが散り、むせ返るような花の香りが立ち籠めている。
おそるおそる足を入れ、ゆっくりと身体を湯に沈めていく。すると、人魚のときにはなかった、身体に纏わり付く水の抵抗を感じた。
ローラは打ち身が少なからずあり、そういう処が温まると血行が良くなり、かえって痛みが酷くなるという。そのため、体温と殆ど変わらぬ湯が張られていた。
水の感触は、ただ、懐かしい。
かつての身体には不可欠だった海の恵みは、人の体に変わった時に別の何かに変わってしまった。
それは少し寂しいことだったが、不快なものではなかった。
何度も頭からお湯をかけられ、たっぷり泡立てた石鹸で、全身くまなく洗い立てられる。
本当は自分でやってみたかったのだが、リーアに自分がやったほうが早いと一蹴されてしまった。
あっという間に磨き上げられ、化粧オイルや香油を、打ち身のないところに全て塗り込まれた。昨日より少し控えめに湿布なども貼られたが、少女らしいふんわりした衣装を纏うと、ほとんど気にならなかった。
リーアの手によって、バサバサだった髪は艷やかに整えられ、本来の美しさを取り戻していた。
顔の周囲だけ髪を編み込みすっきりさせて、生花を耳の上に飾られた。
彼女の首には、視えない金剛石の首飾りの偽装のために、視える真珠の首飾りがかけられていた。真珠と同じ色の肌は、すっかり輝きを取り戻し、内側から光を放っているかのよう。
美しい桜色の唇に、控えめに紅をさすのみで化粧は終わった。
自分で飾り立てたのに、リーアは見違えた目の前の少女の姿に、思わず溜息をもらす。
「……合格、ですわローラ様。少なくとも外見は」
……ハイ。
二章終わりです。
読んでくださってありがとうございます。




