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部屋の中で・・・ あやとりしましょ!

「ここはこうでいいの?セリア」

「えっと、はい。そうです。それで親指にかけた糸を外して引っ張ると・・・」

「・・・すごい。本当に紐がスルリと取れたね」


僕の称賛の言葉にベッドの上のセリアはニッコリと笑ったのだった。


僕の名前はミルフォード・カイセル・フォングラムという。

僕は今、妹のセリアテスと「アヤトリ」をして遊んでいるところだ。


セリアは4日前にまた高熱を出して倒れた。それで心配をした家族がセリアにベッドで安静にしているようにいったんだ。でも、昨日はまだ微熱があったからおとなしく寝ていたセリアも、今日は完全に熱が下がったのにベッドから出るなと言われて、涙目で母と祖母を睨むと布団をかぶって寝てしまったんだ。


まあ、仕方がないよね。

今日までのことと、4日後に控えた大事のためだもの。


セリアには今、ある疑惑が持ち上がっているんだ。

セリアがもしかしたら「アラクラーダ様の神子」かもしれないということ。

それで、その真偽を確かめるために神殿に行って、聖別の儀を受けないとならないんだ。


神殿から一度この日(実は今日だったりするんだけど)に来るようにと連絡がきたけど、

セリアが高熱を出したから、日にちを変えることになったんだ。


そして、その聖別の儀は4日後。母や祖母がピリピリするのも分かるけど、これじゃあセリアがかわいそうだ。


その後、母や祖母が声をかけても顔を出してくれなくて。

それだけじゃなくて、お昼も食べたくないとベッドから出てこようとしないから、母も祖母も侍女たちもお手上げだった。

そして、何とかしてくれと乞われて僕は軽食と共にセリアの部屋に送り出されたのは、ご愛敬かな?


セリアの居間から寝室の扉を叩いたけど応答はなかった。僕は扉を少し開けてセリアに声を掛けたんだ。


「セリア、寝てるの」

「・・・お兄様?」


おっ、返事をしてくれた。もう少し扉を開けてセリアのベッドを見たら、ひかれていた天蓋を持ち上げてセリアが顔を出したところだった。僕は笑いかけると部屋の中に入っていいか聞いたんだ。セリアが頷いたので扉を閉めてベッドのそばに行って、サイドテーブルにトレイを置いた。


「お腹すいてないかな、セリア」


セリアは僕の側の天蓋を開けて紐で縛ってからベッドの上に座りこんだ。


「少しすきました」

「じゃあ、一緒に食べない」

「お兄様も食べてないのですか」

「うん。まだなんだ」

「じゃあ、よろしければご一緒に・・・」


言いかけたところでセリアのお腹がク~と可愛く鳴いた。セリアは真っ赤になって布団の中に潜ろうとしたから、僕はセリアを抱きしめて布団の中に入れないようにしたんだ。


「離してください、お兄様」

「駄目だよ、セリア。ちゃんと食べないと。お腹が鳴るのは元気になってきた証拠だよ」


セリアは抵抗をやめておとなしくなったから、僕はセリアを離してあげることにしたんだ。トレイを持ってソファーの方に移動したらセリアもおとなしくついてきた。僕は居間に置いてあるティーセットを持ってくると、セリアのカップに紅茶を注いだ。それを見てセリアは首をかしげている。


「あの、侍女の方は?」

「うん。遠慮してもらったよ。セリアと2人になりたかったから」


ニッコリ笑顔で言ったら、あれ? なんで赤い顔をしているんだろう。

それから二人で焼いた鳥肉を挟んだパンを食べたんだ。


セリアは結局パンを1切れしか食べれなかった。うん。きっと鳥肉が悪かったんだな。

トレイを居間に片付けたら、果物を切ったものが置いてあった。セリアの好きなリンゴももちろん皮を剥いてある。他にブドウが2種類と、カキとオレンジとナシも一口大に切ってあった。それぞれ4切れずつ。ブドウは3つぶずつがお皿に乗っていた。

それを持って部屋に戻るとセリアの目が輝いたんだ。本当に果物が好きなんだな。

セリアの目の前に置いたら早速フォークを掴んでリンゴに突き刺して食べ始めたんだ。

そのうれしそうな顔を見ていると自然と僕も微笑んでしまうんだ。


果物を嬉しそうに食べるから、僕はまたブドウの皮を剥こうとしたら。


「お兄様、自分で剥けますよ」

「僕が剥いてあげたいんだけど」

「いや、自分でします」

「・・・そうか、僕が剥いたブドウは食べたくないんだ」

「ッ! た、食べます。お兄様」


僕が殊更にしょんぼりしたように見せたら、セリアがあわてたように言ってきた。

僕はニッコリ笑ってブドウを手に取ったら。


「あっ」


と、セリアが声をあげたんだ。


「なぁ~に、セリア?」

「えーと、そのマスカ・・緑の方が食べてみたいです」


マスカ・・? なんと言いかけたのかな?

