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第8話 パンドラの箱 その2

 カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 10万字を目指して(完結目指して)頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

「満月さんと一緒にいる男子は、隣のクラスの西野入宗助。ここ1か月で激ヤセした出来立てホヤホヤの即席イケメンよ」


「さすがは面食い加藤、情報が早いね」


 学級委員長の加藤さんが男女のカップルを見てわざわざ説明してくれた。

 それに対して井上さんは呆れた様子で口を開いた。


「べ、別に面食いなんかじゃ‥‥‥百崎くんと比べたら‥‥‥でも―――」


 慌てて言葉を返した加藤さん。小声になった後半部分が聞き取れない。何故だかこっちをチラ見してから話を続けた。


「―――西野入って男子はともかくとして、ちょっと残念に思っただけよ」


「残念?」


 井上さんに代わり今度は妹が口を開く。不思議そうな表情で首を傾げている。


「そう、残念。だって満月さんは高嶺の花で孤高の存在でしょ。今まで見向きもしなかった男子が痩せてイケメンになった途端に手を出すなんて‥‥‥以外に普通だなって、そんな感じ」


 僕は宗助と満月さんの2人が以前から―――宗助が太っていた頃から付き合っていることを知っている。なんなら満月さんの方から告白した話も。


 だから加藤さんの話には全く同意できない。

 でもその事実を知っている人は、この学校では当人たちと僕以外に存在しない訳で。


 加藤さんと同じことを考える人は意外と多いのかもしれない。

 現に腕を組んで歩く2人に向けられる視線にはどこか生温かいものが含まれているような気がした。


「めっちゃ可愛い‥‥‥満月さんってあんな表情すんだ」


 道向かいの2人をじっと見つめていた妹が言った。

 その言葉に加藤さんがハッとした顔を見せる。そして、「そうね、すごく幸せそう」って呟いた。


 宗助は片手を頭にやりどこか困ったような照れ笑いを浮かべていた。

 一方の満月さんは頭を少し俯かせてはいるけど、一見していつもの感情の読み取れない綺麗過ぎる顔に見えた。だけどよく見ればその口元には孤高の存在とは対照的な愛らしい笑みが浮かんでいた。


 僕は声を掛けることなく2人を静かに見守った。

 2人は腕を組んだまま緩やかな上り坂に差し掛かる。


 今まで交際している事実を周りに伏せてきた2人だ。

 今朝はなんで堂々と人前でカップルとして振る舞っているのか。

 僕はその理由に心当たりがありすぎた‥‥‥。



 教室に入って席に着くといつものようにカバンから中身を取り出した。

 机の上に重たい教科書をドカッと置く。続いて取り出した2つの筆箱。


 ―――あれ? どうして筆箱が2つあるんだろう‥‥‥


 そんなことを考えていると筆箱の1つが違う物に変化した。

 正しくはそう見えただけで、最初から筆箱なんかじゃなかった。それは親戚の叔母さんがくれたもので、学校とは無縁の僕たち兄妹にとってはパンドラの箱と言えるものだった。


 ―――こんなものが周りに見つかれば大惨事は免れない。素知らぬ顔をしてカバンの中に戻せばまだ間に合う


 そう考え急いで伸ばした僕の右手は、まさかの空振りだった。

 代わりに小さな手が件の箱をしっかりと掴んでいた。


「この箱なに?」


 首を傾げた井上さんが手の中にあるパンドラの箱を不思議そうに眺めていた。

 握った手を回転させ、表面に印刷されている文字に目を通している。


「だ、ダメだ―――!」


 言うが早いか僕は件の箱に向かって右手をまっすぐに伸ばした。

 こっちの声に驚いた井上さんが一歩下がり体を大きく捻った。そのせいでまたしてもパンドラの箱を掴み損ね―――次の瞬間、件の箱は教室の天井付近を静かに舞っていた。


「―――あっ!?」


 咄嗟に声を上げた。そのせいで騒ぎに気付いたクラス中の視線が集まった。

 僕の視線の先を追ってクラス中が空飛ぶパンドラの箱を目撃する。


 回転しながら空中を舞う件の箱の動きがまるでスローモーションのように映った。頭の中でエルガーの『威風堂々』が流れる。


 件の箱が放物線を描いて飛んで行く。

 その先には考えられる中で一番最悪の結果が待ち受けていた。


「―――っと。はい、みんな静かに」


 みごとキャッチしたのは教室の入口から現れた担任の片桐先生だった。

 表面に印刷された文字をしっかり確認した後、飛んできた箱の軌跡を辿るように僕と井上さんの顔を交互に見る。


「あの、それは―――」


 上手い言い訳なんてすぐに思い浮かぶはずもなく。


「百崎くんと井上さんは昼休みに職員室へ来なさい」


 一部の生徒は件の箱の正体がわかったみたいで、教室中がざわついていた。

 

 この時になってようやく思い出す。

 今朝、遅刻寸前で起こされてから慌てて学校の準備を整えた。たしかあの時、寝る前にはなかったコンドームの箱が机の上にあったような‥‥‥僕は痛恨のミスを犯してしまったみたいだ。それも井上さんを巻き込んで。

 読んで頂きありがとうございました。

 年の瀬が近づいて何かと忙しい毎日です。平日は最低でも1話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。

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