第18話 ジャイアントなコーン その1
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
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鏡原さんの後をついて行くと、彼女は1階の端にあるドアを開け躊躇なく中へと入っていった。
その大胆な行動から、おそらく下見は済んでいるんだろうけど、こっちは悪いことをしているようで落ち着かない。
周りに人がいないことを確かめてから急いで部屋の中へ飛び込めば、そこは小さな空き部屋だった。薄暗くて、どこか埃っぽい。
正面の締め切ったカーテンを鏡原さんが開けた。そのまま腰高窓のガラス戸を開けるとこっちを振り返る。
「ここから外へ出るから」
「はっ‥‥‥!?」
こっちが驚いているのを無視して、鏡原さんは窓枠へ手を突いた。
そのまま体を持ち上げると細身のジーパンに締め付けられた窮屈そうなお尻がこっちを向いた。
「ちょ、ま、待って―――」
呼び止めようとしたけど、鏡原さんの体は一瞬で窓の外へ。
こんなことがバレたら一発退校処分になるんじゃなかろうか‥‥‥。
そんな考えが頭をよぎったけど、もう鏡原さんの姿はなく‥‥‥アイスをおごると言った手前、僕には後戻りという選択肢はなかった。
仕方なく窓へ飛びつくと、外に立っている鏡原さんから、「カーテンと窓閉めて」と指示が飛んできた。
外に出ると音を立てないよう静かに窓を閉める。そして振り返ってみれば、彼女の背中はもうすでに海へと向かう遊歩道に移動していた。
「ちょっ、待って‥‥‥」
強引に誘っておいて、そのくせ仲良くする気は毛頭なし。
はぁ~、と溜息を吐いてから先を歩く鏡原さんの背中を追いかけた。
宿泊施設から、この島に降り立った港を経由し、船の上で見たビーチ沿いの道を通り抜けて旅館やホテルが並んでいる島の反対側へ。
「あそこ」
そう言って鏡原さんが指差したのは、ひときわ目立つ背の高いリゾートホテルだった。
ここまで一緒に歩いてきて、会話はゼロ。やっと口を開いたと思ったら無愛想な一言と簡単なジャスチャーのみで‥‥‥まるで言葉の通じない外国の秘境ガイドだ。
まあ、たしかにコンビニが入っていそうだけど、宿泊客でもない僕たちが勝手に利用していいのだろうか。そんな疑問を胸に、鏡原さんの後を追って1階のロビーへ。
真夏の離島は、夜になっても気温があまり下がっていなかった。ここへ来るまでけっこうな汗をかいている。ロビーに立つと空調がよく効いていて、一気に汗が引いた。
そして目的の場所だけど、奥の方を見れば彼女の言った通り、青と白の看板を掲げた全国チェーンのコンビニがあった。
早速店内へ入る。こんな離島で夜の時間だというのに、まだ多くのお客さんが買い物をしていた。
―――この機会に食べ物や飲料水を買っておくか
そう思って黄色の買い物カゴを手に取った。
先に入店した鏡原さんは迷わずアイス売り場へ移動していた。こっちは雑誌コーナーを確認しつつカップ麺の棚の前へ。
「これ」
すっと近づいてきた鏡原さんが、さも当たり前のようにジャイアントなコーンを僕の買い物カゴの中へ入れた。
おごると言ったのはこっちなので彼女の行動に異論はない。それでも、あまりに自然な振る舞いは周りの人からすればカップルに見えるんじゃないのかと。
ゆっくり買い物をしたいけど、宿泊施設の門限を破っているのであまり時間はかけられない。それでもここへは何度も足を運べるわけじゃないので、今夜は少し多めに買っておこう。夜食のカップ麺やスナック菓子を選んで買い物カゴに入れる。
「これも。あと、これも」
ドサ、ドサっと音がして左の肩が重くなった。
カゴの中を見れば、2リットルのペットボトルを筆頭に手に取った覚えのないものが大量に入れられていた。
「あ、おい! アイスって話だろ。これは自分で―――」
「―――財布忘れた」
「あ‥‥‥そ、そういうことなら。じゃあ立て替えとくから」
「ちいさ」
鏡原さんがポツリと呟いた。
いやいや、聞こえてるんだけど。そもそもなんで初対面の人におごらないといけないんだ。小さいなんて言われる筋合いはない。
彼女より大人な僕はムッとしつつも会計を済ませた。
「アイス溶けるんだけど」
帰りの道で鏡原さんが無愛想に言った。
パンパンに膨らんだ買い物袋が重くって、こっちはそれどころじゃない。
早く宿泊施設に帰りたかったけど、考えてみれば点呼も終わり、すでに門限を破っている訳で。
宿泊施設まで走ったとしても、彼女の言うとおりアイスは溶けているだろう。
「じゃあ、どこかで食べて帰る?」
「なに? 私のこと誘ってんの?」
「いや、そうじゃなくて‥‥‥ははは、そっちが言い出したんだけど」
呆れて渇いた笑いが漏れてしまった。ただ、なんだろ、そんなに嫌じゃない自分がいたのも事実で。
「なに? ちょっと笑ってない? こわ」
「あのな‥‥‥」
彼女の言葉は本気なのか、こっちをただからかっているだけなのか。こんな会話のやり取りで懐かしさを感じている僕は相当重症だ。
鏡原さんの後を歩いていると、その背中が来た道を外れた。
海に向かって突き出した防波堤が見える。
「どこ行くんだ」
鏡原さんの歩く先―――防波堤の先端の辺りに、夜釣りだろうかライトの灯りがいくつも見えた。彼女はちょうど中間あたりで立ち止まった。
躊躇なく腰を下ろすと、両足を海の方へ投げ出した。
「危ないって」
僕が注意すると、鏡原さんはそ知らぬふりして手招きした。
「ひゃくさき、こっち」
「ももさき」
やっぱり揶揄われているみたいだ。
訂正すると鏡原さんの無愛想な表情が一瞬緩んだ気がした。
近づいて1人ぶんの距離を取ってから同じように腰を下ろした。
干潮なのかわからないけど下に見える海面は低く、道を歩いていたときよりも潮の香りを強く感じた。
買い物袋から2人分のアイスを取り出しジャイアントなコーンを彼女へ手渡す。
「ありがと。百崎はなに買ったの」
「僕はクーリッ〇ュのバニラ」
「それ歩きながら食べれるから‥‥‥」
「えっ、先に帰れってこと?」
「あはは‥‥‥冗談、冗談だから」
今度は間違いなく笑った。当たり前だけど鏡原さんも笑うんだな。船の上からこっち、彼女を見ればいつも無愛想で、だからそのギャップなんだろうか―――つい油断して可愛いと思ってしまった。
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