緑色のブドウを取り皮を剥いてスプーンに乗せてセリアに渡す。

セリアは少し大きいそれを口いっぱいに頬張って・・・目が輝いた。どうやらお気に召したらしい。

僕は紫のブドウの皮を剥きながらセリアの様子を見ていた。


「マスカットだわ」


セリアが小さな声でつぶやいた。


「何か言った、セリア」

「あっ、いいえ」


慌てて否定したけど、僕の耳には聞こえたよ。あとで緑色のブドウの名前を調べることと、セリアが気に入ったことを伝えておかないとな、と、考えながら剥いたブドウをスプーンに乗せてセリアに渡した。

これもおいしそうに食べたけど、これ以上は剥かないほうがいいかな。

セリアは全部の種類を1つずつ食べてフォークを置いた。もう少し食べたそうにしていたけどやめてしまったんだ。


セリアがこれも片付けて欲しいというから、居間に置いてきた。

代わりに本を持って部屋に入ると、セリアはベッドに戻っていた。


「眠くなったの、セリア」

「・・・安静にしてろと言われたから・・・」


ボソッと不満そうに言いながらも、素直に従っているセリアが可愛くてつい声を出して笑ったら、セリアから枕が飛んできた。

思わず呆気にとられたけど、枕を投げ返したらセリアは上手くつかんでいた。


「フフッ、ごめんね。セリア」

「知りません」


プイッと横を向いたけど、僕が持っている本が気になるのか聞いてきた。


「お兄様、それは?」

「セリアに読んであげようとおもって持ってきたんだ」

「どんなお話しですか」

「これはねえ・・・」


そうして、1時間ほど本を読んだんだ。本の内容は最近はやりの冒険物。女の子のセリアにこれは無いかなとおもったけど、女の子向きの恋愛小説なんて、とてもじゃないけど読めないからこれで許してね。

セリアはこの話を楽しそうに聴いてくれた。主人公が廃墟に向かいアンデッドという魔物と戦うところなんて手を握りしめていたし、最後に主人公が魔物を倒し朝の光の中、仲間に手を差し出すシーンでは、ホッと息を吐き出していた。興奮して頬が蒸気して赤く染まっている。目は潤んで・・・。


うん。セリアはかわいい。すっごく可愛いよ。


そこまでで、いったん僕はセリアの部屋を出ることにした。話していて喉が渇いたのと、まあ、そのね。


セリアの部屋に戻るとうれしそうな顔で迎えてくれた。

新しくいれた紅茶を渡して飲んだあと、何をしようかと顔を見合わせた。


「オリガミをするかい」

「あれは固い台がないと・・・」


確かにベッドの上じゃね。


「本を読もうか?」

「・・・いえ、もういいです」


やはり面白くても2冊はいらないか。

じゃあ、どうしようかなと考えこんだら、セリアが訊いてきた。


「あの、毛糸ってありませんか」

「ケイト?」

「なければ細い紐でこの幅の2倍くらいの長さのものが欲しいのですけど」


セリアは両手を肩の幅より広めに広げた。


「ちょっと待っていて。訊いてくるから」


僕は居間に行って母に毛糸のことを訊いてみた。侍女が毛糸の束を持ってきたから、それを持ってセリアの部屋に戻った。セリアは毛糸をいい長さにして「糸を切りたいのですけど」と言った。

僕はハサミ(セリアが作った)を取ってきた。

セリアは何度も往復させたのを済まなそうにしていたけど、セリアの笑顔が見れるならこれくらい何でもないさ。


セリアは毛糸を1メートルくらいにして、それを2本切った。1本を僕に渡してきたので一緒にやろうということだろう。毛糸の端と端を持って一つに結んで・・・。

えっ、準備はこれで終わりなの。


セリアは自分の糸を左手の指にかけると言った。


「あやとりはこの輪っかになった糸で遊ぶものです。糸を指にかけていろいろな形を作ります。まずは最初のかまえですね」


そう言って両手の親指と小指に糸をかけた。次に右の中指で、左手の親指と小指にかかる糸をとった。続けて左の中指で、右手の親指と小指にかかる糸をとった。


「これが基本のかまえです。これから橋を作ります」


それからのセリアの手の動きは目で追うのがやっとだった。親指で糸を取ったとおもったら、小指の糸をはずし今度は小指で糸を取り、中指を糸の中に入れて親指を外して、ひっくリ返るように手首を動かしたら「橋」は出来ていた。


「えーと、ごめん。どうやったのかよくわからなかった」

「はい。一度見ただけではできないと思います。一緒にやってみましょう」


そうして、セリアに教えてもらいながら糸を取るんだけど・・・指が思うように動いてくれなくて、取るはずの糸じゃないものを取ったり、離しちゃいけない糸を離したり、何回か失敗をした。その度にセリアは丁寧に教えてくれた。


