話し合い
妻に電話を架けた。
「これから先のことを決めたいから家に帰る。」
「何を決めるのよ。」
「離婚について、だ。」
「離婚? 出来るわけないわよ。」
「話し合いの結果如何だな。兎に角、土曜日に帰るから!」
……と、一方的に言いたいことだけ言って電話を切った。
いつも妻がしていることをしただけだ。
土曜日、母をデイサービスにお願いして預けた。
久し振りの我が家のはずだけれども、誰か別の人の家のように感じた。
「貴方、急に何言ってるのよ。
子どもはまだ大学生なのよ。 学費が掛かるの。
それなのに、無責任だわ!」
「学費は払うつもりだよ。」
「学費だけ?」
「うん。親の義務だからね。
母の介護をしているから、これ以上の収入のUPは無理。
なのに、お前は収入UPしろ!と言ってきた。
出来ないことを求められて」
「被害者面しないでよね!
貴方が悪いんじゃないの!!」
「何が悪かった?」
「全てよ! もう同じ部屋で同じ空気を吸いたくないのよ。」
「そのきっかけは何なんだ?」
「きっかけ……私の親よりも自分の親を優先したくせに……!」
「いつの話だ?」
「結婚当初から、ずっとよ!」
「結婚当初?」
「そうよ。私の父の誕生日だったのに、貴方、来なかったわ!
そっちのお父さんが具合悪いとかで………。」
「父さんが入院した時のことか?!」
「ええ、そうよ。」
「……お前、親の入院と誕生日?
そんなの比べるのか?」
「貴方は常に自分の親、優先だったのよ!」
「じゃあ、お前の親が入院した時に、俺が自分の親の誕生日にお前に行くことを
強要したら、お前、どう思うんだ!」
「……そ…それは……。」
「お二人さん! 子どもの意見、言うね。」
「貴方は黙ってなさい!」
「いや、言いなさい。お前にも関係する話だから……親の離婚は…。」
「じゃあ、遠慮なく言うね。 離婚したら? もうそれでいいじゃない?」
「何、言ってるの!」
「だって、家が暗くて嫌だよ。お母さんはお父さんを無視してるし……
何年続いてると思ってるの?
俺は、お父さんが学費さえ払ってくれたら、それでいいから!
後は、別々でいいんじゃない?」
「貴方……。」
「お母さん、それから俺、出て行くからね。」
「出て行くって、どこへ行くのよ。」
「俺、就職も内定してるし、残りの学費だけ払ってもらえればいいし、
家を出て彼女と同棲するから!」
「同棲って……!」
「そうか…。いいんじゃないか!」
「貴方、無責任に!!」
「もう、幼い子どもじゃないんだよ。就職も決まってる大人なんだ。」
「ありがとう。お父さん。
と、いう訳で、離婚に俺は賛成です。
お父さん、学費だけ頼むわ。」
「おう! 任せとけ!」
「じゃあ、離婚で話を進めるからな。」
「貴方……。」
「後は弁護士さんを通して!」
馬鹿げている!と思った。
そんなことで、拗らせたんだ!と、思うと情けなかった。
妻の不満は、本当にあれだけだったのかは分からないが、もう聞きたくもなかった。
あとは、弁護士に頼むことにして、俺は会社と母の介護だけに心を配ろうと思った。