イーゼルト帝国との戦争
物語は少しだけ、横にそれます。
第5階層の転移魔法陣に戻り、エバートンが一度だけ転移魔法陣が発動するようにして、全員ガウラン辺境伯邸へと戻った。
そのまま複数の魔法陣が書かれている部屋へ通されたが、この部屋にたどり着くまでに、三つの結界をエバートンが解除していた。
「これから転移魔法陣で国境へ向かうが、転移場所に関しては決して口外しないように!冒険者の皆、ダミアン殿へは、それなりの口止め料を支払わせていただく」
「口止め料はいりません。王国騎士団の名誉にかけて、口外はいたしません」
ダミアンが即座に答える。
「俺達はありがたくもらうぞ」
セルゲイが余計な事を言っている。
冒険者は報酬で動く。
当然と言えば当然だ。
今回は国同士の戦争だ。
報酬は国から出るのだろうか?
まあどこから出てもいいか・・・
それよりも確かめたい事があったので、エバートンに聞いた。
「口外厳禁と言うことは、転移魔法陣は王都にも秘密なのですか?」
「そうです、転移魔法陣とホットラインは秘中の秘なのです」
やはりそうか。
レイト村が魔族に襲われた時、その後のダンジョン出現。
王都への報告が早馬と鳩だった。
ダンジョン攻略の時に『ホットライン』が使われて、気付いてはいた。
最速の通信手段と移動手段・・・この二つを握っていれば、どれだけ有利なことか!
ガウラン辺境伯の指示なのか?
それともエバートンの入れ知恵なのか?
どちらにせよ、ブルネルはいずれ王都を凌ぐ発展をするだろう。
出来ることなら、俺は自分の目でそれを見てみたいと思った。
「では、国境へ向かう」
エバートンが導く1つの魔法陣へ皆入る。
魔法陣が光り、すぐに皆、転移した。
移動先は地下室で、階段を登り外へ出てみると、巧妙に偽装された城壁の一角だった。
「国境兵と帝国軍の戦線は、この少し先です」
ガウラン辺境伯の配下だろうか?
臣下の礼をしている男が、俺達が城壁から出て来るのを待っていた。
「ご苦労!ルーカス!!直ぐに案内してくれ、急いで終わらせてダンジョンに戻らねばならん!!」
「はっ!?いえ、しかし、失礼ながら、いかにエバートン参謀であっても、5万の兵を退けるにはいささか日数がかかるかと」
「問題ない。それより戦況はどうなっているのだ?」
ルーカスと呼ばれた男は兵士の装いで、いかにも潜入者ぽい。
俺の故郷(地球)では、有名映画監督なのに・・・
「国境警備兵は5千ですので、防衛戦に徹しています」
5万の敵に5千の味方か・・・10倍の敵兵・・・真正面から戦えば負けるな。
「隊長は?」
「ブライアンです」
「臆病者のブライアンか・・・防戦には向いているな」
「敵の攻撃は?」
「宣戦布告されましたのが、数刻前ですので、まだですが、攻城兵器を1000体ほどのゴーレムが運搬しておりましたので、エバートン参謀には及びませんが、かなりの実力がある魔術師が複数従軍していると思われます」
「なるほど、1000体ほどのゴーレムか・・・それが実力ならこの戦、すぐに終わらせる事が出来る」
「あのう1000体のゴーレムですよ・・・」
「その程度なら、たいしたことはない」
「・・・」
ルーカスはあきらめたように押し黙った。
城壁の中の階段を登り続き城壁の上に出た。
「こちらです」
案内された場所は城壁の上にいくつか築かれている櫓の1つだった。
櫓と言ってもでかい屋敷くらいの広さはある。
中には数人の偉そうは兵士達が、屯していた。
「ブライアン隊長!エバートン様をお連れしました!!」
「おお!!お待ちしておりました!!エバートン様の魔術で防衛結界を!!」
中でも一番痩せていて、神経質そうな男がエバートンへ駆け寄って来た。
「お久しぶりです、ブライアン殿。結界はすぐにでも展開させましょう」
「有難う御座います!これで後は守っていれば、王都からの援軍が・・・」
「王都も帝国軍に攻め込まれておりますので、援軍は暫く来ませんよ」
ブライアンの顔が絶望の表情に変わる。
「そ、そんな・・・私はどうすれば・・・」
こんな弱気で隊長が務まるのだろうか?
