第28話 天気と転機
カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。
10万字を目指して(完結目指して)頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。
学校帰りの電車内で妹と恋人繋ぎをした翌日の金曜日は朝から雨が降っていた。
予報では昼過ぎに止むらしい。
改札を出ると学校へと続く緩い坂道の方向に顔を向けた。
日課のように妹の背中を探してみるけど、色とりどりの傘で視線は遮られてしまう。
仕方なしに自分の折りたたみ傘を取り出し歩きだそうとしたところで、駅舎の軒下で困ったように雨空を見上げる同じ学校の制服を着た女子に目が止まった。不意に目が合う。
「あっ、百崎くん‥‥‥」
「加藤さん」
僕の姿を認めた学級委員長は小さな笑顔を見せたんだけど、その顔はまたたく間に今日の天気と同じように曇ってしまった。
その理由を何となく察してしまう。僕は一旦傘をたたんでから彼女の傍へと移動した。
「もしかして傘がないとか?」
「家を出た時は降ってなくて‥‥‥忘れちゃったみたい」
もう一度雨空を見上げる加藤さん。眼鏡のレンズに水滴がついていた。
こんな時、僕のできることは知れていて―――だから彼女に自分の折りたたみ傘を手渡した。
「これ、使ってよ」
「だ、駄目よ。百崎くんはどうするの」
「ちょっと急ぎの用があって―――走ろうと思ってたから」
あまりにも見え透いた言い訳だった。
それでも傘を受け取ってもらうには理由が必要で。
「嘘‥‥‥」
「う、嘘じゃないから」
「優しいのね」
「優しくないから」
そんな押し問答のあと加藤さんが考える素振りを見せた。
そして真っ赤な顔で、「じゃあ、百崎くんの傘に入れて」と提案された。
「‥‥‥!?」
「駄目、かな‥‥‥」
相合傘のお誘い。
学校を目指す沢山の生徒の中を同じ傘の下で肩を寄せ合って歩くという、陰キャにはあまりにも高難易度ミッション。
「‥‥‥‥‥‥」
「ねっ、一緒に」
思考が纏まらない僕に対して、渡した折りたたみ傘をこっちに差し出しながら加藤さんの体がにじり寄る。
そんな彼女の目を見れば、まるで獲物を狙う猛禽類のように鋭く光っていて―――。
―――あれ? さっきまで不安に揺れてる感じだったんだけど‥‥‥
違和感を持ったまま後ずさる。
僕の体はすぐに駅舎の壁に阻まれてしまった。
「あいあい傘で登校しましょ」
加藤さんの口からまさかの「アイアイガサ」って単語が飛び出した。
彼女はもう何も隠すつもりはないみたいで。
「百崎くん♪」
僕の名前を呼んだ加藤さんの顔がグイッと目の前に迫った。
追い詰められた僕は崖っぷちに立つような感覚で、両手を精一杯広げ後ろの壁に体を押し付ける。
顔を背けると彼女の甘い吐息を頬のあたりに感じ―――その時だった。
加藤さんの真後ろに人影が立った。
その人物はいきなり加藤さんの頭に向かって手刀を繰り出した。
「―――痛ぁあああ!」
両手で頭を押さえた加藤さんが後ろを振り返った。
そして相手の正体を知って大きな声を―――もとい、大きく吠えた。
「何するんじゃぁあああ、井上ぇえええ!!」
「何するんじゃ~はこっちのセリフ!!」
「いいところで邪魔するなぁあああ~~~!!」
いきなりのキャットファイト。
同じ学校の制服を着た女の子同士が、朝っぱらから顔を近づけ至近距離でいがみ合う。その間に挟まれた僕は不格好にオロオロするばかりで。
後から聞いたところによれば、どうやら2人は同小・同中の同級生だったみたいで‥‥‥。
「うるさい、この地雷女! ホームルーム活動の時から変だって思ってたけど、やっぱり百崎くんに言い寄って」
「言い寄ってない!」
「少し前から様子を見てたけど―――こんな雨の日に几帳面なあんたが傘を忘れるわけないでしょ」
「忘れることだってあるわ」
「じゃあカバンの中見せてよ」
「い、嫌! なんで見せないといけないわけ」
「やっぱり、やってんじゃん。このメンヘラ女!」
「う、うるさい。百崎くん、こんな暴言女は放っておいて早く行きましょ!」
「百崎くん、騙されないで。こいつは地雷系メンヘラ女なんだから」
グイグイくる感じでなんとなく分かってはいた。
やっぱり加藤さんはメンヘラ女子。
それに井上さんは、地雷系っていう危険なワードまで頭に付け足していた。
結局のところ―――朝は何かと忙しい。
なんだかんだと言い合いをしていた2人だったけど、「傘を忘れた」と頑なに言い張る加藤さんが井上さんの傘に嫌々入れられるかたちで一緒に登校することになった。
1時間目の授業が終わると席に座っている加藤さんに声を掛けた。
「クッキーありがとう。さっそく頂いたよ」
「食べてくれたんだ。うれしい‥‥‥」
お礼を言うと優等生然とした加藤さんの表情がいっきに崩れた。
眼鏡の奥の瞳が糸のように細められ大きな笑顔をのぞかせる。
「味は‥‥‥どうだった‥‥‥?」
「うん、甘じょっぱくて美味しかった」
「ふふふ‥‥‥美味しかった‥‥‥。ん!? 待って‥‥‥甘じょっぱい?」
「う、うん。その~えっと~、あっ、そうそう、塩加減が絶妙っていうのか、甘さ控えめっていうのか」
「はぁあああ!? 塩加減!? 甘さ控えめ‥‥‥?」
「あっ、甘じょっぱくて―――」
「―――しょっぱくない!」
確実に地雷を踏んだのがわかった。
そもそも妹に完食されたクッキーの感想なんて言える訳がなかった。
朝出掛けにいつになく真剣な顔の妹から、「クッキーのお礼と感想を忘れんな!」と釘を刺されていた。
その時点で気づくべきだった‥‥‥。
「塩クッキーだよね‥‥‥」
「‥‥‥塩? 塩ってなに? 優しい百崎くんのイメージでものすごく甘い仕上がりにしてみたんだけど」
加藤さんの言葉で考えが確信に変わる。
彼女は甘い仕上がりのクッキーと言った。普通そんなものがしょっぱくなる理由はないはずで。だとしたら答えは1つ。
頭の中に浮かんだ顔は、口の両端を持ち上げ小悪魔的な表情を浮かべていた。
「だ、騙された‥‥‥」
微妙な空気の中、次の授業を知らせる予鈴が鳴った。
放課後になると予報通りに雨は止んでいた。
それでもグランドを使用する運動部は中止みたいで、該当するクラスメイトの何人かは、「よっしゃぁ!」と元気よく叫んでから教室を後にした。
陸上部に所属する井上さんからは、「駅まで一緒に帰ろ」って誘われたけどあいにく図書委員の仕事があったので断った。
土日を前に図書室の利用者は多く、あっという間に時間が経過する。
そして最終下校時刻がもうすぐってところで、思わぬ来訪者の姿が―――。
「王子様の正体が判明したわ」
扉を開けて中に入ってくるなり、僕の目を真っ直ぐに見つめて満月さんはそう言った。
続いて入ってきた険しい顔の宗助は無言のままで。
人生の転機は、こっちが嫌がろうとも向こうから勝手にやって来るものらしい。
妹を寝取ると決意した陰キャな僕の周りが一気に慌ただしく動き出す。
読んで頂きありがとうございました。
平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。
もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。




