再び来る絶望と温もり
「瀬奈?」
マリアが屋敷の正門から中に入ると、そこには瀬奈の姿があった。
瀬奈の視線は冷たかった。
「貴方、顔に傷が、
血を拭かないと……、」
マリアは瀬奈の頬にある傷に気付き、コートからハンカチを取り出して血を拭おうとする。
パチッ
だが、瀬奈はマリアの手を振り払う。
マリアが握っていたハンカチは地面へと落ちた。
「えっ……」
何が起こったのか理解できないマリアはその場で静止する。
瀬奈はそんなマリアの腕を掴み直し、掴んだ方の腕を高く持ち上げる。
「っ、瀬奈………っ」
引き上げられるような体制になり、爪先が地面から離れそうになる。
身体を支えるのが難しく、瀬奈に体重を掛けているようでマリアは少し気恥ずかしかった。
だが、そんな気持ちも瀬奈の一言で一瞬にして消えた。
「何処に行っていましたか?」
「え、」
「私は部屋で待っていろ、と言いましたよね
その私との約束を破って何処に行っていたのですか?
夜も遅い事は分かっていますよね?
私と離れていては何かあった時すぐに助けられない事くらい分かりますよね?
答えられるでしょう?」
質問攻めをしながらマリアの腕を掴む手に力が入る。
爪は手首に食い込んで今にも皮膚を破ってしまいそうだった。
「い、たいっ……瀬奈、はな、して……っ」
「質問している私を無視して自身の要求を優先するんですか?
どれだけ私を困らせて、どれだけ私を怒らせるんですか………」
痛みに耐えられず、目に涙を浮かべるマリア。
そんな様子のマリアを見ても瀬奈は手を離そうとしなかった。
「貴方、どうして稲荷杏のメモを捨てなかったのですか?」
「っ、私の部屋に入ったの………?」
「貴方が返事をしないから、部屋に居なかったからでしょう!」
静まった屋敷の庭園まで響く瀬奈の怒鳴り声。
「そ、れは………」
「私に話せない理由でもあるのですか?
私に隠れてあの男と会っていたのでしょう??
どうして!?
関わるなってあれ程言ったのにっ!!!!」
瀬奈の甲高い叫び声にも近い声が、マリアの鼓膜に響く。
瀬奈の手が緩み、2人は地面へと傾れこむ。
「違うの、せ、なっ、理由があったの、ねぇ、聞いて……私の話を...........!」
マリアはゆっくりと瀬奈に近付き両肩に手を置き落ち着かせようとする。
「私の質問にすぐに答えられない貴方の話なんて聞きたくありません!!!」
バンッ
マリアの頬に痛みが走った。
瀬奈がマリアの頬を叩いたのだ。
「せ、な」
痛みの続く頬を手で押さえながら瀬奈の方を見る。
「出て行って下さい」
「え、?」
瀬奈の口から、信じられない言葉が飛び出す。
「聞こえませんでしたか?
ここから出て行ってください。」
瀬奈はそう言うと立ち上がり屋敷へと戻る。
屋敷の前で座り込むマリア。
「っ………なんでっ………」
大粒の涙がとめどなく流れる。
床に落ちたハンカチを拾い拭う気力も無かった。
自分をこんな事に巻き込んできた張本人から見捨てられた、
1度失った住処を再び失った絶望は計り知れなかった。
ふと、服の重みに意識が向いた。
瀬奈から渡された銃。
ーーこれは貴方が持っていてください。
何かあった時、この銃の引き金を引いて、貴方自身を守って下さい。
その銃の音が聞こえた時、私は何処にいても貴方の元へ駆けつけます。
その合図として、これを使って下さい。
今、ここでこの銃を鳴らせば、瀬奈は戻ってくるのだろうか。
もし、この銃で自身を撃ってみれば、今の状況は変わるのだろうか。
マリアにはこれしか方法が分からなかった。
ゆっくりとこめかみに銃口を当てる。
手は震え銃はカチャカチャと音を鳴らす。
もし死んでしまっても、もう悔いはないだろう。
あの時自分は瀬奈と弥士に殺される運命だったのだ。
それに逆らって生きた事が罪だったのかもしれない。
目を閉じると、そこには香帆の笑顔が浮かび上がった。
「会いたい、会いたいよぉ………香帆」
大好きだった親友を思うと、更に涙が溢れてくる。
あの時、香帆が銀色の双子の夢を見ていなければ、
マリアーーーーー優美の夢にも双子が現れていなければ、
知らない所でオプファーに選ばれていなければ。
ーー優美はしあわせになりたくないの?
そんなもの、信じたって裏切られるだけよ
「私には香帆だけで良かったのに………、わたしはっ、」
香帆の元に行きたい、香帆に会いたい、1人で居たくない。
次々に重なる苦の思いから、銃を持つ手に力が入る
バンッ
耳元で鳴った大きな銃声に頭痛がする。
だが、頭を弾丸で貫かれた痛みは感じなかった。
少し離れた所に、弾丸が落ちているのが見える。
それが見えた瞬間、自分の体に纏っている体温に気が付いた。
「み、こと……?」




