第7話 パンドラの箱 その1
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
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期末テスト最終日の翌日。
朝から妹に叩き起こされた。
「いい加減、起きろ」
遠くの方から妹の声が聞こえた。
ボフっと音が響いて、体が潰されそうに重い。
――――――そうだ。僕はプロレスラーだった。対戦相手の覆面女子レスラーは‥‥‥うん? 女子レスラーって‥‥‥やたらスタイルがいい。リングの上に仰向けで倒れている僕はコーナーポストの上に登った彼女を下から見上げる。すると彼女はこっちに向かってアクロバティックな跳躍を見せ――――必殺技は強烈なボディプレス――――――
「ぐぅ――――」
「兄貴、朝~~~!」
眠りの淵から急速に現実へと意識が覚醒した。
耳元で妹の甲高い声が響く。目を開ければ僕の顔のすぐ横に、掛布団の上に乗った彼女の顔があった。
「お、重いから」
「女の子に向かって体重の話はハラスメントだよ、お兄ちゃん♡」
妹の体が一旦離れ、軽くなったと思ったらすぐに落ちてきた。
「げふっ――――! い、今何時?」
「あと10分で出ないと遅刻だから」
「なっ―――!?」
見れば妹は制服姿で、すでに学校へ行く準備が整っていた。
急いで制服に着替えると机の上にあった教科書をカバンの中に詰め込んだ。
朝食を取る時間はなかった。洗面を済ませて家を出ると、少し歩いたところでふくれっ面した妹と合流した。
テスト期間中の寝不足は仕方がないことだけど、ここ最近は別の意味で睡眠が取れていなかった。
互いの気持ちを確認した僕と妹は、タイミングが良いのか悪いのか同じ部屋で寝起きを共にしている。
妹は「付き合ってる」なんてこと言い出す始末で、昨夜は寝る直前まで彼女の柔らかい体を抱きしめていた。
要するに最近は思春期男子として悶々とした夜を過ごしている訳で――――。
当然、寝る時は彼女が僕のベッドで、僕は床に敷いた布団を使用した。
法律上の僕たちの関係はただの兄妹。だけど血は繋がっていない。
ひた隠しにしてきた本心を妹に伝えて以降、彼女との距離は縮まった。それは心だけではなくて物理的なものまでも‥‥‥。
家族である以上、当然だけど兄としての気持ちや役割もある。
だから安易な行動に走ることは許されない。それでも妹の可愛さに抗えない場面が多々あったのも事実で。
杏叔母さんに貰ったパンドラの箱はいまだ未開封だった。
週の真ん中の水曜日は、朝から梅雨の晴れ間で気持ちの良い青空が広がっていた。
電車を降り改札を出ると妹が手庇しを作り空を見上げた。
「ヤバ、日焼け止めいるじゃん」
確かに今日の日差しはここ最近では一番強いように感じた。
まだ梅雨明けの話は聞かないけれど、すぐそこまで夏が来ている証なんだろう。
「恋ちゃん、実は曇ってる時の方が紫外線強いって話、聞いたことない?」
駅で合流した井上さんが妹と同じような格好で空を見上げている。
「あるかも」
「でしょ、今日やばいね」
「ふん、陸上でこんがり日焼けした井上が心配する必要ないでしょ」
横から学級委員長の加藤さんが2人の会話に参加する。
加藤さんと井上さんは同小・同中でとても仲がいい。
「これ以上は焼きたくないって話だから。それより加藤の方こそ日焼けした方がいいよ。青白くて不健康そうだし」
「な‥‥‥色白美肌って言うのよ。これだから運動部の女子は‥‥‥認識が間違ってるのよ。ね、百崎くん」
学級委員長は何故かこっちに話をふってきた。
どう答えるのが正解なんだろうか、チラリと妹に視線を投げればぷいっとそっぽを向かれる。
「雲の合間に太陽が出てたら要注意で―――」
たしか雲で散乱した光が加わることによって晴れた日より紫外線が強くなるって話で。
「そんな豆知識、聞いてないから」
加藤さんの眼鏡のレンズがギラリと光った。そしてこっちにジト目を向けてきた。
僕が言葉に窮していると、助け舟のように妹が突然声を上げた。
「あれ―――! あの2人見て」
一同が妹の指差した方向に顔を向けた。
そこには駅向かいのコンビニ前を歩く僕たちと同じ学校の制服を着た男女のカップルの姿があった。
「この前のイケメン」
加藤さんが眼鏡のレンズが再び光った。
「付き合ってたんだ‥‥‥」
井上さんの感想はもっともで、男女のカップルは周りの目を気にすることなく―――正確に言えば女子だけが周りに憚ることなく堂々と腕を組んで歩いていた。
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