森林行②
今回も何事もなくお話は進みます。
主人公のかかえる問題の1つを解決する糸口が掴めます。
森林での一夜が無事に明け、エリーは朝食のための狩に行った。
ノーマは結界を解いて、いつも通り朝露を飲み朝食を終了。
再び俺の上着のポケットで、惰眠を貪り始めた。
俺は近くを散策して、野草を採集していた。
ノーマに教えて貰ったので、食用の野草は簡単に見つけられた。
昨日食べた木の実はかなり好みの味だったので、多めに採集してバッグに入れた。
俺が野草を集めている間に、エリーが獲物を狩って、帰って来た。
いつも思うが、こんな樹海でよく迷わずに戻って来る事が出来るものだ。
帰巣本能のようなものだろうか?
エリーに聞いてみたら・・・
「ヒデキ様のいる場所なら、私はどんな遠くからでも帰って来ますよ」
と言う照れる答えが返ってきた。
愛されているが、なんか愛が怖い。
今日の獲物は、でかいトカゲだった。
エリーの2倍ほどの大きさだ。
共食いじゃないのか?と聞いたら、思いっきり怒られた。
「ヒデキ様酷いです!!私はトカゲではなく、ドラゴン種です!!」
「すまん!すまん!」
ごもっともです。
昔、恐竜は大きなトカゲと思われていたが、現代恐竜学では、まったく別の生き物だと思われている。
体には羽毛があったとか、体の色はカラフルであったのではないか?とか。
恐竜が進化して現在の鳥類になったとか、どんどん新しい学説が提唱されている。
それはさておき、
この世界でも、トカゲとドラゴンは全く別種と言うことだ。
最初にトカゲだと勘違いしていた事は、墓場まで持って行く秘密だな。
ん?トカゲ君とか呼びかけていた気もするが、まあ記憶違いと言うことにしておこう。
トカゲを捌き、エリーのブレスで炙り、切り分けて食べ始める。
食べられる所は、主に尻尾の部分だけだ。
それでも長く太い尻尾だったので、充分な量の肉があった。
いるのかどうかは分からないが、この手の野生動物は寄生虫が恐いので、エリーに充分に焼いてもらった。
食べてみると、爬虫類特有と言うか、鳥と魚を足して二で割ったような味だった。
最初に食べたレッサーラットよりは、かなり美味しかった。
さっさと朝食をすませて出発する。
エリーを先頭に、樹海を東へ東へと進み続けた。
道中、ゴブリンが何度か襲って来たが、4,5匹の集団だったので、エリーが秒殺していた。
スライムに比べてゴブリンの弱い事よ!!
ゴブリン=小鬼 その名の通りだな。
夜もノーマの結界のおかげで、見張りをエリーと交代しながら無難に終える事が出来た。
相変わらず夜になると、魔物の活性は顕著だったが、結界を越えてまで侵入して来る強敵はいなかった。
見張りをしている間に、剣を手に素振りをしている。
あまり意味がないかも知れないがやらないよりはましだ。
でかいスライムに苦戦をして両腕骨折とかは、もう御免こうむりたい。
しかも最悪な事実が判明した。
どうも俺には魔術は使えないみたいなのだ。
ノーマに水系魔術で一番低位のウォーターボールを教えてもらったのだが、呪文を唱えても、一切発動しなかった。炎系ファイヤーボール、光系ライト、土系ストーン、回復系ヒール、風系ウインド、全滅だった・・・
「あなたは魔力がないわけではないの。ちゃんとあなたの魔力を感じるのだけど、まったくどの精霊に働きかけができていないのよね。回線が繋がっていないのよ」
この世界の魔術は、精霊への働きかけで発動するので、回線が繋がっていないと発動しないと言うことらしい。
俺のいた地球では、妖精は伝説の存在だった。
俺が妖精との回線が繋がっていないのは、そのせいだろうか?
普通どれか一つは回線が繋がっているので、誰でも一つは魔術が使えるそうだ。
後は魔力量と呪文詠唱の訓練によって、使える魔術のランクが上がってゆく。
大魔術師と言われる人達は全部の系統の魔術を使いこなし、尊敬され高い地位にいて裕福な暮らしをしているらしい。
結論から言うと俺はどんなに魔力を持っていても魔法が使えない、なんとか精霊と回線を繋ぐ方法を探さなければならない。
しかし納得がいかん。
普通異世界からの転移者って、チート能力とか、神の祝福とか、持っているのではないのか?
