敗北
敵はやはり強くないと・・・
ベリアルが嬉しそうに言う。
「さて、始めましょうか」
ベリアルが右手を挙げた瞬間に・・・
「ウッ!!」
アイオロスとサラサの右腕が肩口から落ちた。
「!?」
ベリアルが左手を横に振ると、クラウスとエルザの両足が足首から切断され、二人が倒れた。
4人とも血は一切流れていない。
4人は、他のメンバー数人が手足のパーツも含めて、奥に退避させた。
ゴールド・エクリプスのララが急いでS級治療魔術を4人にかけ、手足をくっつけた。
しかし4人の体力の消耗は激しく、もはや戦えない。
アイオロス、サラサ、クラウス、エルザの4人が、あっと言う間に無力化された。
「魔術師は防御結界を張れ!!」
エバートンは、そう叫ぶと同時に完成した魔方陣に魔力を込めると、漆黒の光線がエバートンに向かい弾けた。
「ベリアルの防御を無効にした、魔術師は結界維持のまま、前衛攻撃開始!!」
執事のおっさんを含め、親衛隊から5人がベリアルに突撃し、結界魔法ができない魔術師は攻撃魔法を放った。
ベリアルはそれに対して、何もせずに立っている。
5人が切りかかると、それぞれの刃はベリアルの身体を素通りした。
攻撃魔法も同然である。
「アストラルサイドに身体を逃がし、物理攻撃を無効にしたか・・・」
エバートンは冷静に分析し、次の指示を出す。
「闇魔法が使える者、攻撃開始!!」
俺はすぐにスマホを闇魔法の魔方陣に切り替え、エルザが体力を殺がれた身体を起こし、闇魔法を放つ。
エバートンは、指輪を取り出し、左人差し指にはめ、そこから闇魔法を放った。
三人から黒い光線がベリアルに向かうが、素通りして後ろの玉座にぶつかり霧散した。
「何だと!?」
エバートンが始めて驚愕の声を上げた。
「デコイなのか?いつデッコイと入れ替わった?」
「デコイ?天才の名を欲しいままにするエバートン殿とは思えぬ言葉ですな」
「違うと言うのか?」
「さよう、その証拠に・・・ほら・・・」
ベリアルは両手を広げて前に突き出した。
親衛隊の4人の胸に、拳大の孔が開き倒れ騎士団の5人にも胸に孔が開き倒れた。
執事のおっさんはベリアルの行動と同時に伏せたため、無事だった。
「物理攻撃をしてみました。これでデコイじゃないと分りましたか?」
「!?・・・・」
今まで一人の犠牲も出さずに、やってこれたのに、あっと言う間に9人の犠牲者が出た。
執事のおっさんにメイドさんも含めて、一人の名前も知らないのに。
「エバートン殿!撤退しよう!ここまで戦力が落ちれば勝ち目はない!!」
「くっ!!目の前に魔族がいると言うのに・・・」
「エバートン参謀、ここは退きましょう。恐らくベリアルは、追撃して来ません」
「魔族がそんなに甘いとは思えないが・・・ヒデキ殿、その根拠は?」
「ベリアルはただ楽しみたいんですよ。3体の僕を召還し戦わせた時、少しでも介入されていれば、その時点で我々は全滅していました。それをしなかったのは、我々の実力を推し量って、どう楽しむか見ていたのだと思います」
「・・・完全に我々を見下していると?」
デトレフさん、俺、エバートンがベリアルを見た。
ベリアルはにやりと笑い・・・
「いえいえ、見下してなどおりませんよ、デトレフ殿。ヒデキ殿が言う通りなのです。500年ぶりに地上に来たのです。できるだけ楽しみたい。今のあなた方では、戦力不足です」
ベリアルは肩をすくめる。
「あなた方人間に1ヶ月の時間をあげましょう。それまでダンジョンは成長しません。私、ベリアルの名に懸けて、約束します」
「・・・・・」
「エバートン殿!」
「エバートン参謀!」
俺とデトレフさんはエバートンを説得するように見た。
執事のおっさんやメイドさんもエバートンを無言で見つめ、決断の言葉を待つ。
エバートンは目を瞑り、苦悶の表情を浮かべていたが、その目をかっと見開き・・・
「止むを得ない・・・撤退しよう・・・」
「懸命な判断です。追撃とかありませんので、安心して撤退して下さいね」
ベリアルはいかにもほっとしたように言った。
こちらとしては屈辱であるが、これ以上の犠牲者が出ない事が保証されたのだ。
このまま撤退させてもらおう。