気が付くと額がくっつきそうなくらいまでセリアは近づいて、僕の手元を覗き込んでいた。

セリアってまつ毛が長かったんだ。


つい、セリアに見とれて手の動きが止まってしまった。僕の動きが止まったことに気が付いてセリアが僕の方を見てきた。瞬間、僕たちは見つめ合っていた。

セリアが慌てたように僕から離れて顔を赤くした。


「すみません、お兄様。熱中するあまり近づきすぎましたわ」

「あ~、うん。こちらこそごめん。セリアのまつ毛が長いなって見とれてた」

「見とれ・・・」


素直に思ったことを口にしたらセリアはまた、真っ赤になってしまった。

しまったと思ったけど、まあ、いいか。セリアのかわいい反応も見れたし。


「じゃあ、セリア。僕一人でやってみるからみててね」


まずは基本のかまえ。次に・・取って、外して、取って、入れて、外して、引っくり返すように回して。


「出来た!」

「本当です。出来てます、お兄様」


セリアが出来上がった「橋」を見て喜んでいる。


「他にはどんなのがあるの」

「では今度は基本のかまえを変えて」


左手の親指と人差し指に糸をかけ、間の糸を下に引いた。ある程度まで糸を引くと糸を持ち上げて、親指と人差し指に糸をかけた。かけたところの中に下から右手の親指と人差し指を入れ引っ張った。


「これが川です」

「・・・さっきより簡単だよね」

「・・・はい」


セリアがまた顔を赤くしている。


「すみません。思い出したのがこの順番なので・・・」


申し訳なさそうに言うセリアがかわいくて頭に手をのせると軽く撫ぜた。セリアの髪はサラサラのツルツルだから触り心地がいいんだよね。なんでもっと前から撫ぜてあげなかったんだろう。

ああ、前のセリアは嫌がったんだった。


「これからどう変化するのかな」


やさしく話しかけたらセリアが俯いていた顔をあげ嬉しそうに僕をみてきた。


「えーと、まずは・・・」


それから、「竹のふし」「そり」「松葉」「かご」「矢」「箒」「やぐら」を教えてくれた。さっきのは何だったんだというくらいに簡単だった。もしかしてそれを狙ったとか。

セリアを見ると僕が作り上げるたびに嬉しそうにしていた。

うん。違うな。そんな計算が出来る子じゃないよね、セリアは。


それから、最初の基本のかまえから変化するものも教えてくれたんだ。それに合わせてセリアが小さな声で歌をうたった。


「お山の向こうに行きましょう~、まずはひと山越えましょか~、越えたら次のふた山へ~、またまたお山を越えまして~、最後にお山を越えたなら~、よ山が仲良く並んでる~」


歌が終わった時には糸に4つの山が出来ていた。


「これは歌付きなんだね」

「・・・違うと思います。彼女が教えてもらった時に祖母が歌っていたのです」

「彼女?・・・ああ、夢で見たという」

「はい。彼女が小さい頃・・・私くらいの時に教えてもらったものです。ですが、お友達は誰も知らなかったのです。歌のことは」

「そうか~。じゃあ、その彼女は幸せ者だね。そんな素敵な歌を歌ってくれる祖母がいたんだから」

「そう・・・ですね」


セリアは何か歯切れ悪かったけど、僕が教えてと言ったらすぐに手を取って教えてくれたんだ。


それから夕方の薄暗くなるまで夢中になって僕たちは「アヤトリ」をしたんだ。

面白かったのは「手品アヤトリ」。指にかけた糸がスルリと取れる様は快感と呼べるだろう。


部屋の灯りをつけて僕たちは「アヤトリ」を誰にも話さないと約束をした。


「うふふ。2人の秘密ですね」


と笑うセリアがとってもかわいかった。


夜に皆からセリアと何をしていたのか訊かれたけど、本を読んであげたことと話しをしていただけと言ったんだ。毛糸をどうしたのか訊かれたけど、うん、もちろん対策はしたよ。セリアがぬいぐるみに使えないかって言って作ろうとしたから止めたんだって。少し疑われたけど、夕食の間に侍女がセリアのベッドを整えた時に毛糸の切れ端がいくつも出てきたと言ってくれたからまあ、大丈夫でしょう。


ふふっ。セリアとの約束は僕が「手品アヤトリ」をスムーズにできるようになったら、2人でやってみんなを驚かそうというもの。

ふふふっ。楽しみだな~。



りんさん、リクエストをありがとうございました。

ご期待に添う内容になっているといいのですが・・・。


前回の番外編のプリン話の2日前です。

だから、まだ「アラクラーダ様の神子」なんですよ。

神殿編の前ですからね。


この話を思いついたのは、セリアちゃんとミルフォードが仲良く遊んでいるところというリクエストをもらった時に、プリンの話を書いていまして、この2日前はミルフォードが居てくれたから、退屈しなかったと、かいたんだよなぁ~。・・・ベッドから出るなと言われて何で遊んだんだろう?

から、思いつきました。


ちょっと書くのに苦労したんですよ。最初はミルに好きに語らせたら・・・お~い、状況説明はいらないから。 になり、「セリアちゃんを甘やかしなさい!」 に、させたらこうなりました。


えーと、甘いですよね。べたべたに甘やかしてますよね。

甘やかしが足りなかったら・・・まだ10歳なんです。


ということで!

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