表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/33

第二十一話

 私と咲良さんは、連れ立って御徒町にやってきた。

 結婚指輪を買う為だが、銀座では無いのが不思議だった。

「ここに、指輪のお店とかあるの?」

「先輩、ここを知らないんですか?」

「知らないよ」

「宝飾品の卸売り店が、結構集まっているんですよ」

「へえ~、そうなんだ。咲良さんは、物知りなんだね」

「先輩が、知らなすぎるんですよ」

「まあ、指輪なんて、もう一生縁が無いと思っていたからね」

「そうだと思いました。ああ、ここに入りましょう」

 私と咲良さんは、その宝飾店に入った。

 店内は意外に混雑しており、そこかしこにカップルがいた。

 私たちは、どう見られているんだろうか?

「マリッジリングを見せてください」

 え?何それ?

「結婚指輪じゃないの?」

「先輩?」

「同じですよ、お客様」

「ああ、そうなんだ」

 美人の店員さんに、くすくす笑われたけど、意外に悪くない。

 いえ、悪いです、悪いですから、そんなに私を見ないでください。

 咲良さんのその目が、本気で怖いので。

「先輩、どういう感じのにしますか?」

「分からないから、任せるよ」

「少しぐらい、考えてください」

「う~ん、これはどう?」

「これは、お得ですよ」

「じゃあ、これは?」

「若い方に人気です」

「なら、これは?」

「先輩?」

「え?何?」

「いえ、何でもありません。これを見せてください」

 咲良さんが見ていた指輪は、意外にシンプルなモノだった。

「長く使うモノですから、シンプルな方がいいんですよ」

「そうなんだ、いい品のようだね」

 品がいいというか、なんというか、これぞシンプル・ザ・ベストという感じだ。

 で、いいんだよね?

「センスいいね。さすが、咲良さんだ」

 どうしたんだろう、咲良さんは俯いたけど、いかん、地雷を踏んだか?

「あの~」

「なんでもありません」

 ああ、良かった、怒っていないようだ。

 

 指輪を注文した我らは、ついでに買い物をすることになった。

「先輩」

「何?」

「ありがとうございます」

「え?何が?」

「色々とです」

「こっちこそ、ありがとうね」

「先輩」

「何?」

「何でもありません」

 彼女は、急に機嫌が悪くなった。

 女心は、やはり分からん。


 休み明け、出勤したら我々のお祝いの席についての告知が、何故か職場の掲示板に出ていた。

 何それ?

 聞いてないことはないけど、こんなにおおぴっらにやるものかい?


「やれやれ。困った、先輩方ですね」

 咲良さんも知らなかったようだけど、恐れを知らないって、こういうことだろうか?

