リリス
勝てない敵に遭遇した時、人はどう思うのでしょう?
今回の敵はそのような敵です。
俺はポーションを飲み干しざまに、イプシロンに魔力を込めた。
エリーが俺の腕を掴んでいる。
スライドショーに魔法陣が次々と流れ、それに併せてぐんぐんと魔力が吸い取られて行く。
ポーションの大量補充は助かった。
遠慮せずに大魔法を使える。
魔力を限界まで搾り取り、υ(イプシロン)は発動した。
俺とエリーは次の攻撃のため、ポーションを補充する。
リリスが真黒な円柱に包まれていた。
「!?ほう!成る程、成る程・・・私が呼ばれたのは、こういう訳か・・・お前達人間にこの魔法が使いこなせるとは・・・500年前にフィロゾが作ってから、誰も使えなかったのに、驚いたぞ」
リリスにダメージを与えているとは思えないが・・・
「それで、何をしようと言うのだ?これでは私を倒すことができないぞ」
どうもそのようだ・・・
「エバートン参謀、これでは倒せないみたいです」
「今の戦力でリリスを倒すことは、ほぼ不可能魔法陣を使って送り返すしかない」
「リリスはそこまで強力な魔女なのですか?」
「300年前に1国を一人で滅ぼした記録がある伝説の魔女だ・・・名乗った時に、まさかとは思ったのだが、ジョゼを殺した技を見て確信した」
エバートンは魔法陣に書き込みする手を休め、言った。
口調から敬語が消えている。
それだけ余裕がないらしい。
「本物だ!!おそらくだが、このダンジョンの主やベリアルよりも格上だ」
「それほどまで・・・」
「上位魔族の生贄は伊達ではなかった、と言うことだ」
「では無理にでも6大魔法を連発して時間稼ぎをしましょう」
「お願いする」
「了解しました」
エバートンは再び作業に戻った。
少しでも時間稼ぎをと思い、俺はスマホを確認する。
そして重大なことに気付いてしまった。
スマホの電池が残り少ないのだ。
フル充電状態だったメモリがあと1メモリしかなかった。
しまった、かなり使っていたから。
いつも定期的に充電するのだが、エリーとの魔力共有訓練の時に使いすぎたか。
俺はあわてて、蓄充電器を取り出し、スマホに繋いだ。
蓄電されていたので、すぐに充電が始まる。
それに併せて、手回しで発電をして電気を補充してゆく。
せめてメモリ半分まで復活しないと、6大魔法は安心して使えない。
戦闘中だが、なりふり構ってはいられなかった。
ここで全滅するよりはましだ。
「おい!もう飽きたぞ!!」
リリスの声が円柱の中より聞こえた。
同時にリリスの両手が手首まで円柱より飛び出す。
「両手だけで充分だな。さっきの続きを始めるぞ!!」
さっきと同じように手首だけが動き始める。
「全員警戒して、対処しろ!!」
デトレフさんが警告をして、剣を構える。
円柱の中から外は見えないらしい。
リリスの両手は、闇雲に動きまわっている。
騎士団の一人が伏せながらダガーで攻撃してみたが、ダガーを握り潰しあてずっぽうで首の位置を掴み、空振りをしていた。
これなら、まだ時間を稼げるのでは?
