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陰キャな僕は義妹を寝取ることに決めた。  作者: リンゴと蜂ミッツ
第1章 陰キャな兄とギャルな妹
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第26話 加藤さん

 カレー大好き『リンゴと蜂ミッツ』と申します。いつも読んでくださっている方は、大変ありがとうございます。

 10万字を目指して(完結目指して)頑張ります。モチベーション維持のために感想を頂けると大変嬉しいです。

 ―――昼休み。

 場所は言わずもがな。


 階段に腰を下ろした僕は焼きそばパンを頬張りながら、錆びついた手すりに背中を預けている陰キャ仲間の宗助にホームルーム活動での出来事を話して聞かせた。


「ほほぉ~ギルドでござるか」


 最近は満月さんにイケメンキャラを指定されていたはずだけど、今日の宗助は久しぶりにオタクキャラ全開だった。

 同時にダイエットを強要されぽっちゃり体型ではなくなった彼の『オタク言葉』に大きな違和感を覚えてしまう。


「思ったより上手くいったかな。合コン班とか高2年班とか‥‥‥一部でギルドの募集条件が滅茶苦茶になってたけど、それはそれで。班編成はホームルーム活動の時間でなんとか収まったよ」


「モモッチ殿の本好きギルドはこれ如何に?」


 いざ募集って段階ですぐに学級委員長が加わった。

 あと意外に思ったのが井上さん。陸上部とアルバイトに勤しむ彼女は僕のラノベに興味を示してはいたけれど、そんなに好きには見えなかったのに。

 あと数人、図書室で見掛けた事のあるクラスメイトが参加してくれた。

 

「まあ、なんとか決まったよ。それはそうとイケメンキャラはもういいの?」


 何となく話題を変えてみると宗助は慌てた様子で周囲に視線を走らせる。


「―――し、静かにするでござる!」


 きょろきょろとせわしない彼は口の前で人さし指を立てた。

 誰かいるとすれば満月さんくらいなもの。


「このことは美音に内緒でござるぞ。さすがにイケメンキャラは疲れるというかなんというか‥‥‥」


 嫌な予感は的中する。話題をふったこっちにも責任はあるけれど、フラグを立てたのは宗助自身だ。


 ―――カツン、カツン


 辺りに金属の床を叩くような音が鳴り響いた。

 思わず階段から腰を上げそのまま上を向いた。


 そこに姿を現したのは孤高の存在にして高嶺の花と謳われるモデルのようなプロポーションを持つ満月さん。階段の途中で立ち止まると冷たい表情で宗助を睨みつけた。


「内緒って聞こえたのは気のせいかしら?」


 底冷えのする声音で彼女は問うた。

 一方の宗助はその場で直立し血の気を失ったように真っ青な顔をしていた。


「き、聞き間違えでご、ご、ござ‥‥‥」


「ござる?」


「ござらない。すまない、美音。言い訳は、ない」


「あら、そう―――では、お仕置きね。帰りに私の家に寄りなさい」


「‥‥‥はい」


 その場で項垂れる宗助。

 満月さんの家でお仕置きって‥‥‥色々と気になる。気になるところしかない。

 僕はしばらく2人のやり取りを見守った。


「―――約束する」


「いいわ。許してあげる」


 2人のイチャイチャ? を見せつけられた後、頃合いを見計らってから昨夜の妹とのやり取りを伝えた。

 わざわざ絆創膏を外してキスマークを見せると、満月さんは一瞬呆けた顔になった。口の端から透明なものが伝い落ち、それを宗助が素早く拭き取る。見事な連携、まさか涎ではないと思うけど。きっと僕の見間違えだろう。