とは思ったが、防戦なら強気よりも合っているかもしれない。
例えばセルゲイとかが隊長なら、敵が10倍だろうが城壁の外で戦いたがるだろう。
「ブライアン殿、そんなに落胆する必要はありません。すぐに帝国軍を殲滅します」
「5万の軍勢と1000体のゴーレムですよ!いかにエバートン様と言えどもすぐに殲滅とは・・・」
「まあ見ていて下さい」
と、櫓の扉が開き、一人の兵が駆け込んで来た。
「敵の攻撃が始まりました!!」
「そうか、今行く!!」
ブライアンがいきなりキッとした顔つきになり、答えた。
この点は、さすが軍人である。
エバートンは即座にいくつかのスクロールを広げ、魔法陣に魔力を込めていた。
「防御結界を張りました。暫くは持つでしょう」
「早速の尽力、感謝します」
「さあ、敵を殲滅しに行きましょう!!」
エバートンはブライアンを促して、表に出る。
城壁の上に立つと、敵の攻撃が始まっていた。
100個の投石器が、唸りをあげて岩が飛んで来る。
エバートンが結界を張る前に、いくつか着弾したのだろう、何箇所か城壁にヒビが入っていたり、崩れたりしていた。
投石器で攻撃しているのは、全員ゴーレムだった。
大きさは3メートルほどか・・・10体一組で投石器を操作していた。
兵士の消耗を避けるためだろう。
規則正しく、岩を乗せては、攻撃をしている。
そしてエバートンが張った結界に対する魔術師の攻撃だろう、光球が結界にぶつかっては電磁波のような輝きを放っては消えて行った。
ブルネルを攻めるなら、当然エバートン対策もして来ているはずだ。
これがエバートン対策の一環であることは間違いなかった。
「なるほど、じっくりと結界を破る持久戦に出ましたか・・・増援は決して来ないという自信があるのでしょう」
しばらく考えてから、エバートンは言った。
「恐らく大魔術師ムカイの不在が帝国にばれましたのでしょう。ムカイがいないのであれば、私を抑えれば、帝国は王都方面を思う存分に攻められます。しかし持久戦は困ります。さっさと終わらせてしまいましょう」
「先程も進言させていただきましたが、いかにエバートン様とはいえ、直ぐには・・」
「大丈夫です、私が戦うのではありません。このヒデキ殿が一気に方をつけますので」
エバートンが俺を紹介するので、頭を下げた。
「はあ・・・この方は?」
ブライアンが胡散臭そうに俺を見た。
失礼な奴だ、ブライアンのくせに!
まあいいか。
「私の推薦が信じられないと?」
エバートンがジロリと一睨みすると、ブライアンは即座に平伏した。
「し、失礼いたしました!!」
「まあ見ていて下さい。我々で作戦を立てますので、ブライアン殿はこのまま防衛戦の指揮を取っていて下さい」
エバートンが歩き始めたので、皆ぞろぞろと従った。
少し離れた所で、エバートンは皆を見回して言った。
「5万の敵兵に、1000体のゴーレム。一気に叩き潰してしまいましょう。まずはヒデキ殿の魔法であらかたを駆逐。残敵掃討を皆さんにお願いします」
皆頷いている。
戦争には慣れているのかも知れない。
「6大魔法を使いますか?」
俺はエバートンに聞いた。
腹を決めているという意志の表明も兼ねたつもりだった。
「いいえ、6大魔法はヒデキ殿の切り札です。簡単に敵に見せる魔法ではありません。それに私は、出来るだけヒデキ殿に負担をかけたくないのです」
「はあ・・・」
エバートンが俺に心遣いを・・・
「敵もゴーレムを使っているのです、ヒデキ殿を存分に僕を使って下さい。まずは敵の度肝を抜きましょう」
「成る程、了解です!!では早速・・・」
俺は準備を始める。
それを見た皆は、城壁の外に通じる階段を下りて行った。
俺はフォルダを操作して『雷獣』『翼竜』『ロックゴーレム』の魔法陣を並べた。
覚悟は決めた!!
さあ、開戦だ!!
次回、対人戦争です」。




