エリーの正体
エリーにようやくセリフを喋らせる事が出来ました。
エリーがよろよろとレインボー・ヒュドラの前に出た。
「わざわざ、殺されに来たのか?そんなに死にたいならば、願いをかなえてやろう!!お前だけではなく、この部屋の全員だ!!」
委細構わず、レインボー・ヒュドラは9つの首から凄まじいブレスを吐き出しだす。
部屋全体に高温を伴う衝撃が吹き荒れたが、俺達は何事もなく生きていた。
「何ぃ!!」
驚くレインボー・ヒュドラの前には、俺達を庇うように、同じくらいの体躯のドラゴンが立っていた。
「貴様!ドラゴンだったのか?」
(ヒデキ様を殺させはしません!!)
「何だ?しゃべれないのか・・・大して歳を経ていない龍種か?」
(若いからって、舐めないで下さい!!)
「ふん、念話しか出来ない小娘が!!」
二体のドラゴンは睨みながら、互いを牽制していたが、レインボー・ヒュドラが先に仕掛けた。
レインボー・ヒュドラは、再びブレスを吐くが、エリーはものともせずにファイヤー・ブレスで返す。
いつものように、エリーの身体が褐色に染まった。
レインボー・ヒュドラの9つのブレスは、エリーのファイヤー・ブレスに押され掻き消える。
「生意気な!!」
(皆は殺させません!!)
その勢いに乗り、エリーはレインボー・ヒュドラへ襲い掛かった。
一方、俺以外のガウラン辺境伯のメンバーは皆、唖然としていた。
「エリーさんが・・・ドラゴン?に変身した?」
「エリー殿が・・・」
「何がどうなっている?」
「何かの魔法なの?」
皆、疑問の声を上げている。
「驚いた!?ヒデキ殿、あのドラゴンは・・・」
「はい、そうです!!黙っていて申し訳ありませんでした。エバートン参謀の研究室から逃げ出したトカゲです。サテラ大草原で飢え死にしかけている所を、俺が助けました。以来、一緒に行動していたのです」
「エリー殿が・・・あの研究室の・・・」
「そうです」
エバートンは暫く黙っていたが、すぐに納得言ったように話し始めた。
「そうですか・・・数ヶ月でここまで育ちましたか!!」
「エバートン殿・・・エリーは一体?・・・」
「ヒデキ殿!よくぞ、ここまで育ててくれました!!これで勝利できます!!」
「えっ!?エリーの事を黙っていたのを、怒っていないのですか?」
「私の研究室で育成を続けていれば、ここまで育つのに後、半年は必要だったでしょう。ヒデキ殿との生活と実戦を経験したことで、で急速に成長したのです。怒るどころか感謝します。むしろ、このままエリー殿をお願いします」
「はあ・・・」
娘を頼みますみたいな口調で、エバートンは俺に言った。
そして、そのエリーはレインボー・ヒュドラと格闘の真っ最中だ。
エリーは、右前足でヒュドラの上半身を押さえつけ、1本の首に噛み付いている。
対して、ヒュドラは残り8本の首がエリーの胴体部分に噛み付いていた。
皮膚が硬いのか、お互いに出血はしていない。
尾もバシバシと鞭のように唸りを上げて、床を叩いている。
皆、なすすべも無く見守るだけの状態が暫く続いていた。
この状態では、前衛はとても近づいて攻撃はできない。
後衛も攻撃魔法で援護しようにも、エリーを巻き込んでしまうため攻撃不可能だ。
エバートンはエリーの戦いを観察していたが、いきなりスクロールを取り出し、魔法陣に何か書き込み始めた。
「皆、暫く防御と回復に専念してくれ!!レインボー・ヒュドラの攻撃は結界を破ってくるので、個人結界やパーティ結界も多重にかけておくように!!私の作業が終われば、確実に勝利できる。それまで耐えてくれ」
エバートンの声に、今まで呆然とエリーとヒュドラの戦いを見ていた皆が一斉に動き始める。
全体の防御結界を多重にかけ直し、パーティごとに結界を張り、指輪を使い、個人結界を発動させた。
それが終わると、ヒーリング可能なものはヒーリングをかけ、様々なポーションを飲み、体力、魔力の回復を始めた。
その間、エリーとレインボー・ヒュドラの戦いは、膠着状態に陥っていた。
エリーはヒュドラの身体を押さえつたまま、相手の首の1本に噛み付いたままだ。
ヒュドラはエリーに噛み付いていた8本の首を、エリーの身体から離し、こちらへブレスを吐こうとしたが、エリーが強引に噛み付いた首を振り回して不発にしていた。
狙いが定まらないように、ヒュドラの首を強引に振り回すのだ。
見た感じ、肉体的な地力はエリーが確実に上で、度々ヒュドラを振り回す場面が見られた。
俺達に攻撃が及ばないように気を使っているのだろう。
「小娘が!!我の邪魔をするな!!」
(簡単にブレスが撃てるとは思わないで下さい!!)
