撤退
本日2度目の投稿です。
今後投稿を忘れないように気をつけます。
「生意気な、ハイピクシー風情に何が出来る?」
イフリートは馬鹿にしたように、こちらを見た。
人狼も余裕の表情をしている。
「そうねえ、そのハイピクシーごときに、今からあんたたちは遅れを取るのよ!!」
「ほう、言ってくれるな、お前みたいなちっぽけな存在に、ここまで言われるとはな!!」
「ごたくはいいからさあ・・・見て驚きなさい!!」
ノーマが両腕を天に向かって突き上げる、と同時にエリー、デトレフさん、俺の三人が強烈な風の結界に包まれた。
アラーム結界ではなく、本格的な結界だ。
「ほうこれは強い結界だな、だが先ほどと違って、熱は防げない。うかつだな」
イフリートの体が燃え上がった。
「そう、熱は防げない。でもそれは敵の攻撃に限ってよね。これの結界は今から使う魔法から、こちらの三人を守る結界!さあ、覚悟はいいわね!!」
ノーマの挙げた両腕から青白い光が空中に浮かび上がった。
「水と空気の精霊よ、その力を顕現し、全てを凍てつく世界へと誘え!ゼロ・ブリザード!!」
「な、なんだと!!防御魔法と攻撃魔法の同時発動だと!!ハイピクシーごときが!」
「バーニング・ファイヤー!!」
人狼は驚愕し、イフリートはあわてて攻撃魔法を放った。
しかしその直後にノーマの魔法が発動する。
青白い光が上昇し、突然弾けた。
凄まじいブリザードが村全体に吹き荒れ始めた。
イフリートの魔法は瞬く間にブリザードに飲み込まれて消えた。
視界は銀白色一色に染まり、村全体が凍り始めていた。
雪山でのブリザードも真っ青なブリザードが吹き荒れる。
やがてブリザードがおさまり、視界が元に戻ると、辺りは氷の世界だった。
俺達以外、村全体が凍り付いていた。
当然イフリートも人狼も氷漬けだ。
(ヒデキ様!いまのうちに!)
呆然としていた俺に、エリーが堰かせる。
同じく呆然としていた、デトレフさんに
「デトレフさん、逃げますよ!」
「ああ・・そうだな・・・」
人狼とイフリートは滅びた訳ではない、極寒の冷気によって、凍りついているだけだ。
氷が溶ければ、何事もなかったように動き出すだろう。
泊まっていたイレーネの食堂の入り口を溶かし、二階に登って荷物をまとめた。
デトレフさんの希望で冒険者ギルドも溶かし、中で武器やポーションなどを纏めてデトレフさんが持つ。
イフリートと人狼は凍りついたままだ。
俺達は村人の後を追い、ブルネルへ向かった。
向かう前にノーマを確認するため、胸ポケットを覗いて見たら、親指の爪ほどの結晶があるだけで、ノーマの姿はなかった。
しかし、結晶の中をよく見ると小さくなったノーマが眠っているのが見えた。
「これは?どうして?」
(ノーマは魔力だけではなく、自分の生命力も削ってあの魔法を使ったのです)
エリーが、結晶を透かして見ている俺の横から、覗き込んで言った。
「ノーマはどうなる?」
(精霊は滅びる事はありません、やがては復活します、時期はわかりませんが・・・)
「そうか・・・ノーマには感謝しても感謝しきれない恩が出来たな」
自分の命まで削って俺達に逃げる時間をくれるとは!
何がここまでノーマを突き動かしたのか?
ちなみにノーマの魔法同時発動・・・カラクリは簡単だ。
ノーマが一瞬だけ風の結界を張る、直ぐその後に俺が同じ結界を発動させる。
そしてノーマは気付かれないように結界を解除。
攻撃魔法に転じるという作戦だ。
エリーのファイヤ・ノヴァを防いだ結界は、俺のスマホにはないので、風の結界を使ったのだ。
ノーマ、エリーとの連携攻撃のバリエーションの1つである。
植物系魔物の大移動に遭遇して、全滅しそうになった後、スマホの魔方陣を使った戦法を、3人で色々考えていたのだ。
そして、事前に色々と訓練した成果だった。
「エリー、恵理子形態になれ!」
(よろしいのですか?)