そう思っていたが、そこまで甘くはなかった。
「まどろっこしいのう!これなら避けられまい」
リリスの掌に1個ずつ目ができて、ゆっくりと見開いた。
「フハハハハ、良く見えるぞ」
女性を先に狙う方針は変更ないようで、ゴールド・エクリプスのメンバーへとリリスの両手が迫る。
狙われたのは、ララとローラ。
ララはファイヤー・ボールを放ち、ローラはダガーを投擲した。
ファイヤー・ボールは霧散し、ダガーは握り潰される。
二人の喉に掌が迫った時、エルザが割って入り、レイピアを2度突き刺し、両目を潰した。
「なかなかの剣技!気に入った、お前にしよう!!」
潰れた目は消え、直ぐに掌に小さな瞳が5個復活し、両手がエルザに向かう。
エルザはレイピアを高速で振るったが、3個の瞳を潰したところで右手がレイピアを掴んで動きを止め、左手がエルザの喉に食い込んだ。
「ぐぅ!!」
エルザの身体が10センチほど持ち上げられ、痙攣した。
「エルザ!!」
ララが急ぎグレート・ヒールを唱えた。
痙攣が止まり、エルザの両手が、自分の喉に食い込むリリスの指を引き離そうと指に手をかけた。
「なかなか良いチームワークだな。ますます気に入った」
リリスの言葉と共に、レイピアを掴んでいた右手がレイピアを持ち直して、エルザの右太股に、それを付きたてた。
「うわぁぁぁ」
「エルザ!」
痛みを堪え、エルザはなんとか喉に食い込むリリスの指をはずそうとする。
レイピアは徐々にエルザの太股にじわじわと食い込んでゆく。
「エルザを離せ!!」
ゴールド・エクリプスの面々がリリスの両手を攻撃しているが、剣で切られようが、魔法をぶつけられようが、全く止まらなかった。
「この中の体を叩けば止まるかも知れない、皆攻撃してみてくれ!!」
黒い円柱に近付き、デトレフさんがロングソードを突き立てる。
それに追随して、前衛たちが次々と円柱に中に剣を振るった。
「無駄だ!普通の剣では、私を傷つけることはできぬ!!」
「ならばこれならどうだ!!」
ダミアンとサラサが剣に魔力を纏わせて、円柱を切り付けた。
「うむ、正解ではあるが、魔力が全く足りぬ」
リリスは解説をしながら、エルザのいたぶりを緩めることはなかった。
その間俺は、何もできなかった。
スマホの充電がまだ終わらなかったからだ。
メモリはまだ三分の一しか達していない。
6大魔法が切り札の1つである以上、途中でスマホを使うわけにいかなかった。
エルザの太股に刺さっているレイピアは、完全に貫通して根元まで刺さっている。
その痛みに耐えながら、エルザは喉に食い込むリリスの指と戦っていた。
誰も何もする事ができない・・・圧倒的な実力差。
リリスの敵をいたぶる性格のおかげで、皆が全滅から免れているだけなのだ。
「ヒデキ殿、リリスが楽しんでいる間に我々は勝機を掴むしかないのだ、耐えるのだ」
「分かっています、リリスは遊んでいる間が俺達の生存時間です」
「そうだ・・・今の戦力ではリリスには勝てない・・・リリスが本気になる前に、転移魔法陣で送り返す」
エバートンは、リリスが転移して来た時に浮かび上がった魔法陣を再現し、逆に送り返そうとしているのだ。
瞬間記憶能力を持つエバートンにしか出来ない事だった。
その魔法陣は、丁度二分の一ぐらいの完成具合だ。
俺は手回式の蓄充電器を回し続けた。
ララが3度目のグレート・ヒールをエルザにかける。
だが徐々にエルザの抵抗は弱まっていった。
「そろそろ終わりにするか?」
レイピアを握っていた右手がレイピアを離し、エルザの喉元へ迫る。
「調子に乗るな!!」
セルゲイがバスターソードをリリスの右手を切りつけた。
右腕は地面に叩きつけられるが、すぐに拳を握り、セルゲイの顎にパンチを振るった。
「邪魔をするな!!」
「ぐわぁ!!」
フルプレートが凹み、セルゲイはもんどり打って後ろに倒れる。
セルゲイは完全に気絶していた。
リリスの右手はそのままの勢いでエルザを狙う。
間にアイオロスが割って入り、右手を剣で払った。
リリスの右腕の軌道が変わる。
そのままリリスの右手はララに向かった。
不意を突かれたララは完全な無防備だ。
ララの喉元にリリスの右手が食い込む瞬間、サラサが下から剣を突き上げ、リリスの右腕を上空に逸らした。
「ふうむ、お前達の連携はなかなか素晴らしい・・・が、そろそろ飽きた・・・まずはここから出るか・・・」
リリスの言葉と供に、黒い円柱から徐々にリリスの姿が現れ始める。
ズズズズという音が聞こえそうな動きだ。
力ずくで闇魔法の拘束から、抜け出そうとしているのだろう。
「時間稼ぎでもいい!皆、攻撃魔法を使え!前衛はリリスの右手をエルザに近づけるな!!」
デトレフさんが、声をかけ、魔術師達が攻撃魔法を円柱から半分抜け出しているリリスに放つ。
エルザは喉に食い込むリリスの指を辛うじて押さえている。
だがその力は、少しずつ弱まっていった。
リリスに放たれた攻撃魔法は、相変わらずぶつかる直前で霧散してしまう。
リリスの右手はエルザを狙うが、大勢の前衛がその行動を阻んでいた。
ダミアンが魔力を纏わせた剣をリリスに切りつけた時、リリスは完全に黒い円柱から抜け出していた。
額に食い込んだダミアンの剣を気にもせず、リリスはにやりと笑って、言った。
「さあ、ここからは殺戮の始まりだ」
そして、圧倒的に有利な時、その者の行動は?




