アクシデント
ダンジョン攻略再開・・・だったのですが・・・
エバートンに指示したがって、連続魔法の魔法陣を作りフォルダに入れてゆく。
連続6大魔法とか、かなり無茶なフォルダもあった。
合計10のフォルダを作りそれぞれ、イータ、シータ、イオタ、カッパ、ラムダ、ミュー、ニュー、クサイ、オミクロン、パイと名付けた。
αから始めて全てギリシャ語だ。
クサイとか飛ばそうかと思ったが、いずれオメガまで使いそうなので、順番通りにした。
オメガは最終魔法がいいな。
こうして、連続魔法の準備も整った。
「これより第7階層攻略を開始する!!」
もはや聞きなれたエバートンの声に、全員が一斉に立ち上がる。
ジョゼの亡骸は運搬専用の自動人形が運ぶことになった。
第7階層は第5、第6階層と違って、普通のダンジョンだった。
但し、襲って来る魔物達が全てアンデッドだとう言うところが、皆の不安を募らせた。
道はどんどん枝分かれし、俺達はいつもの最小パーティで探索を続けていた。
襲ってくるアンデッドはスケルトンから始まり、ゾンビ、ゴースト、レシス、ヴァンパイア、リッチ、エルダーリッチ、グール、エトセトラ、エトセトラ・・・
剣に聖なる魔法を纏わせるか、聖なる魔法で消し飛ばすのが手っ取り早い。
どんどんアンデッドを倒し、進んで行った。
これも毎度のことだが、エバートンの『ホットライン』が鳴り響く。
ベルタからの領域ボスの部屋発見の報だった。
「突入しても良いが、ヒデキ殿の聖なる光があったほうが、損耗が少なくてすむ。待機だ」
「了解しました」
確かにそうだ、第7階層は死者の国だ。
俺の6大魔法の1つ『α』=聖なる光は、アンデッドに無双することだろう。
第7階層はボーナスステージかも知れない。
そう思いながら、ベルタのコースへ方向転換し、進んだ。
ベルタが待機している場所に到着すると、俺達が最後のパーティだった。
『α』の準備は万端だ。
「これより領域ボス攻略を開始する。作戦は単純だ。領域ボスにはヒデキ殿の『聖なる光』をぶつける。他の皆は、ヒデキ殿の露払いだ。質問は?・・・ないようなら、突入!!」
突入した瞬間に嫌な臭いが漂ってくる。
ゾンビの大群が目の前にいた。
見た目で500体以上のゾンビが蠢いている。
そして、一番奥に巨大な領域ボスが佇んでいる。
「ドラゴンゾンビだ!!各々ブレスに対する対策をしておけ!渡している簡易結界だけでは防ぎきれん!!並びに攻撃開始!!ヒデキ殿が『α』を発動する道を開け!!」
エバートンの指示が飛ぶ。
すぐさま、ゾンビの群れに聖なる魔法が飛び、被弾しても問題ないので、前衛がゾンビの群れに突撃した。
ゾンビはどんどん減ってゆくのだが、ドラゴンゾンビの手前にある魔法陣から、減ったゾンビの数と同数のゾンビが出現している。
「きりが無いぞ!!でかいヒール魔法で、大幅に減らしてくれ!!」
魔術師がグレート・ヒールやパーフェクト・クリーンの詠唱を始め、ゾンビを100体単位で浄化してゆく。
だが、すぐにゾンビは魔法陣より召還されて、元の数へ戻ってゆく。
「皆、少し時間稼ぎしていてくれ!!あの魔法陣を潰す。リリスを送り返した魔法陣が応用できる」
「そういう事なら、時間を稼ぐか」
セルゲイ達前衛が後退して、ゆっくりと向かって来るゾンビ達を、剣が届く圏内だけ切り捨てて行った。
ゾンビを召還する魔法陣は、減った数だけしか召還されないらしい。
じっくりと時間稼ぎをしている間、ドラゴンゾンビは何もしなかった。
ひょっとして知能が低いのだろうか?
暫くして、エバートンが魔法陣への書き込みを終わらせた。
エバートン自身が直ぐに魔力を込めると、エバートンの魔法陣と、ゾンビを召還し続けていた魔法陣が同時に光を発し始め、相殺するように消えて行った。
「これでもうゾンビは召還されない。思う存分蹴散らしてよし!!」
エバートンの声と供に、魔術師から魔法が放たれ、前衛は勢いよくゾンビを蹴散らし始めた。
ものの数分で数百体のゾンビは消え去った。
ようやく俺の出番だ。
満を持して『α』を発動させる。
俺が魔法陣に魔力を注ぎ込み、エリーが俺に魔力を送り込む。
聖なる光がドラゴンゾンビを捕らえ、ドラゴンゾンビはここで初めてブレスを吐いたが、時すでに遅しだった。
ドラゴンゾンビは何もする事なく消滅する。
やはり第7階層は俺無双ステージ!!
