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大魔術師

運命を左右する出会いです。

料理屋で隣に座った男が、驚くべき言葉を口にした。


「お、お前達・・・日本人か?」


男の髪は白髪交じりの黒だった。

顔には深い皺が刻まれ、年齢は50歳後半ぐらいだろうか?

驚きに少し手が震えている。


「あなたも日本人なのか?」

「そうだ・・・俺は10年前にこの世界へ来た・・・」

「俺以外にもこの世界に来た日本人がいたなんて・・・」

「色々話したいが、ここでは出来ない・・・俺は今宿無しだ・・・」

「じゃあ、俺達の宿に行きませんか?」

「いいのか?」

「構いませんよ。食事が終わってから行きましょう」

「分った・・・」


お互いに落着きたかったので、食事を優先することにした。

男も焼き魚のセットを注文していたようで、同じメニューが運ばれて来た。

がつがつと食べ始めた男に釣られて、俺もエリーも食べ始めた。

ほぼ3人同時に食べ終わる。


俺が3人分の支払いを終えて店を出た。

ローブ姿の3人が、陽がすっかり沈んで暗くなった道を歩いて行く。

なかなか不気味な光景だ。


宿に戻り、1階の食堂で、果実酒買って2階の部屋に戻った。

男と俺が椅子に掛け、エリーはベッドに腰掛けた。

グラスを三つ出して、果実酒を注ぐ。

男が先に言った。


「まずは、同郷人の出会いに、乾杯」

「乾杯」

「どうやってここに来たかは・・・恐らく同じだろう、誰かにぶつかった?違うか?」

「そうです」

「やはりな・・・」

「それは置いておきましょう。俺は樋口英貴、こちらではヒデキと名乗っています。ここへ来て、まだ2ヶ月弱。そちらは妻のエリー」


エリーが軽く会釈する。


「俺は向井陽一、こちらではムカイと名乗っている。こちらに来て10年になる。五年前まで、王都で魔術師として騎士団にいた」

「と言うと王国騎士団ですか?」


ムカイはグラスの酒をひと口飲み。ふーと、息を吐いた。


「そうだ・・・五年前にお払い箱になったが・・・」

「お払い箱に・・・」


理由は想像ついた。


「君は今どうやって生活をしている?」

「俺は冒険者として、今はガウラン辺境伯に臨時で雇われている形ですね。ダウの森にダンジョンが出現しまして、ダンジョン攻略までは雇われているかと思います」

「そうか、ガウランに雇われているのか・・・」

「ガウラン辺境伯をご存知で?」

「ああ、王都の武術大会で見た。豪快な剣術を使う男だった、二度準優勝して辺境伯に陞爵した」


豪快なのか・・・見た目のまんまだな。


「そうか冒険者か・・・こちらに来た先輩から助言だ」


もう一口酒を飲み、


「一生生きていけるだけの金を稼いだら、すぐに引退しろ!!いいな!!」

「えーと、ムカイさんは稼げたんですか?」


・・・少し沈黙の後・・・


「稼いだが、王都で贅沢な暮らしをしすぎてな・・・まさか・・・こうなるとは思わなかったんだ・・・」


ムカイは内ポケットから、スマホを取り出した。

想像通り、液晶画面の部分が割れていた。

当然、液晶は全て流れ出している。


「俺は魔術を使えなくなり、騎士団から放逐された」


俺の未来がこうなるであろう、1つの可能性がここにあった。


「蓄えていた金は、ほぼ底を着いた。今はこれで辛うじて日銭を稼ぎながら暮らしている」


ムカイはスクロールを取り出し広げた。

魔方陣が描かれているが何の魔法か分からない。


「初級の治療魔法だ。軽症に微熱、痛みを癒す。治療院で日銭を稼ぐ毎日だ」

「宿はどうしているのですか?」

「これだ」


もう一枚スクロールが広げられる。


「冒険者がダンジョンや冒険先で使う簡易結界だ。雨露や虫を避けられる」

「宿代の節約ですね」

「そうだこの二つのスクロールがあれば、生きていける。贅沢しなければな。この辺境都市では冒険者が多い、怪我人にはことかかない」

「そうですか・・・」


俺達は暫く黙って酒を飲んでいた。


「ここに来た時の事を聞かせて貰えますか?俺はダウの森の先のサテラ大草原に転移しました」

「ほう、そんな辺境の片隅に・・・よく生きてここまで来られたな・・・」

「エリーのおかげです」


俺はエリーの方を見て言った。


「いいえ、私のほうこそ、命を助けていただきました」

「ん?奥方は日本人ではないのか?しかしその顔立ちに髪の色・・・」

「エリーは少し訳ありなのです」

「そうか・・・詮索はしないでおこう。俺は王都の魔術師の自宅に転移した。最初は賊と思われ、殺されそうになったが、どう見ても異邦人の格好をしていたので、助かった」

「どのような服を着ていたのですか?俺は通勤の途中だったので、スーツでしたが」

「スウェットスーツだ。朝のジョギング中だった。だから持ち物はスマホしかなかった」