ライトノベルの読みすぎだ!と言われても仕方がないかも知れない。
魔術がダメなら力とか知恵とか、それもない。
まさか死に戻りとかの能力じゃないだろうな?
そんな能力たとえあったとしても、使えない。
このままでは役立たずになってしまう。
なんとかしたいと考えていたら、ノーマが水魔法を使うとき、一瞬魔方陣が地面に浮かび上がるのに気付いた。
魔方陣を使えば、俺も魔法を使えるんじゃないのか?
ノーマに頼んで、もう一度水魔法を発動してもらい、魔方陣が浮かび上がった瞬間にスマホのカメラ機能を使って写真を撮った。
「それなぁに?」
「俺がいた世界の技術だよ、写真って言うんだ」
「写真?何?この絵?こんなに正確に絵がかけるの?驚いたわ!!へー!!写真?へー!!」
ノーマに撮ったばかりの魔方陣の写真を見せると、興味深々でスマホの画面に張り付いて見つめていた。
「写真と言うのですか?このような精密な絵が自動で描けるなんて、ヒデキ様のいた世界の技術は凄いのですね!!」
エリーが恵理子の姿で、覗き込んでいた。
俺と声を出して会話できるのが嬉しいらしい。
「ノーマ、この魔方陣を使えば、俺でも魔法が発動できるか?」
俺は魔方陣の写真を熱心に見続けているノーマに聞いた。
ノーマは暫く考えていた。
「うーん?!なるほど!!そうか!!・・・・可能性はあるわ。魔方陣は正確に描けないと魔法は発動しないのだけど、これだけ正確ならいけるかも?やってみて!!」
「どうすれば良いんだ?」
「魔方陣に手を当てて、魔力を込めるの」
「こうか?」
スマホを地面に置き画面に右手を当てる。
体から魔力が右手に集中するイメージを思い浮かべる。
すると目の前に拳大の水玉が浮かび上がり、地面に落ちた。
ウォーターボールの成功だ!
「出来た!!」
「それよ!!後は練習あるのみよ!!頑張ってね」
「とりあえず今は進もう。練習は夜に、見張りの時にするよ」
俺は嬉さのあまり大声を出しそうになるのを我慢して、立ち上がり、スマホをポケットに入れた。
エリーが本来の姿に戻り、先頭を歩き始めた。
歩きながら俺は心底ほっとしていた。
この世界、魔法が使えないと、生きていけないと思っていたからだ。
魔法が生活の基準になっている世界で魔法が使えないと言う事は、俺の世界では科学を全く使えないのと同じだ。
魔方陣の写真をスマホで撮って、コレクションして行けば、生活には困らないレベルにはなるだろう。
くれぐれもスマホを壊さないように、盗まれないようにしなければならない。
幸いソーラー充電器もあるから、電池切れはしない。
俺のスマホは防水加工してあるから、水の中に落ちても大丈夫だ。
SDカードも大容量だ。
電池の寿命が尽きるまでには、何年もかかるはずだ。
それまでに魔方陣を正確に書き写せば、生きて行けるだろう。
とにかく魔方陣を出来る限りコレクションしなければならない!!
生きる希望が沸いてきたので、足取りも軽くなる。
昼なお暗い樹海の中を歩いているのに、蒼天の元を歩いている気分だ。
実際は歩きにくい森の中を苦労しながら行軍なのだ。
(ヒデキ様、今日はすごく機嫌が良く見えます。何かございましたか?)
「まあ、色々と悩み事が解決したのでな」
(そうですか?それは良かったです)
エリーも疑問符を浮かべながら、足取り軽く進んで行く。
ノーマは平常運転、胸ポケットで爆睡中だ。
このまま何も無く樹海を抜けたいと思っていたのだが、野営に入ってノーマの結界の魔方陣をスマホで撮影、いつも通り俺が見張りを始めた時、問題は起きた。
次回は彼らにとって、最大の危機です。




