賭け
よくあるネット小説は主人公が無双しますが、ここは、敵が無双します。
リリスは額に食い込んだダミアンの剣をそのままに、両手を己の許に呼び戻す。
エルザから左手が離れ、どさりとエルザの身体が投げ出された。
かろうじて息はしている。
ララが再びヒーリングをして、エルザを抱き起こした。
エバートンの魔法陣は、残り四分の一まで作業が進んでいる。
俺のスマホの充電は、後少しで半分まで来ていた。
もう少し凌げば、リリスを送り返せる。
その思いで、スマホの充電を続けた。
リリスは額に食い込んでいるダミアンの剣を、ひょいと持ち上げた。
剣が抜けると同時にリリスに額の傷は塞がってゆく。
「惜しいな、もう少し魔力が多ければ・・・かすり傷くらいはつけられたのだが」
リリスの真紅の瞳がギラリと光り、殺気が迸る。
「うっ!!」
ダミアンがリリスの殺気に気圧されて、後ろに下がった。
リリスは殺気を放ったまま。ぐるりと周りを見渡した。
ゆらりとリリスの身体が揺れると、その姿が掻き消える。
「がっ」
ダミアンが蹲る。
リリスの拳がオリハルコン製の鎧にめり込んでいた。
そのままダミアンを持ち上げ、投げ捨てると、その姿は再び掻き消える。
アイオロスと親衛隊の一人が同時に弾き飛ばされる。
二人とも派手に転がり、気を失っていた。
一瞬だけリリスの姿が見えたが、すぐに消える。
「おっと!!」
デトレフさんがロングソードを立てたところにリリスの拳がぶつかり、凄まじい金属音が上がった。
「ほう、私の姿が見えたのか?」
リリスが尋ねる。
「いや、勘だ」
「勘か・・・見事だな。だが、地力が足りないな」
リリスはデトレフさんの剣を握り、そのまま凄い勢いで振り回した。
「なっ!?」
驚きの声を上げたのはリリスだった。
リリスがデトレフさんを剣ごと投げようとしたら、デトレフさんが剣を手放したのだ。
剣だけが遥か遠くに飛んで行った。
「貴様・・・武器を手放すとは・・・何を考えている?」
「ん?戦っているのは自分だけではないのでな。後は他の者にまかせようと思っただけさ」
「武器を手放せば、待つのは死のみ。分かっているのか?」
リリスが殺気を放つ。
しかしデトレフさんその殺気を受け流した。
「確かにその通りだが、リリス殿は、我々を皆殺しにするつもりなのだろう?なら、投げられて、痛い思いをするだけ損ではないか」
デトレフさんの言葉にリリスに殺気が霧散してしまう。
「その糞度胸に免じて、貴様を片付けるのは最後にしてやる」
「そりゃ、どうも」
デトレフさんがおどけて肩をすくめる。
リリスは気を取り直したように、ゆらりと姿を消す。
騎士団の5人が次々に飛ばされ、そのまま気絶する。
戦士だろうが魔術師だろうが、見事に鳩尾を一撃だった。
一瞬リリスの姿が見えるが直ぐに消える。
リリスの姿が消える度に、騎士団や親衛隊、冒険者が倒されてゆく。
死亡はないが、誰も立ち上がれなかった。
魔術師がヒールをかける時間を与えない速攻だ。
気付けば、エバートン、デトレフさん、俺以外、残ったのは全て女性だった。
騎士団で女性はサラサのみ。
親衛隊はリラにベルタ、もう一人魔術師がいた。
ゴールド・エクリプスは全員女性。
シルバーファングはリーナだけが残っていた。
ぐるりと見渡しただけで、女性と男性の位置を把握し、男のみを無力化してしまうとは・・・
俺とエバートンを残したのは、エバートンも俺も準備が出来ていないと判断したのだろう。
まだこちらを甘く見ているのは間違いない。
「さあて、約束通り、女から殺してゆくとするか」
姿を見せたリリスから今まで以上の殺気が迸った。
死そのものが、そこに立っている。
魔法攻撃、物理攻撃とも通用しない。
唯一、魔力を纏った剣での攻撃は有効らしいが、魔力が絶対的に足りない。
ベルタとエルザは既に戦闘不能。
このままではリリスの蹂躙を待つばかりだ。
「ヒデキ様、私が前に出てよろしいですか?」
「エリーがいなければ、6大魔法が発動できなくなるぞ」
「でも、このままでは・・・」
「ヒデキ殿、準備のほうはどうですかな?」
俺とエリーの会話にエバートンが横槍を入れてきた。
「スマホの電力はかなり回復しました。暫くは戦えます」
「賭けではあるが・・・『エクセレント・ヒール』をジョゼに・・・」
「えっ?何が起こるかわかりませんよ!!それに死者への冒涜に・・・」
