~緩やかな時~19.
私は、失念していた。この、幼い頃のウィルと、五年後の今のウィル。
ーー少なくとも、彼は二回死にかけている。
二回会って二回、海で遭難しているなんて、そんなコトがあるだろうか。
逆を言えば、私が知らないときもーー例えば陸の上でーー彼は恐らく危険な目に遭っている、ということになる。
あの時。三隻の船が嵐に遭っていた時、海上は恐ろしい程の悪意に満ちていた。海の魔法に護られている自分が恐怖する程に。
まさか……、こんなことがずっと続くの?
バシュッ
そこにはウィルがいた。明らかに大人になった彼は、背が伸び、長めの髪を無造作に横に流し、何かを叫んでいる。
そこはまたも、船上だった。しかもその様子は前回と大差ない。
襲われている風ではないのに、沢山の人が剣や獲物を振り回し、戦っているようだ。
ーーこれは、何?今度は何が起こっているの?
甲板には、無惨に引き裂かれた飾りや食べ物、ワインの瓶や杯などが多数転がっていた。
ウィルを始めとする殆どの人が、綺麗なパーティー用の衣装を身に付けている。
見える場所には居ないようだが、どうやら女性のものとおぼしき悲鳴が時折響いていた。
ウィル自身も戦いながら、味方に何かを言っているようだが、様々な音にかき消されてマリエッタには聞こえない。
ーーもっと近くに……。
頭上から見下ろすようにしていたマリエッタの視界が、少しずつウィルの側に寄っていく。
ウィルが剣を交えていた一人の剣を弾き飛ばすと、何人かがを縛り上げているとき、彼の背後で何か動いた。
船室へと続く入り口の影から突然現れたそれは、幅広の帽子を目深にかぶり、音もなくウィルに近づくと、短剣を背中に突き刺した。
ーー!!
ゆっくりと、ウィルが振り返ると、帽子の下から見据える瞳と目が合った。
そしてその男は、トンと、ウィルの肩を押した。
長身のウィルの身体は、仰け反りながら手すりを越え、吸い込まれるように落ちていく。
ーーいやーーっ!!
*************
「マリエッタ。目をお開け」
急激に現実に還ったマリエッタは、今にも大声をあげそうになっていた口元を、慌てて押さえる。
自分のものとは思えぬほど胸は早鐘を打ち、すぐには息を調えられそうもなかった。
そんな彼女を知ってか知らずか、ヴァリーは言葉を続けた。
「お前が今視たものは、想い人の過去と未来だよ。過去はもう、確定しておる」
今より、ずうっと大きくなったウィル。けれど、未来の場面は、少し靄がかかっているようだった。
過去は……、確定している。
「では、未来は?」
「左様、未だ定まっておらぬ。王子というと、何かと敵も多かろうて。今現在、死相がちらついておるということは、これからも何度もこのような目に遭い、お前が視た、その時に命を落とす可能性が一番高い、ということになるな」
マリエッタは、ショックで鈍った思考を、懸命に働かせた。
死ぬーー。ウィルが?
殺されるの?
あの、冷たい色の瞳をした人に……。
私は、彼のコトが、知りたかった。
ただ一方的に想っているだけから、ウィルがどんな人でどんなことを考えてどんなことが好きなのか…。
彼のコトをもっと知って、初めて感じる、“恋”というものを知りたかったのかもしれない。
でも、好きという気持ちと、その人の“死の運命”を一緒に知りたくなんて、なかった。
どうすればいいーー?
ヴァリーは『可能性』と言ったわ。それならーー
「彼が死なずにすむ可能性は、どのくらいあるの?」
会うたび死にそうになってるウィルくん。
彼がキライなワケじゃありません~(^^;
読んでくださってありがとうデス(^o^)