「百崎くん、義妹に告白しなさい。きっと大丈夫よ」


 簡単に言ってのける満月さん。僕には妹の言葉をそのままの意味で受け取ることはできなかった。

 兄を慕う幼くて未熟な妹としての感情。単なるヤキモチを男女のそれと同じに考えてはいけない。

 それに兄としての、長男としての立場がある。両親のことを考えれば、感情にまかせた迂闊な行動には走れない。


(れん)とは血が繋がってないけど、それでも僕の妹なんだ。だから、付き合うってことは‥‥‥」


 言葉に詰まった。ひた隠しにしている本心。そうありたいと願う心はいつも現実という大きな壁に阻まれてしまう。

 俯いた視線の先には錆びついた鉄の踊り場があった。僕の心もいつか同じように錆びついてしまうんだ、とそんな考えがぼんやりと浮かんだ。

 そんな情けない思考を遮るように満月さんの鋭い声が響く。それも僕の心の内を見透かしているんじゃないのかと疑いたくなるタイミングで。


「―――百崎郁人! 義妹のことを守りたいんでしょ! だったら、絶対に渡してはダメ。あなたの方から告白して『寝取り計画』を成就させなさい。彼氏になってから兄妹のことや家族のことを考えればいいじゃない。順番なんて関係ない、そうでしょ!」

 

 順番? 確かにものには順序ってものがあって―――でもそれは絶対ってわけでもない。彼女の言葉には妙な説得力があった。懸命に紡いでくれた言葉が単純に嬉しかった。


「ありがとう、満月さん」


「頑張りなさい」


「応援してるぜ、モモッチ」


 真剣に話を聞き一緒に考えてくれる2人。

 本当に相談してよかったと思っている。

 予鈴が鳴ってからイケメン風に戻った宗助が僕の肩に手を置いてウインクしてみせた。


 

 ホームルームが終わり、塾へと急ぐ生徒や部活の準備に追われる生徒が慌ただしく教室を出ていく。

 そんな中、最近話す機会が増えた井上さんがわざわざ僕の席にやってきて、「部活行くね、バイバイ~」と挨拶してから教室を後にした。


 今日は僕も図書委員の活動がある。

 机の上を片付けて席を立つと、学級委員長の加藤さんに呼び止められた。


「百崎くん、ちょっといい?」


「何か用かな?」


 教室に残っているのは日直とその他数人の生徒だけで、僕らの方を気にしているクラスメイトは誰もいなかった。


「昨日はごめんなさい。それに今日も助けてくれて‥‥‥本当にありがとう」


 深々と頭を下げる加藤さん。人に感謝される経験なんてない僕は慌てて言葉を探した。


「あ、いや―――そんな、お、大袈裟だよ」


「ううん、私がバカだった。去年の演劇を観てすごく感動しちゃって‥‥‥それで武波先輩に憧れて‥‥‥私っていつもこうなの。距離感がわからなくなるっていうのか、はぁ~本当にダメね」


 加藤さんはため息交じりに言うと自嘲気味に小さく笑った。

 ストレートの艶やかな黒髪を後ろで束ねた眼鏡美人の優等生。少し角張った眼鏡のせいなのか厳しい性格に見える彼女の印象が、この2日間でガラリと変わってしまう。


「僕はダメじゃないと思うけど。告白は勇気がいることだし僕には真似できないから。それに今日だってしっかりクラスをまとめてたじゃないか」


「百崎くんがいたから」


「あんまり役に立たなかったけどね」


 乱立するギルドを最後にまとめ上げたのはやっぱり学級委員長だった。

 そんな彼女が頼ってくれたのは、たぶんメンヘラ気質の裏の顔を垣間見た僕に対して少し気を許してくれているからだろう。そう思うと黙っていることはできなかった。


「ハンカチ貰ってくれる」


 加藤さんから小さな紙袋を受け取った。

 いつの間にか教室には僕と彼女の2人きり。

 彼女に促されて中を確認する。


「新品‥‥‥?」


「貸してくれたハンカチは洗濯したんだけど‥‥‥汚しちゃったから新しいのを買ったの」


「なんだか悪いよ」


「遠慮しないで使って。じゃあ、また後で」


 そう言って加藤さんは足早に教室を出て行った。


「じゃあ‥‥‥後で?」


 なんだか最後の言葉が引っ掛かる。

 もう1度紙袋の中身を確認した。

 