「レストランを貸し切ってのパーティなんて、ちょっと派手じゃないかな?」

「まあ、あの先輩方も、出会いが欲しいんでしょう」

「そうなの?」

「はい、そうなんですよ」

「ふ~ん」

「でも、よく一つ星レストランをリザーブ出来ましたよね。びっくりです」

「一つ星?三ツ星よりは、楽に予約が出来たんじゃないの?」

「先輩」

「え?また?」

「一つ星だって、大変なんですよ」

「そうなんだ」

「まあ、この前先輩とご一緒したお店ですので」

「そうなんだ」

「もしかして、お忘れですか」

「覚えているけど、名前まで覚えていないよ」

「ふ~ん」

「それで、私は何をすればいいの?」

「私たちは、まな板に載った鯉ですから、あの先輩方にお任せしましょう」

「勝呂さん」

「ああ、課長。おはようございます」

「ご結婚、おめでとう」

「わざわざ、ありがとうございます」

「新婚旅行は、行くの?」

「いいえ」「はい、行きます」

 ふたりほぼ同時だったけど、返事しなければ良かった。

 咲良さんの視線が、ちょっと痛かったので。

 お願いだから、もっと優しくして。

「ええっと、どっちかな?」

「こういうのは、妻が決めますので」

「そう、なら休暇の申請を出しておいてね」

「国内で一泊だけにしますので、大丈夫です」

「へ~、そうなんだ」

「はい」

「仲人はいる?」

「特に必要はありません。結婚式もやりませんので」

「ええ?坂上さんのウェディングドレス、是非見たかったなあ。そう思わないかな、勝呂さん」

「そうですね」

「先輩、見たかったんですか?」

「え?ああ、そうだね」

「浴衣を見せろとか、次にはウェディングドレスを見せろですか?私は、ビスクドールではありませんよ」

「え?ビスケット?」

「もう、いいです」

「仲いいね」

「はい、新婚ですから」

 咲良さんは、仲がいいと思っていたのか。

 私は、知らなかった。

「羨ましいね。とにかく、おめでとう。勝呂さんも、再雇用出来るように骨を折るから」

「はい、ありがとうございます」

 課長が立ち去ったあと、咲良さんが毒を吐いた。

「あのおっさん、私に恩を着せるつもりですね」

「ええ?考え過ぎじゃあ」

「先輩?」

「何?」

「先輩は知らないようですけど、私って、結構もてるんですよ」

「知っているよ。だって、美人だし、カッコいいし」

「先輩?」

「だから、何で正拳突きの姿勢になるの?」

「先輩が、私をからかったからですけど?」

「自分で言ったんじゃないか?もてるって」

「もてるとカッコいいは、関係ありません」

「とにかく、君は美人。終わり」

「何ですか、それ?」

「いいじゃないか、もう」

「あのおっさんですけど、私を食事に誘ったりするんですよ。既婚者のくせに、許せないですよね」

 許す許さないの話しか?

「先輩も、そう思いませんか?」

 だから、同意を求められても。

 食事ぐらい、いいじゃないかなんて言ったら、私はどんな目に遭わされるやら。

「でもなあ、君のような女性を食事に誘いたいって思うの、男性ならあると思うよ」

「先輩から、一度だって食事はおろか、ランチすら誘われたことないですよ?」

「ええ?何度も、一緒に食事をしたじゃないか?」

「私が行きましょうとお誘いしただけで、先輩から誘われたことはありませんよ。ホント、グズなんですから」

「誘う訳ないじゃないか?」

「ほら、やっぱり」

「だってさ、こっちは定年間際のただのおっさん。君は将来有望な、若手キャリアウーマン。誘うにしても、身分が違い過ぎるよ」

「先輩、建前はいいです。本音でお願いします」

「だから、本当のことだって」

「分かりました」

「そう、分かってくれたか」

「今夜、お風呂でたっぷりお聞きしますので」

 ああ、そうだったね。

 お風呂ってくつろぐ場所じゃなくて、尋問される場所だったんだね。

 何だろう、風呂が嫌いになりそう。


「坂上ちゃん!」

「ああ、どうも。色々とありがとうございます」

「いいのよ!私だって、新しい出会いが欲しいし!」

「私、先輩のそういう前向きなところ、見習いたいと思っています」

 どうしてだろう、私には額面通りに聞こえなかったけど。

 やだなあ、女性同士の駆け引きですか?

 異が痛くなるから、私の居ないところでやってくれないかな?

 ちなみに、先輩とは私のことではなく、女性先輩のことね。

「ちょっと、今夜時間ある?」

「あると思いますけど?」

 女性先輩は咲良さんの耳元で、何かごにょごにょ話しているようで、私には聞こえなかった。

「先輩、先に帰ってください。私、用事が出来ましたので」

「付き合おうか?」

「いえ、悪いですので」

 ここで明日は雪かなあって言ったら、私の運命はどうなるんだろうか?

 でも、久しぶりにひとりの帰宅だった。

「先輩、念の為に言っておきますけど、まっすぐ帰るんですよ」

「はい、分かりました」

 そうだった、私に自由なんて、無かったんだ。


 そういえば、結婚って自由と引き換えになるって聞いていたけど、なんかちょっと違わないかな?


 これって、勝呂夫妻だけの話かもしれないなあ。


 どう思う?


 既婚者諸君よ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