「どうやって魔方陣の写真を?」


ムカイも同じ事に気付いて魔術師となったに違いない。


「魔術師が色々と魔方陣を描いて持っていたのさ。下働きで働いている間に写真を撮った。そこで基本的な魔術は使えるようになった」

「それだけでは、王国騎士団には入れないのでは?」

「その通りだ、俺は下働きをやめて、王都で雇われ魔術師として暮らした。冒険者の依頼に参加したりしていた」


今の俺の王都バージョンと言うところか。


「暮らし始めて少し経った時、下働きで世話になった魔術師の誘いで遺跡調査に行ったんだ。その時に大きな石碑が見つかった。」

「もしかして、その石碑に?」

「そこに膨大な数の魔方陣が刻まれていたんだ。重すぎて運び出す事もできない、書き写すには複雑すぎる。魔術師は歴史的発見だと大騒ぎしたが、再現できないのでは無意味だと言うことで、放置されてしまったのだ」


実生活に役に立たなければ、放置される。

そんなものか。


「俺は後日この遺跡に行って、刻まれた魔方陣を写真に収めた。所々欠けたり、刻まれ部分の溝が浅くなりすぎて、完全じゃない魔方陣が2割あったが、7割は発動した」

「あれ?1割は?」

「俺の魔力量が足りなくて発動しなかった。恐らく大魔法だろう」

「なるほど・・・」


魔力量が足りない事があるのか、俺は今のところない。

エバートンの複合魔方陣も発動したからな。


「俺はこの魔方陣を利用して、王国騎士団で大魔術師と言われるまでに出世した。中小企業の部長職だった俺が、大出世さ」


大魔術師か・・・栄華は欲しいままだっただろう。


「俺は調子に乗り、贅沢の限りを尽くした、しかし、国境での共和国との戦闘で、スマホを壊されてな・・・まさか防御結界が破られるとは・・・」


ムカイは無念の表情を浮かべた後に、暫く頭を垂れて、肩を震わせていた。

しかし、きっと俺の方を向き、


「さて、長々と身の上話をしてしまったが、本題はここからだ」

「・・・本題?何でしょう?」


てっきり同郷だけに言える愚痴をいいたいのかと思った。


「このスマホのデータと、それからこれ・・・」


ムカイはポケットからスマホ大の簡単な手回しハンドルがついた板を取り出した。


「手回し蓄電器だ・・・これがあれば、スマホの充電ができる。専用のケーブルにUSB端子もついている。俺が常に持ち歩いている防災グッズだ」


ああ、ジョギングでも持ち歩いている人だったのか!

時々いるな。


「スマホに入っている魔方陣がぎっしり詰まったマイクロSDカード。それとこの蓄電器を買い取ってくれないか?」

「あなたの命綱だったのでは?」

「ああ、だった・・・過去形さ・・・だが君には命綱となるはずだ!」


確かに・・・恐らく30日後に再挑戦されるダンジョン攻略の命綱になるかもしれない。

王国騎士団の大魔術師の魔法だ。

欲しいのだが・・・


「・・・おいくらで譲っていただけるのですか?あまり法外ですと持ち合わせがないのですが」

「俺はもうあまり贅沢をしようとは思わない。今よりも少しだけ贅沢できればいい。豪遊は大魔術師ムカイの時にしたから・・・だから、ささやかな贅沢、晩飯の時に一杯の贅沢できればいい」


ムカイはグラスの酒を飲み干し、


「金貨2枚でどうだ?」


・・・


「え?」

「無理か・・・なら、金貨1枚でも・・・」

「いえいえ、買いますよ!でも・・・」


俺はローブから手持ちの金貨テーブルの上に出した。


「金貨8枚でどうですか?それでも安い気がします」

「8枚も!?半分で良い、君の全財産じゃないのか?」

「いえ、ギルドにまだ預けてありますから、どうか同郷の先輩に対する敬意として受け取って下さい!お願いします!」

「そういう訳にはいかん!」

「いえ!受け取ってください!」


暫く押し問答が続いたが、ムカイが最後に折れた。

金貨8枚を受け取り、ポケットに収めた。


その間にSDカードを俺のスマホに入れて、中の確認をした。

1つのフォルダを確認したら、魔方陣のアイコンが並んでいた。


「ムカイさんありがとうございます。これで戦えます」

「礼を言うのはこちらのほうだ、こんな大金をありがとう」


俺はムカイを宿の外まで送った。


「もし、何か必要でしたら、冒険者ギルドまで連絡下さい。必ず訪ねて行きますから」

「ああ、ありがとう、ムカイの名で治療師登録しているから、俺を訪ねる時はそれで探してくれ!」

「必ず!!」

「幸運を祈る!!」


ムカイは夜の街へ消えて行った。

寂しい後姿だった。



登録ありがとうございます。

お時間があれば、評価もしていただけると、嬉しいです。

ここでヒデキの戦力は大幅にアップしました。

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