 そこには有名ブランドのハンカチとその下に透明な袋に入った手作りっぽいクッキーが入っていて、それとは別に2つ折りにされた小さな紙が。


「‥‥‥なんだろう」


 早速開いてみて見ればそこにはメッセージアプリのアカウントが書かれていた。



 帰り支度を済ませ急いで図書室へと移動した。

 週末を前にした木曜日の今日と金曜日の明日は利用者が増える傾向にある。


 何人かの生徒へ本の貸し出しを行い手元の台帳を整理していると入口の扉が開いてさっき別れたばかりの見知った顔が現れた。


「あっ、百崎くん。こんなところで何してるの?」


 そう言った加藤さんは、当然僕が図書委員だということは知らないはず。


「見ての通り、図書委員なんだ」


「へ~そうなんだ、イメージ通り。ねぇ、ここで学級委員の仕事していい?」


「勉強してる人もいるし大丈夫だよ」


 今まで加藤さんが図書室で学級委員の仕事をしているところを見かけたことはなかった。

 誰もいない教室の方が仕事は捗るんじゃないのだろうか。それに副委員長の男子の姿も見えない。でも、「どうして、ここで?」と聞くのは止めておいた。


 互いに黙々と図書委員の仕事をこなす。

 加藤さんは分厚い冊子を開いてノートに何かを書き写しているようで、校外学習に関することかもしれない。


「―――うん?」


 返却された本を書架に戻していると、背中に視線を感じた。振り返って確認してみたけど、こっちを見ている人はいなかった。

 正面に位置している加藤さんは黙々と仕事を続けていて‥‥‥気のせいだったみたいだ。



 最終下校時刻。

 図書室の施錠を確認してから扉の鍵を職員室へ返却する。

 昇降口から外へ出れば、湿気を含んだ生温い風が頬を撫でた。


「もうすぐ梅雨入りかな」


 夕暮れの空を仰いでから歩きだしたところで後ろから声を掛けられた。


「百崎くん」


「あっ、加藤さん」


 振り返れば、そこには最終下校時刻の30分くらい前に図書室を後にした彼女の姿があった。

 まだ校内にいて学級委員の仕事をしていたんだろう。


「百崎くんは電車通?」


「そうだけど。加藤さんは?」


「私も同じ。ねぇ駅まで一緒に帰りましょう」


 そう言ってから彼女は僕の隣に並んだ。

 別に断る理由はないけれど―――? いや、よく考えればあまりよろしくないように思えてきた訳で。

 登校途中に見ていた妹と武波先輩の背中が脳裏に浮かぶ。それに昨日妹に対して、「武波先輩とあんまり関わるな」なんて言ってしまった手前、もの凄く罪悪感が込み上げてきた。


「迷惑だった?」


 少し悲しそうな顔で加藤さん聞いてきた。

 僕は今どんな顔をしてるんだろうか?


「えっ‥‥‥!? 違うよ、大丈夫。ちょっと考え事してたから」


「そうなんだ。なにか困ってることがあったら何でも言って、こんどは私が力になるから」


「ありがとう、でも大丈夫だから」


 夕暮れの中、学級委員長の加藤さんとぎこちない会話を交わしながら駅に向かって歩いた。



 改札をくぐってから加藤さんと別れた。

 ホームに上がればサラリーマンの姿が大半で、電車を待つ長い列の後ろに並んだ。

 電車が到着して行列がゆっくり前へと進み始めたけど、今いる位置では座ることは難しい。


 電車内は仕事で疲れ切った顔の乗客が多くを占め、座席を諦めた僕は床にカバンを置いて吊革につかまった。

 発車時刻が近づくと一気に混雑が増し、左隣に立っている人が僕に体を寄せてきて互いの肩が触れ合った。


 電車が動き出すと、突然左手を握られた。

 ぎょっとして顔を向ければ、そこにはニッと笑った妹の顔があった―――。


(れん)さん、なんで手を握ってんだ?」


「いいじゃん。誰も見てないし」


 周りに目を向ければ妹の言うとおりで、誰もこっちを気にしてなんかいなかった。

 殆どの乗客は手にしたスマホに視線を落としているか、あとは下を向いて寝ていた。


「そういう問題じゃないんだけど」


「嫌なん?」


「嫌っていうか‥‥‥もし知り合いに見られたら」


「こうやって体をくっつけてれば見えないっしょ」


 妹が体重を預ける勢いで体を寄せてきた。

 最近、理不尽な行動が増えている。こういう時は何を言っても無駄だと僕は知っていた。

 だから握られた手はそのままに、気になっていることを聞いてみた。


「こんな時間まで何してたんだ?」


 部活を決めかねていると本人は言っているけど―――つまり帰宅部の妹がこんな時間になることは次の日が休みの金曜日以外では珍しい。


「武波先輩と一緒にいた」


「―――えっ!?」


 聞いた瞬間に心臓がドキリと跳ねた。

 

