夜襲
王都奪還へ出立です。
王都奪回作戦までの3日間、俺はゆっくりと過ごした。
パワーボムの面々と簡単な依頼をこなしたり、ジェイル王子とマーゴ王女に呼ばれて簡単な魔法を見せたり(これも報酬が出るそうだ)、エリーとクロエと一緒に食べ歩きをしたり、ムカイを尋ねて援助の金を渡したりと心休まる3日間だった。
そして王都奪回作戦の出立日が来た。
今回のメンバーは、前回の冒険者3パーティに加えデトレフさん、スハイツとダミアンが率いる王国騎士団1000人。
今回親衛隊はベルタとディートリッヒの2名のみ。
ガウラン私設騎士団は参加しない。
当然エバートンが作戦総指揮を執る。
馬車と馬での作戦行動だ。
俺とエリー、エバートン、ベルタ、ディートリッヒ、運搬用の自動人形が馬車に乗る。
今回も長丁場になりそうなので、補充用の備品は目一杯だ。
向かう先は王都ではなく、未だに戦闘中の都市の1つバーセル。
密偵からの報告で、戦況は膠着状態とのことだった。
到着予定は3日後、王都へとは別の街道を北東へ進んだ。
別ルートで逃げて来た王国軍と出会ったが、そのままブルネルへ向かわせた。
合流を希望した者もいたが、運搬している食料の関係と、敗残兵と一度国王を護送した兵との士気の差もあったからだ。
3日後の夕刻、バーセルが見える所まで到達した。
「夜襲を仕掛けて、一気に帝国軍を叩きます」
「あまり知らない街です。夜襲は危険では?」
エバートンが馬車の中で俺達にだけ作戦を話した。
デトレフさんが危険を指摘する。
「ヒデキ殿に『不可視』で潜入してもらいます。敵兵の野営地にロックゴーレムと雷獣を召還して攻撃下さい。雷獣の雷撃を合図に全面攻撃を仕掛けます」
なるほど、不可視と召還か・・・ほぼ危険はないな。
「敵はこの街を通り過ぎ、少し行った所で野営しています。まずは街に入って、防衛している兵士達と合流しましょう」
王国騎士団1000人は、ここで野営の準備に入り、スハイツとダミアンだけが、俺達と同行した。
二人には夜襲の話をして、騎士団を率いてもらう話をする。
俺がまず仕掛ける作戦と聞いて、二人とも納得をしていた。
バーセルの城壁は所々亀裂が入り、こちら側でも戦闘があったことを示していた。
警備兵2名が近付いて来た俺達を止める。
「止まれ!!何者だ!?」
「味方だ!!俺は王国騎士団、国王陛下守護隊隊長スハイツ、こちらが王国騎士団大隊長のダミアンだ!!」
その声を聞き、警備兵はスハイツとダミアンの顔を改める。
直ぐに直立不動になり、騎士団の敬礼をした。
「失礼致しました!!王国騎士団バーセル配属警備兵エレとラッセであります。救援ご苦労様であります」
「うむ!警備の任務ご苦労である!!早速だが、街の中へ案内して欲しい。こちらはブルネルで活動している冒険者の方々と、ガウラン辺境伯の参謀エバートン殿と親衛隊の2人だ」
スハイツが俺達を紹介してくれたので、すんなりと街に入れた。
ダミアンは1000人の王国騎士団が野営する場所へ戻って、俺の夜襲と合図の雷獣の放電を待つ。
宿舎の1つに案内され、エバートンが作戦を詳しく説明する。
スハイツは夜襲の準備のため、バーセルを守る兵の兵舎へと向っている。ここにはいないのでオープンでの作戦会議が出来るわけだ。
「ヒデキ殿には、最初から『不可視』で行ってもらいます。門を開けさせるため、探査系のベッツ殿とローラ殿に偵察の任務と称して、一緒に出てもらいます」
「了解!!久しぶりに活躍できるな!!」
「私もそうです」
シルバーファングとゴールド・エクリプスの二人が元気良く返事をした。
「では準備します」
宣言して俺は『不可視』を使った。
これで俺はこの次元での一切の干渉を受けることはない。
ベッツとローラが宿舎へ行き、探索の任務へ向うので、門を開けてもらえるようスハイツに頼んだ。