「倫理観に捕らわれて、犠牲者を増やしますか?何がおこるか分からないから賭けなのだ!!早く!ヒデキ殿!!」
たしかにもう時間はない。
すぐにでもリリスは惨殺を始めるだろう。
ジョゼの亡骸はアンデッド化しないように、聖なる結界の魔法陣に寝かせてあった。
俺は『エクセレント・ヒール』の魔法陣を呼び出し、ジョゼに亡骸に向けて魔法を放つ。
ジョゼの体は、神々しい光に包まれた。
「あの光・・・何故その魔法を使える?」
リリスの殺気が霧散し、驚愕の表情に変わる。
その時だった・・・
ジョゼの瞳は開き、ゆっくりとその身体が立ち上がった。
ジョゼの身体は光に包まれたままだ。
「ジョゼ!?」
ベルタが小さく呟いた。
「ここは?人界か?」
ジョゼは周囲を見回してリリスに目を留めた。
「なるほど・・・お前がここにいるから、私が呼び出されたわけか・・・久しぶりだな・・・リリス!!」
「イシュタルか!?」
「300年ぶりか?人界で会うのは?また、快楽で殺戮を繰返す気か?さしずめこの身体もお前がくびり殺した亡骸であろう?」
リリスに「イシュタル」と呼ばれたジョゼは、ゆっくりとリリスに前に立った。
「エバートン参謀、イシュタルとは?」
「伝説では300年前にリリスを滅ぼした女神と言われている」
「滅ぼした?では、これで我々の勝ちですか?」
エバートンは首を横に振った。
それに呼応するように、リリスが
「ふん!!300年前は不覚を取ったが、今回はそうはいかんぞ。そのひ弱な人の体では私には勝てぬ」
リリスは魔族を生贄に召還されたので、本来の身体だ。
イシュタルはジョゼの身体に降臨している。
そういうことか・・・
「確かにお前を滅ぼすことは叶わぬが、お前がなめてかかっている・・・後ろの人間がなんとかしてくれそうだ」
ジョゼ=イシュタルは俺達を見ながら言った。
「つまり私は時間稼ぎをすれば良いだけだ。それぐらいなら、この身体で充分だろう」
「私が時間稼ぎさせると思うか?」
リリスの姿が再び掻き消えるが、それに合わせる様にジョゼ=イシュタルの姿も掻き消える。
すぐに二人が姿を表し、お互いの両手を併せて、組み合っていた。
丁度プロレスラーがゴングと同時にやる、力比べのような体勢だ。
「リリスどこへ行く?まずは私の相手をしてくれないと困る」
「お・の・れ・ぇー!!イシュタル!!貴様ぁー!!」
「300年前は国1つ滅ぼしたお前だが、今回は遊びすぎたな。もはや誰も殺すことは出来ん」
「くっ!?」
「いまさら地獄の猛炎で皆を焼き殺そうとしても無駄だ。私の光が届く範囲は地獄の猛炎は届かぬよ。」
「ならばお前を先に八つ裂きにしてくれる」
「そうだ、まずは私だ・・・が・・・もう1つ邪魔をしてやろう!」
ジョゼ=イシュタルの身体から発せられる光が青白く変わった。
すると、気を失った者、蹲って動けなくなっていた者達が次々と立ち上がる。
ベルタやエルザも生気あふれる姿で剣を構えていた。
良く見れば、凹んだ防具、ヒビが入っていた防具まで元に戻っている。
さすが女神のヒーリングだ。
「これでお前が無力化した者達は、元通りだ」
「殺してやる!!その後ここにいる全ての者を焼き尽くしてやるぞ!!」
リリスの真赤な瞳は怒りで燃え上がり、殺気は天井まで届くようだ。
言葉は物騒なのだが、ジョゼ=イシュタルは意に介さない。
どんなにリリスが暴れようが、組み合う手が解けなかった。
「ジョゼ?生き返ったの?」
ベルタがジョゼ=イシュタルに話しかけた。
「残念だがジョゼの魂はここにはない。呼び戻すことは、私も禁じられているのだ。すまぬ」
「それでは・・・あなたは?」
「我が名はイシュタル・・・フィロゾの名の下にこの地に呼び出された」
「イシュタル様」
ベルタは跪き、聖なる祈りのポーズを取る。
「ちょっと待てよ、ヒデキ、お前がジョゼの死体にあの魔法を?」
「そう、賭けだったですけどね」
セルゲイが俺の肩に手を置きながら聞いた。
「ヒデキ、俺が死んだら、軍神を呼び出してくれよ。女神が俺の身体に入るのは勘弁してくれ」
「いや、今回は特別だと思いますよ。魔女リリスに対するものとして、降臨したらしいですから。それに指名して呼び出す魔法じゃありません」
「そうか・・・まあ死んだら約束通り頼むぜ」
「そうならないようにしましょうよ!!」
「その通り!!術式の完成だ!!」
エバートンが汗を滴らせながら宣言した。
ヒデキの賭けは、正解だったのでしょうか?




