~緩やかな時~11.
朝が来ると、昨日の嵐が嘘のように晴れ渡っていた。
小さな入り江には、嘘ではない証拠に、色んなものが流れ着いていた。
その中から、ウィルが掴まっても沈まない程の木切れを選び、早めに陸を目指すことにした。
以前ウィルが無人島に居たときとは違い、ここには湧き水などの飲み水がない。
加えて頭部の怪我もあり、体調を考えたら、一刻も早く出発した方が良いという判断だ。
あっという間に広い海のど真ん中。それに今回は、ウィルが一緒に泳いでくれているので、スピードが全然違う。
そんな中、ウィルが何度も確認してくる。
「ねぇマリエッタ。これ、もう取ってもいい?」
視界が限りなくゼロで、時々かかる波のせいで少し濡れてきている。
「ダメ!傷口も、今血が止まっているだけなんだから、お医者さんに診てもらってからにして!」
それにそれを取られたら、マリエッタの年をごまかせなくなってしまう。
何度もこのやり取りはあったものの、かなりのハイペースで泳ぎ、陸の影が見えてきた。
「ウィル、もうすぐ着くよ。この前と同じ場所でいい?」
「うん」
ほどなく、前と同じ陸へと続く岩場の端に辿り着いた。
ウィルの足が、もう水底に届いたのを確認すると、ようやく安心した。
「それじゃあ、ウィル。早めに手当てをしてもらってね」
そしてマリエッタは、何かに急き立てられるように、身を翻そうとした。
……その手を、ウィルが思いの外強い力で掴んだ。
「待って!」
これで、二度目……。そんなコトを考えながら、彼女は振り返る。今度は躊躇しなかった。
「何かお返しをしたい。けれど、今は何も持っていないから……」
そう言うと、彼はマリエッタの手の甲にそっと恭しく口づけをした。
「……!」
突然の出来事に吃驚したが、手を引くことはなかった。
「もう一度、会ってもらえないか」
駄目だ……と、言うつもりだった。
いくら型破りな彼女でも、人の領土にそう何度も踏み入ることは危険だと、理解はしていた。
なのに、自分の舌が痺れてしまったように、違う言葉を奏でていた。
「いいわ。……次の新月の夜、ここで」
返事を待たず、今度こそ打ち寄せる波しぶきの中に身を消した。
読んでくださってありがとうございます(*^^*)




