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ボクと逃げよう

「み、こと……?」


マリアが持っていたはずの銃はいつの間にか弥士の手の中にあった。


両腕でしっかりと抱きしめられている為、弥士の体温が伝わって来る。


「ごめん、ボクで」


「えっ……?」


「君がその銃を鳴らしたの、もしかしたら兄さんが来るかもって希望からでしょ?


 でも、ボクが来た。ごめん。」


「なんで謝るの……」


「全部見てた。兄さんとのやり取り。


 兄さんが君の人生を滅茶苦茶にしたのに、簡単に潰すような事言ってて、


 ボク、居ても立っても居られなくなった。


 これ、兄さんに叩かれたんだよね、頬、腫れてる。」


弥士は左手で瀬奈に叩かれた頬を包む。


「っ、」


弥士はそのまま、マリアの頬にそっと口付けを落とした。


「弥士……」


「マリア、ううん、優美。ボクと逃げよう。


 ボクが君を守るから、兄さんの傍から離れよう」


双子に消された筈の、本当の名前。


その名前で呼ばれたのは久しぶりだった。


「逃げる、って」


「ゆっくり話したい事がある。優美に伝えたい事。


 だから、ボクと一緒に来てほしい。」


片方の腕で優美を抱きながら、もう片方の手を優美に向けて差し出す弥士。


優美は今混乱していた。


自分の知っている弥士は、常に兄である瀬奈の後ろで優美をからかったり


瀬奈の言う事だけを聞く、言ってみれば忠犬のような存在だった。


子どもっぽい所が彼の特徴でもあった。


だが今目の前に居る弥士は、瀬奈にも似た、彼よりも安心感が感じられた。


いつもならお互いにからかい合う関係だが、


優美は弥士に自分を預けても良いと真剣に感じた。


優美は差し出された弥士の手に自分の手を重ねた。


「悔しい。貴方が眩しく見える。」


「そりゃボクは兄さんとは違って光属性だもん」


「自分で言わないの。」


ポンと弥士の頭を優しく叩くと、目を閉じた笑顔を見せる弥士。


「抱えてもいい?」


「うん」


弥士は優美の体を優しく抱えると、光の速さで屋敷を飛び出した。


気が付くと、そこは古き良き雰囲気のある旅館の目の前に居た。


弥士は抱えていた優美をゆっくり降ろしてその旅館の戸を開けた。


「さっちゃーーーん!!」


深夜の、お客さんも泊っているであろう旅館でとんでもない大声を出す弥士の口を咄嗟に抑える優美。


「バカ、迷惑になるでしょ!!」


「あら、弥士くん!


 それに、優美ちゃんかしら?」


玄関先でいつものように言い合っていると、おっとりとした女性が現れた。


「どうして、私の名前……」


「さっちゃん、久しぶり」


「久しぶり。玄関でもなんだし、あがって頂戴」


促されるまま、旅館の中へと進んでいく。


広い客間へと案内されると、さっちゃんと呼ばれるその女性は


温かいお茶と可愛らしいお茶菓子を2人に出した。


「ありがとうございます」


優美がお礼を言ってお茶を口にすると、女性は口を開いた。


「優美ちゃん、初めまして。


 貴方の事は弥士くんから聞いていたわ。


 私は海下五月。この旅館の女将をしています。


 弥士くんには昔命を助けてもらって、そこからの付き合いなの。


 よくこの旅館のお手伝いもしてくれてて…、」


「どうして、私の事を……、」


「弥士くんがね、ある時珍しく私に我儘を聞いて欲しいって言って来たの。


 優美って女の子に何かあった時、自分が助けたい。


 その時、さっちゃんに頼っても良いかなって。


 私、凄く嬉しくて。


 弥士くんが私を頼ってくれる事もそうだし、


 何より弥士くんに守りたいと思う女の子が出来たなんてもう感激で………」


ノンストップで赤裸々に話す五月に恥ずかしくなり、顔を赤らめた弥士が大声を出す。


「そんな事まで言えなんて言ってないよ!」


「ふふ」


2人が生み出す和やかな雰囲気に自然と強張っていた体から力が抜ける。


「五月さんも弥士も仲が良いんですね」


「優美ちゃんも、さっちゃんで良いわよ」


「え、でも、会ったばかりですし………」


「気にしないで!


 これから貴方と過ごすんだもの。気楽にしてくれていいわよ!」


五月の温かい雰囲気に巻き込まれ、優美は心が軽くなった。


「はい、さっちゃん。


 よろしくお願いします」


「うん!


 そうだ、優美ちゃんのお着換え用意するわね、ちょっと待ってて!」


「はい」


客間から五月が出て行く。


優美は弥士の方を見る。


弥士もまた、優美の方を見ていた。


「弥士、ありがとうね」


直接お礼を言われた事が照れ臭かったのか、弥士はすぐに目を逸らした。


「何、改まって……」


優美は体勢を変えて縮まるように三角座りをした。


「私ね、あの時死のうとした。」


突然の告白に、弥士は再び優美の方を見た。


「瀬奈に出て行けって言われた時、頭が真っ白になった。


 瀬奈が私を意味不明な事に巻き込んだのに捨てられて、


 その時銃を持っている事を思い出して、目を閉じると香帆の笑顔が見えて


 また会いたくなったの。話も聞いてくれずに、苦しい思いをするくらいなら


 死んであの世で香帆に会いたいって。


 そしたら弥士が助けに来てくれた。


 びっくりしたけど、嬉しかった。


 あの時抱き締めてくれて、守るって言ってくれて、ありがとう」


真っすぐ、どこか寂しそうに笑う優美の手を、弥士はそっと握った。

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