「あはは‥‥‥嘘」


「‥‥‥嘘って」


「兄貴の手がピクピクしてんだけど。びっくりした? それとも嫉妬?」


 兄を揶揄う妹はニヤニヤしながら肩をぶつけてきた。


「あのな~こんなところで兄ちゃんを揶揄うな。で、何してたんだ?」


「う~ん、部活の見学」


 すこし言い淀んだ妹の態度が気になった。それにいつもと違う爽やかな香り? が妹の体から漂ってきて―――制汗剤みたいな匂いがした。


「見学って何を?」


「内緒。それよりさっきの誰?」


 妹は話をはぐらかすように話題を変えた。

 妹が言う「さっきの」とは、駅で別れた加藤さんのことだろうけど、目ざとく見られていたみたいだ。

 別にやましいことがある訳じゃないし隠す理由はないんだけど―――武波先輩と関わるなって言った手前、どう説明したものかと考えてしまう。


(れん)も知ってる人だよ」


「私が知ってる人?」


 妹には話をしていたし、なにより昨日の今日だ。「許せん」と言っていたはずなのに、僕が一緒にいた人物を加藤さんだと分っていなかった。


「ほら、昨日の朝の―――例の学級委員長、加藤さんだよ」


「あぁ! マジで―――!?」


 正体を明かすと妹は驚きの声を上げた。

 でも首を捻ってどこか不思議がっている様子。

 その後は、「うん、うん」と1人納得するように何度も頷いていた。


「どうかしたのか?」


「昨日と顔つきが違う」


「何が違うって?」


「‥‥‥女の顔。だから加藤って先輩のことだって気がつかなかった」


「女の顔‥‥‥」


「ごらぁあああ兄貴~~~! またやったんか? ぎゃぁあああムカつくぅううう!」


 満員に近い電車の中、妹は幼い女の子のように地団太を踏んだ。

 声は抑えているけれど、周りの人は驚いてこっちを気にしている様子。


「落ち着けって、ただのクラスメイトだから。たまたま帰りが一緒になっただけで」


「はぁ~ん? たまたま? そんな訳あるか」


「ホントだって、たまたまなんだ」


 言いながら本当に「たまたま」なんだろうか、と疑念が生じたのは妹に内緒だ。

 あまり騒ぐと他の乗客に迷惑がかかる。ひたすら許しを請うように妹をなだめすかす。


「帰ったら説明するから」


「ふん、私には男子と話すなって言ってんじゃん」


「そ、そんなことは言ってないから」


 なんという拡大解釈。危険な香りのする武波先輩には関わるなとは言ったけど、そんな嫉妬心の強い彼氏みたいなセリフを吐いた記憶はない。 


「じゃあ、手繋いで」


(れん)‥‥‥」


 僕の手は上から掴まれる格好で妹の手に握られていた。

 彼女の手が一旦離れる。そして向きを変えてもう一度握り直してきた。

 促されるままに手を開くと、僕の指にほっそりとした妹の指が絡みついてきて自然と手のひらを合せるかたちに‥‥‥。


 ―――これって世間一般で言う恋人繋ってやつじゃ‥‥‥!?


 急に大人しくなった妹。 

 横目で見れば、真っ赤な顔をして俯いていた。

 当然、僕の顔も相当火照っている。


 傍から見れば初々しい高校生カップルに映るんだろうか。

 僕たち兄妹は最寄り駅まで一言も話さないままで―――それでも繋いだ手は電車が止まるまで離れることはなかった。

 読んで頂きありがとうございました。

 平日は最低でも2話以上(毎日が理想(無理です))の更新ができるようにと考えています。

 もしよかったらリンゴと蜂ミッツを推してくださいね。ブクマ、評価をよろしくお願いします。


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