逆転
圧倒的格上の相手に勝つ方法は基本ありません。
荒ぶる神を倒すのではなく、封印するか、その神がいた世界に送り返す。
これがスタンダードですね。
エバートンの魔法陣が完成した。
後はどのような作戦を以って、魔法陣を発動させるかだ。
「エバートン参謀!作戦は?」
エバートンは熟考し、
「作戦を第1段階と第2段階に分ける。第1段階でリリスを弱らせる。第2段階でリリスを送り返す」
「弱らせるのですか?危険では?」
先程のリリスの力を見れば、そう思わざるを得ない。
「そこでヒデキ殿の6大魔法だ」
「先程のイプシロンは効果がなかったですよ」
「今回は違う6大魔法を使う」
何か弱点を見つけたのかな?
「確かに俺が6大魔法を使う分には危険はありませんね」
「そう、リリスは魔族の命=魂という想像もつかないくらい強大な力で召還された。送り返すのには、同等の力が必要だが、それは不可能だ」
「不可能?それでは・・・」
「だからリリスの力を殺いで、送り返す。リリスを弱らせる理由は、それだ」
「なるほど」
要するに、リリスを送り返す魔法陣は完成した。
しかし、元気なままのリリスを送り返そうとしても、魔力が足りず抵抗されてうまく行かない。
リリスを弱らせて、抵抗する力が弱くなったところで、魔法陣で送り返す。
と、言うことだ。
「どの魔法を使いますか?」
善は急げ!
リリスに好き勝手暴れてもらった仕返しをしなければ、腹の虫が収まらない。
「目星はつけてあるのですが確認を取りましょう」
「確認?」
エバートンはリリスと組み合ったままのイシュタルに声を掛けた。
「イシュタル様、お伺いしたいことがございます!」
ジョゼ=イシュタルはエバートンのほうを見た。
その間もリリスはイシュタルの手を振りほどこうと色々やっているのだが、ジョゼ=イシュタルの放つ神々しい光に、全て阻まれていた。
「どのような質問ですか?」
ジョゼ=イシュタルはにっこりと笑った。
守りだけに専念すれば、リリスを押さえることは可能らしい。
イシュタルのヒーリングで復活した面々は、万が一に備えているが、必要なさそうだ。
「フィロゾの6大魔法、聖なる光はイシュタル殿に害は無く、リリスには有効でしょうか?」
「ほう、フィロゾの6大魔法は今まで誰も使いこなせませんでした。使える者がここにいるのですか?」
「おります。この者が使えます」
エバートンは俺を指差す。
俺はベルタを真似て跪いた。
「あなたがフィロゾの6大魔法を・・・そうですか・・・あっ、質問に答えなければなりませんね」
「イシュタル!貴様!!」
「この声からも分かるでしょうが、フィロゾの6大魔法で、リリスが一番苦手なのは、聖なる光です。私は大好物ですけどね」
「イシュタル様ありがとうございます」
エバートンが礼を言い、俺の方を向いた。
「ヒデキ殿『α(アルファ)』を願います」
「はい、『α(アルファ)』ですね。了解です!!エリーこちらへ!!」
「はい、ヒデキ様」
エリーはいつも通り、右手で俺の左手を握る。
俺は『α(アルファ)』のフォルダを呼び出し、スライドショーをセットして起動する。
もう慣れたが、ぐんぐんと魔力が吸い取られてゆき、同時にイシュタルとリリスがまばゆい光に包まれた。
「ぐわあぁぁぁぁ」
「ああ、なんと素晴らしい原初の光!!」
リリスが苦悶の声をあげ、イシュタルが恍惚の声を上げる。
原初の光か・・・まさに『光あれ!!』だな。
あまりの眩しさに何も見えなくなり、徐々に光が収まって行った。
リリスが大きく肩で息をしていた。
明らかに消耗している。
それに対してジョゼ=イシュタルは、より一層神々しい光を放っていた。
「よくも痛めつけてくれたたな・・・だが、この程度で私を滅ぼす事はできないぞ。イシュタル!お前の降臨が終わった時、すぐにここにいる奴を皆殺しにしてやるからな」
ぜえぜえと息を切らしながら、リリスが悪態をついた。
「リリス、お前の欠点は人間を見下しているところだ」
「虫けらを見下して、何が悪い」
「その見下した相手に今から辛酸を舐めさせられることになる」
「せいぜいフィロゾの魔法を使うが良い、何回浴びても私は滅びないぞ!!」
「さあ、今です!!リリスの力は半減しています!!」
こちらの意図を完全に理解しているのだろう。
ジョゼ=イシュタルが合図をした。
エバートンが魔法陣を広げ、ポーションで魔力を満タンにした俺とエリーが魔力を込める。
