怒り
コンコン
「マリア、私です。
シャワーを終えました。」
シャワールームからマリアの部屋へとやって来た瀬奈はドアをノックする。
声も掛けるが、返答は無い。
前にもこんな事があったな、と少しデジャブを感じた。
「マリア?入りますよ」
ドアをゆっくりと開け、マリアの部屋へと歩みを進める。
開きっぱなしの窓から入り込む風にカーテンが揺れている。
月の光に照らされたベッドにマリアの姿は無い。
「どこかに行ったのでしょうか?」
部屋中を見渡しても彼女の姿が無く、若干の焦りを覚える。
(開いたままの窓に、いつもドレッサーに掛かっているはずのコートが無い)
マリアの部屋の異変に少しずつ気付いていく瀬奈。
窓を閉めようとベッドの側に進んだ時、サイドテーブルに視線を下ろした。
「ん?」
置かれていたメモを持ち上げる。
「これ……、」
それは稲荷杏が以前屋敷に来た時にマリアに渡していたメモだった。
「捨てろって言ったのに………」
瀬奈は怒りに震えた。
稲荷とマリアを少しでも関わらせたく無かったから、あの時メモを捨てろ、関わるなと
マリアにしつこく伝えたのに、そのメモを残していたことに相当の怒りを感じた。
「じゃあ今マリアがここに居ないのは、こいつに会いに行ったって事ですよね……?」
瀬奈は持っていたメモを握り潰す。
同時に瀬奈の中で、影がその怒りを鎮めようと無理やり瀬奈の中から出ようとするが
瀬奈はそれを許さず影は外に出る事が出来なかった。
代わりに瀬奈に声を掛けようとするが、声さえも出せない状態にされた。
「絶対に許さない………、稲荷も、マリアも。」
怒りに身を任せてマリアの部屋のベッドを殴る。
またその側にあった複雑な電飾ライトを手に取るとそのまま床へと投げつける。
それらは大きな音と共に簡単に割れてしまう。
飛び散った破片の一部が瀬奈の頬に傷を作る。
だが瀬奈には痛みすら感じなかった。
頬に浮かぶ血の筋を残したままマリアの部屋を後にする。
「にい、さん………?」
部屋を出た所に、大きな音に起こされ目が覚めた弥士の姿があった。
「退きなさい」
いつもと違う声色の兄に、おかしいと異変を感じた弥士は目が覚めて咄嗟に瀬奈の腕を掴む。
「何が、あったの?」
「私の言葉が理解できませんでしたか?退きなさい、と言ったんですよ。」
「退くよ、退くけど、何があったかくらい話してくれたって………!」
「貴方に私の何が分かるんですか」
「っ………」
今までに掛けられた事の無い言葉を捨てるような強い口調で投げかけられ、言葉を返す事が出来ない。
掴んでいた腕は無理矢理剝がされて瀬奈はどこかへ向かおうとする。
「ま、待って……!」
必死に止めようと声を掛けるが、瀬奈には聞こえていないようでそのまま姿が見えなくなった。
知らない兄の一面を見た弥士は足の力が抜けていくのを感じる。
「兄さん、何で………怖いよ………」
震える身体を持ち上げて自分の部屋へと戻ろうとする。
その時、チラリとマリアの部屋に視線を向けると、自然に歩みが止まる。
割れた電飾が床に散らばり、乱れたベッドは先程弥士自身が対峙した兄にすぐ結びついた。
「これ、兄さんが………?」
マリアに常に優しく接していた瀬奈がこんな事する訳無いと信じたい自分と、
マリアの部屋からいつもと様子が違う瀬奈が出て来た事実は反していた。
部屋を見渡してもそうなった理由が分からなかった。
弥士は瀬奈の部屋の前まで行き、理由を聞く為に部屋の前で待つ事にした。
瀬奈は屋敷の玄関を出て、正門まで向かおうとしていた。
だが同時に、何処かからマリアが帰って来た。
「瀬奈?」
「………マリア」