エバートンは無言でスクロールを片付け始めた。
親衛隊と騎士団9人の亡骸は騎士団が運ぶ事になった。
アイオロス、サラサ、クラウス、エルザの4人は、ふらふらだが、なんとか歩けるようだ。
「では撤退を・・・」
「皆さん思ったより消耗していますね。そのまま、そのまま、今からあなた方を、外に運んであげますね。全員動かないで!」
ベリアルがそう言うと、俺達がここに転移して来た魔方陣が光始めた。
「馬鹿な!?反転転移だと?」
また無重力感に囚われ、気が付けば、ダンジョンの外にいた。
「・・・・・」
「外だ・・・・反転でもない・・・座標も変更したのか?」
エバートンは無言、デトレフさんはぽつりと一言。
完敗だった。
9人の犠牲者は、荼毘に付された。
「明日、ガウラン辺境伯邸で報告及び、対策会議を昼より開く、それまでに辺境伯邸に集合しておくこと!それでは・・・解散!!」
エバートンの無念そうな声が響き、その後、俺達冒険者チームは待機していた馬車で、他は馬で帰途についた。
いつの間にか夕暮れになっていた。
馬車の中では誰も口を開かなかった。
疲労よりは敗北感で、しゃべる気力もなくなっていたのだろう。
重苦しい空気の中、馬車は辺境都市ブルネル、ガウラン辺境伯邸の前に到着した。
「ヒデキさん、明日は迎えに行きますか?」
リーナが元気ないながら、俺に尋ねた。
「いえ、大丈夫です。昼からですし、こちらで行きます」
「分りました。では辺境伯邸でお会いしましょう。今日は食事を取って、ゆっくり休んでくださいね」
「ええ、ありがとうございます。それでは明日!!」
俺は元気なく返事をした。
馬車を降り、エリーと共に宿に向かおうと思ったが、食事をとろうと思いたった。
ガウラン辺境伯邸からすぐの交差点を左に行って見る。
道路の右側を歩いて、店を覗きながら食事ができるところを探した。
「ヒデキ様、このお店はどうですか?」
エリーが1つの店の前で立ち止まった。
字は相変わらず読めないが、看板に魚の絵が描いてある。
「そこにしよう」
「はい!!」
扉をくぐると、夕食時で丁度混み始めたところだった。
5つある4人がけのテーブルの4つは塞がっていた。
カウンターは8つの椅子のうち、6つが塞がっていたが、ばらばらに2つの空きだったので、テーブルに席に座った。
客が増えて、相席になってもいいだろう。
エリーと向かい合わせに座った。
猫耳のウエーレスが注文を取りに来た。
焼き魚のメニューがあるかと聞くと、あると言うので、焼き魚のセットにする。
飲み物は果物のジュースにし、エリーも同じものを注文した。
「エリー今日はお疲れ様」
「いいえ、ヒデキ様こそ・・・それにヒデキ様が無事で良かったです」
「お互いに無事で良かったな、今日はゆっくり休もう」
「はい」
エリーがにっこりと笑う。
客が増え、カウンター席は満席になったところで、ひとりの男が入って来て回りを見回した。
ぼろぼろのローブに痩せたと言うよりは、やつれた顔だ。
テーブル席で俺達の横の椅子が空いているのに気付いて、俺の横にやって来た。
「相席よろしいですか?」
男は小声で、俺に聞いた。
「ええ、いいですよ。どうぞ、どうぞ」
「ありがとう・・・」
席についても、男は小声で注文を取りに来た猫耳のお姉さんにオーダーしていた。
何か変な所があるな。
暫くすると、俺とエリーに料理が運ばれて来た。
「さあエリー、食べようぜ!」
「はい、ヒデキ様!!」
俺達はローブのフードを脱いで、食事を始めた。
焼き魚は軽く塩を振ってあり、とても旨かった。
エリーも、美味しそうに食べている。
ふと横を見る。
隣の男が俺とエリーを交互に見て、小刻みに震えているのに気付いた。
なんだろう?髪の毛の色がやはり珍しいのかな?
わなわなと男が震えながら言った・・・
「お、お前達・・・日本人か?」
驚く俺に、男はローブを脱いだ。
男の髪は白髪交じりだったが、黒髪だった。
「幻魔大戦」(平井和正・石ノ森章太郎)に出てくる、幻魔・太陽系司令官シグがベリアルのモデルです。興味があったら読んでみて下さい。強いですよ。ダースベイダーを彷彿とさせます。
ところで、ヒデキは衝撃の出会いをしました。さて・・・




