新たな地へ④
「竜種……!?」
「ああ。さすがに私たちだけでは、手に負えない相手で困っている」
スタン様の声にはどことなく緊張感があり、空気が一瞬で塗り替えられる。
ドラゴンが生息していて、しかも瘴気に犯されている森。
確かに、吟遊詩人二人だけで行くのは自殺行為に近いだろう。
まあ、厳密には、俺は天使の生まれ変わりな上に、魔物は実質、俺たち天使の支配下に置かれている。
だから、危険に晒される可能性は低いのだけど、さすがにそれをこの場で口にすることはできなかった。
「瘴気の方は、大丈夫だと思うけれど。ドラゴンか……。先に行ったローゼンさんたち、大丈夫だろうか……」
思わぬ事態に、血の気が引くのが分かった。
「……ライル」
思ったことをそのまま口にしていたからか、母さんが口を挟んできた。
「きっと、大丈夫よ。ローゼンさんたちを信じましょう」
「……うん。そうだな」
母さんの言葉に、身体の芯から自然と笑みが込みあげてくる。
そして、冒険者ギルドでの出来事を改めて、思い返す。
『瘴気に犯された森を救ってほしい……か。森の奥に生息しているのが、ただの魔物なら同行しても、問題はあまりねえんだろうな』
ローゼンさんはAランクパーティー、『ドミニカ』のリーダーだ。
それにあの物言いだと、事前に冒険者ギルドから詳しい説明を受けている。
たとえ、ドラゴンに遭遇しても、易々とは負けないはずだ。
「これからのことだが、ドラゴンに遭遇するという、最悪の状況は回避せねばならない。だが、問題が沈静化するまで、しばらく時間がかかるだろう」
ローゼンさんたちのことを話していたからか、スタン様は再度、調査について触れた。
「リンクス領の領主に、協力を要請している。しばらくは、リンクス領に留まることになるだろう」
俺はその言葉を聞いて、妙に納得していた。
だから、あの依頼はリンクス領の領主から出されていたのだろう。
俺が表情を引きしめて、話の続きをじっと待っていると。
「ライルくん、落ち着いているな。ドラゴンと聞いて、もっと動揺するかと思っていた」
スタン様は意外そうな顔をしていた。
「物心ついた頃から、母さんとともにネーア王国の街々を転々としていましたから」
「……そっか。随分、苦労されたんだな」
俺の言葉に、スタン様は感慨深げにつぶやいた。
さらに今後の予定を組み立て、スタン様の話は終わった。
それからリンクス領への出発は早かった。
隠し通路を利用するため、急を要していたのが理由だ。
しばらくして冒険者ギルドの近くにあった、隠し通路の入り口に到着すると、さらに気持ちは引き締まった。