「ああ、構わない」
俺は胸ポケットから、結晶を取り出し、バッグに入れ、上着を脱いでエリーに被せた。
デトレフさんが不信な顔をしていたが、まあ良いだろう。
「デトレフさん、度々申し訳ないのですが、内密に願います」
「またかね?・・・なっ!?これは・・・ヒデキ殿、これは一体?」
エリーの体が光り、あっと言う間に人間に変身して上着を羽織った。
「こんにちは、デトレフ様、エリーです」
「ヒデキ殿にはもう驚かされないと思っていましたが、まだありましたか!!こんにちは、エリー殿、あなたのおかげで助かりました」
「いいえ、ヒデキ様の作戦のおかげです」
「とある事情でブルネルではエリーは本当の姿を見せられないのです。その事情は聞かないで下さい」
上着だけを着たエリーに振り返り、
「村で依頼を受けてその金でエリーの服を買おうと思っていたのですが、この状況じゃ無理そうなので、エリーはトロールの襲撃中合流して一緒に戦った事にします」
「分かりました、あえて理由は聞きますまい。エリー殿の服はブルネルで手配できるように、私が頼みましょう。」
「助かります、路銀が稼げなかったので、困っていたのです」
「今回の魔物の襲撃で、ヒデキ殿には報奨金が出ます。路銀の問題は、解消されますよ。額は期待していて下さい」
「それは有難い」
これで、色々と買い揃えられる。
デトレフさんには内密(内密が多くて申し訳ないが)に願い、俺達は先を急いだ。
道中は何事も無く進むことができた。
イフリートや人狼が追ってくる気配もなかった。
村へ向かう途中ゴブリンの死体が何体か転がっている場面に何度か出くわした。
恐らく移動中の村人と遭遇して返り討ちにあったものだろう。
どうやら村人達は無事にブルネルへと向かっているようだ。
村からブルネルには、大人の足で半日ほどかかるらしい。
開拓村ゆえに、極端な年寄りの村人はいない。
子供も幼い子はいないので、日付が変わる頃にはブルネルには着くだろう。
早馬で連絡は行ってはいるが、状況が変わっているので、討伐隊とすれ違わないようにしなければならない。
この事態は、もうブルネルだけの問題ではない。
王都へも報告しなければならない状況だと、デトレフさんが説明してくれた。
「人狼に魔人、そして人狼が言っていた「主」=魔族の存在。間族は国全体で取り組まなければならないのだ」
と、デトレフさんは言っている。
俺の世界でのファンタジーでは、魔人や魔族は当たり前だったのだが、この世界では、魔人や魔族は、滅多に出現しないらしい。
魔人が1体現れただけで大騒ぎになり、討伐隊が領主の名の元に編成される。
ましてや魔族が、となると国王の名の下に、王国騎士団を中心とした討伐隊、さらにS級の冒険者パーティーが何組も参加するそうだ。
よく考えたら、最初に出会ったスライムでも苦戦したのだ。
と言うか、エリーがいなければ、そこで終わっていた。
それが上位魔族ならば、災害と同じなのだろう。
これが現実のファンタジー世界だ。
油断すれば、ゴブリンにさえ不覚を取る世界なのだ。
イフリートが言っていた「暦が変わった」「安寧の時代の終わり」「激動の時代の始まり」
どういう意味なのだろう?
デトレフさんに聞いて見たが、見当もつかないと言う。
そのことも国に報告する必要があると、デトレフさんは言っていた。
とうに日は暮れ、いつものように大小いくつもの月が登っている。
その月がそろそろ天空にかかる。
村人達がブルネルに到着した頃だろうか、そう思って歩いていたら、前方から複数の馬の蹄の音が聞こえて来た。
擬音で言えば、パカパカという蹄の音があっと言う間に近付いてきて、月明かりに複数の乗馬した者達が見えて来た。
ブルネルから派遣された討伐隊だろう。
俺達は目論み通り、討伐隊と合流することができた。
ここで一度ノーマには退場願いました。
ノーマ無双になるのを防ぐためです。
かならず再登場させますので、気長にお待ち下さい。