リリスの足元に直径10メートルほどの魔法陣が出現した。
今魔力を込めている魔法陣と同じものだ。
その魔法陣が発光を始めた。
「こ、この魔法陣は・・・ま・さ・か・・・召還魔法の逆転術式・・・」
「だから言っただろう!お前は人間を見下しすぎだと」
「何故人間にこの魔法陣が書ける?誰も残していないはずだぞ」
リリスが魔法陣の光に包まれてゆく。
徐々に姿が足元から消え始めた。
「私は一度見たものは、忘れることはないのだ」
エバートンが親切にも解説する。
「何だと・・・人間ごときにそのような・・・」
「な!?だから言っただろう?人間が持つ可能性は無限なのだ!!」
ジョゼ=イシュタルがリリスから手を離し、両手を広げる。
リリスは魔法陣に捕らわれて、動くことができなかった。
「フィロゾの6大魔法を発動させる!魔女の召還魔法の逆転術式を組む!リリス!お前が見下した人間の所業だぞ。ちなみにフィロゾも人間ではないか」
「偉そうに講釈をたれるな!!次に人界に来た時は、世界を滅ぼしてやる」
「その時は私も真の姿で相手になるので、心しておけ」
リリスの下半身は既に消えている。
「ふん!そのような人間の亡骸にしか降臨できないお前がか?笑わせるな!!」
「あなたと私は対極の存在。今回はこの姿で充分だと因果が判断したのです。実際に充分だったでしょう?」
リリスは既に首から下が消滅していた。
「ふん!今度は直ぐに地獄の業火で国を滅ぼしながら、飛び歩いてやるわ。お前が降臨した時には、手遅れになるようにな!!」
「あなたがそのつもりでいるのなら、私の降臨は早まるだけ・・・それが因果律」
「知ったことか!!」
ついにリリスは口だけになっていた。
「私を送り返した男と、原初の光で私を痛めつけた男、お前達は何度生まれ変わろうが、必ず見つけ出して、殺してやるからな、覚悟しておけ!!それから・・・」
ここでリリスは完全に消滅した。
正確には送り返されたのだが。
「見事です。人間の持つ可能性を見せてもらいました」
ジョゼ=イシュタルは俺達の方に向き直り言った。
俺達のうち三分の一は、跪き祈りを捧げている。
「リリスを退けたことにより、あなたたちには全滅以外の因果が開きました」
ジョゼ=イシュタルの降臨時間もそろそろ終わりそうなのだろう。
身体を覆う神々しい光が弱くなり始めていた。
「私はあなたたちが目的を達する道に進むことを信じています」
「イシュタル様、お時間がある限り質問をして、よろしいでしょうか?」
エバートンはあくまでも冷静だ。
「良いですよ。私が答えることを許されている範囲でなら、何でもお応えしましょう」
「このダンジョンの主は、リリスと同等かそれ以上の存在でしょうか?」
「リリスは破格の存在なので、比較すること自体できません」
「それでは、我々は今のままの戦力で、ダンジョンの主まで辿りつき、倒すことができるでしょうか?」
「できません」
エバートンの問いに対する、イシュタルの答えに皆が動揺する。
「一度戻って、戦力の増強を図れば、可能になりますか?」
「可能になりません」
「それじゃあ、どうやっても不可能じゃ?」
ダミアンがぽつりと言った。
「不可能ではありません」
ダミアンのつぶやきにもイシュタルは答えた。
「先程も言いましたが、全滅以外に道がなかったあなたたちに、別の道が開いたのです」
「このままの戦力では勝てない、増員しても勝てない・・・つまりこのメンバーで力のレベルを上げると言うことですか?」
エバートンの問いにイシュタルは暫し目を閉じ、熟考した。
そして、目を開き、
「具体的な事を教えることは、因果を歪めることになるので言えませんが、ほぼ正解です。鍵を握っているのは、あなたと先程フィロゾの6大魔法を使ったお二人です。ここまでが私がお教えできる限界です。申し訳ありません」
「いえ、充分です、ありがとうございました」
「あなたたちの成功を祈っています」
ジョゼ=イシュタルの身体の光がより薄くなり、点滅しはじめた。
「そろそろ皆さんとお別れです。この身体は荼毘に付さなくても、アンデッドにはなりませんので、そのまま弔ってあげて下さい。皆さんのご武運を!!」
ジョゼ=イシュタルの光は完全に消え、ジョゼの亡骸がゆっくりと横たわった。
「ジョゼ・・・ありがとう・・・」
ベルタが祈りの体勢のまま呟いた。
リリスとイシュタルは、様々な解釈があります。
いつもの言い訳ですが、突っ込みはなしで願います。