エリーとヒュドラの小競り合いが30分ほど続いた頃、ヒュドラの攻撃に変化が見え始めた。
レインボー・ヒュドラの身体が、徐々に褐色に変化し、高温を発し始めたのだ。
「これならば妨害はできまい!!お前はサラマンダーだからな!!」
ヒュドラの声を聞き、エバートンはにやりと笑った。
「エリー殿がサラマンダー?そんな分かり易い龍種だと?そんな訳ないだろう・・・」
やはりエリーは火龍ではないらしい。
レインボー・ヒュドラが身体から放射する高熱は、徐々に結界の中に入り込み、この空間の温度は上昇し続けていた。
魔術師が冷却魔法を使い周りの気温を下げようとするが、その魔法の効果はなく上昇した気温のため、陽炎で周りの景色が歪み始めていた。
そろそろまずいのでは?と思った矢先、
「完成だ!!ヒデキ殿、エリー殿に、この魔法陣に触れるよう伝えて下さい!!」
額から滝のような汗を流しながら、エバートンは、1つの魔法陣を指差して言った。
一刻の猶予もない。
「分かりました!!」
(エリー!!こちらに戻って来て、ここにある魔法陣に触れるんだ!!)
俺は急いでエリーに念話で話しかけた。
(ですが、今離してしまうと、そちらへの攻撃が!!)
レインボー・ヒュドラの首に噛み付きながら、こちらを見たエリーは念話を返してきた。
(エリーの懸念は分かるが、このままでは蒸し焼きになる。結界を越えてここへ来い!!)
(でも、でも・・・)
(大丈夫だから!ここへ!俺の所へ戻って来い!!)
エリーはじっと俺を見つめて、一度、目を閉じた。
そして、カッと目を見開くと、
(分かりました、今行きます!!)
エリーはヒュドラを押さえつけていた右足を離し、踏ん張りながら、ぐいっと首を振り回し、ヒュドラを転がした。
「何だとぉー!?」
いきなり転がされ、レインボー・ヒュドラは意表を突かれたみたいだった。
そして、エリーのほうは、そのままこちらへ走り出し、結界を破りながら、俺の側に向かってくる。
「所詮、サラマンダーだな。血迷ったか?味方の結界を破るとは!!私のブレスを浴びて全員滅びるがいい!!」
レインボー・ヒュドラの9つの口から、7色に輝くブレスが放たれ、1本の太いブレスとなり、俺達に襲い掛かる。
と、エリーの左前足が、エバートンが完成させた魔法陣に触れた。
その瞬間、エリーの身体が眩い光に包まれ、何も見えなくなる。
しかし、それは一瞬の事で、周囲に視界が戻ってくると、俺達の目の前には、エリーがいた。
そして、エリーの身体はエメラルド色に光輝きながら、レインボー・ヒュドラのブレスを打ち消していたのだ。
「「エメラルド・ドラゴン!!」」
デトレフさんとダミアンが同時に叫んだ。
「馬鹿な!?エメラルド・ドラゴンだと!?何が起きたのだ!?サラマンダーではなかったのか?」
ブレスを吐くのを止めてレインボー・ヒュドラも驚愕の声を上げている。
「さあ、私にも分かりませんが・・・」
エリーはゆっくりと、レインボー・ヒュドラの方へ向き直りしっかりと声に出して言った。
「私があなたを倒せるのは分かります」
この物語はエリーの正体を思いついた時のがきっかけです。
その正体を見せるのに、ここまでかかってしまいました。