スハイツの命令で、宿舎から兵士が1人案内として出てくれた。
先ほどと逆の門へ行き、兵士が説明して門を開けさせる。
ベッツとローラが外へ出るのと同時に俺も、外へ出た。
夜になり、複数の月が夜空に昇っている。
久しぶりに月を見た気がした。
ベッツとローラが用心深く進む。
俺はその後に続いた。
月灯りを頼りに二人が進むと、直ぐに篝火が見えて来た。
ベッツとローラが頷き、足を止める。
俺はどんどん敵兵の野営地へと進んだ。
警備兵の横を通り過ぎ大きな幕舎の前で、俺はロックゴーレムを召還した。
幕舎の前に出現したロックゴーレムに暴れまわるように命令を出す。
ロックゴーレムはいきなり幕舎にパンチを振るい、幕舎をなぎ倒した。
ここで幕舎の外の兵が気付き、ロックゴーレムに攻撃が始まった。
幕舎の下敷きにならなかった兵達が這い出て来る中、ロックゴーレムは暴れ続ける。
俺は次に雷獣を召還し、雷撃を放ち続けるように命じた。
雷獣は無差別に敵兵を攻撃し始める。
夜空に稲光が走った。
― ― ―
バーセルの外、王国騎士団野営地。
夜空に稲光が走ると同時に、ダミアンが大声で叫ぶ。
「合図だ!!帝国兵を今から殲滅する!!皆、続けー!!」
ダミアンの号令と供に、ダミアンを先頭としてバーセルの外壁に沿って走り始めた。
バーセルの中、敵兵野営地方面城門。
稲光が走ると同時に、スハイツが剣を高々と上げ、宣言する。
「行くぞ!!今夜で、ここの戦を終わらせるぞー!!」
バーセル内を守っていた兵がスハイツと供にうって出る。
シルバーファング、パワーボム、ゴールド・エクリプスも続く。
セルゲイが雄叫びを上げた。
「お前ら!!久々に暴れるぜ!!」
「おお!!」
― ― ―
俺は王国兵が帝国軍の野営地に攻め込むのを見ながら、ゆっくりと退いていった。
『不可視』のおかげで、敵兵も味方兵も俺を素通りして行く。
自分だけがここにはいない、物凄く妙な感覚に捕らわれる。
ロックゴーレムは、敵兵が集まる所を狙っては、パンチを振るいまくる。
雷獣は敵兵へ向けて落雷を落としまくっていた。
セルゲイが丁度敵兵を切りまくり始めた時、俺は戦場から離れ、バーセルの宿舎へ戻って『不可視』を解除した。
「ただ今帰りました」
いきなり現れた俺を見ても、エリーとエバートンは動じなかった。
「お帰りなさいませ、ヒデキ様!!」
「ヒデキ殿ご苦労様です!!作戦は見事に成功ですな」
エリーとエバートンが出迎えてくれた。
「ええ、敵の幕舎のまん前で、ロックゴーレムを召還して幕舎の支柱をへし折り倒してやりました」
「そうですか!!それで『不可視』の方は、ばれていませぬな?」
「大丈夫です。『不可視』を使用してからは、俺自身は何もしませんでしたから・・・一瞬魔法攻撃をしようかと思いましたが、自重しました」
「ヒデキ殿の判断は実に的確です。ここは敵味方両方供に情報を与えるのは、早計ですから」
「それで、この後は・・・?」
「王国騎士団と冒険者パーティに任せておけば、今晩中に決着が着くことでしょう。投降者も出るでしょうから、ここで敵兵からの情報も得られます。情報次第で私の戦略も変わって来ますので、明日が楽しみです」
俺はエリーにお茶を入れてもらい、一息ついた。
その後、万が一に備えていたが、朝方になるまで、雷獣の落雷の音は止むことはなく、帝国兵の悲鳴が夜空に響き続けた。
朝方になり、王国騎士団の兵から勝利報告が入り、俺はロックゴーレムと雷獣を呼び戻した。
そして、漸く俺とエリーは横になる事ができたのだった。
エバートンは投降した敵兵から情報を聞き出すために、スハイツと共に捕虜の収容へ向った。
明日で100話となります。
その後は、なるべく毎日の投降を心がけます。




