新たな地へ③
『ライルせんせい、アイリスさま。おでかけしてもかならず、もどってきてください』
俺はあの日、約束したルリア様の姿に思いを馳せる。
「……はい、もちろんです。俺たちの帰る場所はここですから」
俺は祈りに似た心境を胸に、天井を見上げた。
「ライルくん、いるかい?」
「はい」
部屋をノックするスタン様に、準備を整えた俺はそう返事した。
俺はゆっくりとドアを開ける。
「お待たせしました。遅くなってしまってすみません」
「いや、こちらが無理を言ったのだから、構わないでくれ」
ダナー商会が利用していた隠し通路には、早朝に出発することになっていた。
秘匿されていた隠し通路。
できるだけ、人目がないうちに移動したいみたいだ。
予め、ルリア様には早朝に出発することは伝えていた。
だけど、見送りの挨拶ができなくて、少しさびしそうにしていたな。
思いを馳せていると、スタン様は俺たちをじっと見つめて言った。
「ライルくん、アイリス様。出発前に、これからのことを少し話しておこう」
「は、はい」
「分かりました」
スタン様の後について、広間を通り過ぎ、奥の階段を上る。
二階には、スタン様が使っている執務室がある。
執務室の中には、執務机と応接セットが置かれていた。
「どうぞ、かけてくれ」
「はい」
「ありがとうございます」
促されて、俺と母さんは応接セットにスタン様と向かい合わせに座る。
「早速だが、本題に入りたい」
そう前置きすると、スタン様は話を切り出した。
「現在、グランジ家は、ダナー商会の逃亡先を割り出すため、冒険者ギルドと傭兵団の力を借りている。それぞれ東西南北に散らばり、ネーア王国周辺の調査にあたってもらっているんだが」
スタン様は少し考えるように呼吸をはさんだ。
「その調査の進みが悪い状況にある」
「えっ……?」
俺たちの驚きように、スタン様は念押しするように続ける。
「調査の際に、大きな森を通ることになるのだが、その森が瘴気に犯されていてな」
その話に、俺と母さんは思わず、顔を見合わせた。
その森って、もしかしてローゼンさんたちが依頼で向かった森のことなんじゃ!?
俺たちが戸惑っている間にも、スタン様の話は進んでいく。
「魔物の数がかなり多い。しかも、厄介な魔物が、森の奥に生息しているらしくてな。迂闊に先に進めなくなっている」
「厄介な魔物……」
俺はスタン様が口にした言葉を反芻する。
冒険者ギルドで聞いた危険な魔物。
一体、どんな魔物がいるのだろうか。
冒険者ランクA以上の提示が必要になるような、恐ろしい魔物か……。
そこまで考えたところで、ある可能性に気づいてしまった。
「もしかして、森にいる厄介な魔物って……」
「……ドラゴンだ」
言いかけた俺の声を、スタン様の声が追い抜いた。