と調子に乗ろうとした時、ガウラン辺境伯からエバートンへ『ホットライン』が入った。
「エバートン、至急撤退しろ!!」
「は!?いや、どうされましたか?ガウラン辺境伯?これから第7階層ボス部屋へ突入するところで・・・」
「イーゼルト帝国が戦線布告と同時に国境を越え、攻め込んできおった」
「なんですと!!」
「既に国境兵と戦闘が始まっておる。今回は我ブルネルの国境に5万。王都へ15万の兵が攻め込んで来たようだ」
「ブルネルへも!!そうですか・・・残念ですが、至急戻り、ブルネル国境の5万を駆逐してしまいましょう。それでダンジョンの攻略に戻ります」
「うむ!!」
『ホットライン』が切れ、エバートンは皆を見渡した。
「皆聞いた通りだ。ダンジョン攻略も佳境に入ったと言う時だが、帝国が攻め込んで来た。王都方面の侵略であれば、ダンジョンを優先するのだが、ブルネル地方の国境にも敵兵が攻め込んで来ている。残念だが一度撤退する」
「しかし、それではダンジョンが成長して、取り返しのつかないことに・・・」
アイオロスが悔しそうに言う。
他の皆も不安げだ。
ダミアンだけが、複雑な表情をしていた。
王国騎士団なのだから、さもありなんである。
「だから、最長で5日!この日数で帝国軍を退けて、ここへ戻りダンジョン攻略を再開する!!」
「5日!?国同士の戦争ですよ!!そんな短時間で終わるはずが・・・」
サラサが無茶だという顔でエバートンに進言する。
皆も5日という言葉に度肝を抜かれたようだ。
「何も戦争を終わらせるとは言っていない。ブルネル国境の兵を退けて、ダンジョンに戻るだけだ。戦争自体は王都方面で継続している。ダンジョンを攻略し終えてから、帝国を叩くだけだ」
「しかし・・・5日とは・・・」
「皆、ヒデキ殿の力は見て来たであろう!ヒデキ殿の魔法があれば、不可能ではない!!」
皆が俺を見た。
やはりそうなるか・・戦争となると人を殺す事になる。
俺は数ヶ月前までは、普通のサラリーマンだった。
自衛隊でも、人殺しでも、警察官でもない。
人を殺めて、精神が崩壊する気がするのだが。
エバートンは俺の気持ちを察したのか、黙って俺の決断を待っている。
自信なさげに黙っていると、セルゲイが俺のところへやって来た。
「ヒデキ、お前の顔を見れば、何を考えているのかは察しがつく。だが戦争となれば、冒険者も街を守るため、必ず借り出される」
セルゲイは俺の両肩に手を置いた。
「そして強い魔法を持つ魔術師は、多くの軍勢にぶつけられる。大量殺人を強いられるわけだ。ヒデキがこれまで人を殺したことがないのは、顔を見れば分かる。だがな、敵はそんな事情を考えてはくれない。戦争は殺し合いなんだ」
「ヒデキ殿、王国騎士団の自分が言うのは説得力がありませんが、ブルネルにお知り合いもいるでしょう?その者達を守るためと思うのです」
ダミアンも俺の方を見て助言してくれる。
知り合いか・・・イレーネやトムの顔が思い浮かんだ。
「敵が街に攻めてくれば、住民達は蹂躙され、街は焼かれてしまいます。それが戦争なのです。私もセルゲイ殿や、国境警備兵、私設騎士団、冒険者達も、街を・・・国を守るために戦うのです」
セルゲイとダミアンの言葉には重みがあった。
俺はもう平和な地球のサラリーマンではないのだ!
今こそ覚悟を決めるべきだろう。
俺はエリーを見た。
エリーは何も言わずに、うなずく。
「セルゲイさん、ダミアンさん、ありがとう。決心がつきましたよ。エバートン参謀行きましょう!!さっさと敵兵を蹴散らして、ここに戻ってダンジョンの攻略を続けましょう!!」
俺の言葉を待っていたのだろう、エバートンは全員に号令をかけた。
「それでは即座に撤退を開始する!!第5階層に戻り、転移魔法陣を発動させガウラン辺境伯邸へ戻り、その後国境へと向かう。よろしいか?」
皆頷くが、エバートンはダミアンに向かい、言った。
「ダミアン殿は王都へ戻られても「いいえ!私も皆と行動し、ダンジョン攻略へ戻ってまいります!!」
「承知いたしました!!」
エバートンが珍しくにっこりと笑った。
「それでは戻りましょう!!」
意図あって、ダンジョン攻略を一時中断しました。




