番外編 新しい家族
私とカインが晴れて婚約者となってしばらくした、ある晴れた休日。カインは私に少し遠出をしないかと持ちかけた。
「明日は天気も良さそうだし、君を連れていきたい場所があるんだ。見せたいものがあってさ」
何かを企んでいるようないたずらっ子のような様子に、思わず首を傾げる。
「もちろんよ! でも一体どこに行くの?」
けれどカインは楽しげに笑うだけで教えてはくれず、仕方なくワクワクにそわそわしながら屋敷を出発した私だったのだけれど――。
キャンキャンキャンキャンッ……!! ……ウワンッ!!
そこは、なんとものんびりとした自然に囲まれた森の中にあった。牧場のような柵に囲まれた草地に建つその建物のドアを開けてみれば、私の視界に軽快に動き回る毛玉が飛び込んできた。その愛らしさに思わず歓声を上げる。
「うわぁーっ!! 子犬がいっぱい!! いちにぃ、さんしぃ……。まぁ! 五匹もいるわっ!!」
興奮して目を輝かせる私に、カインが楽しげに笑った。
「俺の昔の相棒の血を引く子犬たちを、どうしても君に会わせてやりたくてさ」
「相棒……?」
首を傾げ、そしてはっと思い至る。もしやこの子犬たちは――。
あんぐりと口を開いて、カインを見つめれば。
「あぁ! ほら、こいつなんかよく似てると思わないか? ペトラに」
カインが指さしたその子犬に目をやれば、確かに毛色といい顔つきといいそっくりだ。他の子たちにもどことなく昔の私、ペトラにどことなく似ている気がする。
「私に見せたいものって、ペトラの家族のことだったのね! まさか今になって昔の私の家族に再会できるなんて思わなかったわ!!」
隊犬ペトラとして私が転生したのが、今からざっと二十年前。ペトラはまだ若くして死んでしまったけど、こうして同じ血のつながった家族と時を経て――というか前世を経て? 会えるなんて不思議な気分だ。
「おいでー……。ほら怖くない。いい子ねー!」
ペロペロとピンクのかわいらしい舌で手の甲を必死になめてくるその様が、なんともかわいらしい。どの子も健康そうで、むちむちの体つきがたまらない。
「子犬が生まれたって昔の仲間から聞いてさ。どうしても君に会わせたくなったんだ。ペトラは俺たちにとって特別な存在だろ?」
そう。ペトラは前世の私であり、カインにとっては忘れられない相棒だった。
「できることなら、戦場じゃなくもっときれいな景色をたくさん見せてやりたかったし、うまいものも食べさせてやりたかったからな。散歩に連れてく約束も、果たせないままだったし」
カインにとって、心が殺伐とする戦場でともにいたペトラの存在は救いだったらしい。心が折れそうになるたびにあの小さな体でどれだけ心を癒やしてくれたか分からないと。
「ふふっ! 私は幸せだったよ? カインと一緒なら、どんな姿でも。それにあの老夫婦もすごく大事にしてくれたもの。よくカインのことをふたりで嬉しそうに話してた。いつまた会いにきてくれるだろうって、いつも心待ちにして」
「そうか……。なんだか不思議だな。君はまだ十七才なのに、俺の人生のそこかしこにいるみたいだ。もうずいぶん長いこと一緒にいる気がするよ」
そう言ってカインは笑った。
その笑顔が優しくてあたたかくて、胸がきゅんとなる。
「これからもずっと一緒よ。だって私たちまもなく結婚するんだもの!」
「あぁ、そうだな。大切に守るよ。君のことも、これからの未来も」
「もちろん私もよ。ずっとカインのそばにいて、未来もそのまたずっと先の未来も大切にするわ」
ワンワンワンワンッ!!
その時だった。幸せをかみ締めながらしみじみと見つめ合う私たちの間に、割り込むようにちょこんと小さな薄茶色のもふもふが入り込んだ。
「ん??」
「えっ??」
見れば、ペトラによく似たもふもふな顔がこちらをじっと見上げていた。自分も仲間に入れろと言わんばかりのその表情に、思わず顔を見合わせぷっと吹き出す。
「ふふふふふっ!! かっわいいっ!!」
「くくくくっ!! だなっ!!」
良く見ればその姿はどことなくペトラを彷彿とさせる。少しだけ目の色が違うだけで、そのちょこんと垂れた耳もちょっととぼけた顔つきも。
「なぁ、この子何か縁を感じないか?」
「そうねっ!! 私もそう思う!!」
「そうか! なら……」
それから少しして、ノートス家に立派な手製の犬小屋とのびのびと駆け回れる広場が完成した。そして。
「さぁっ!! ペトラ!! おいでっ!!」
「ルナもこっちだ! 競争だぞっ!!」
ノートス家の庭を元気よく駆け回る、小さなもふもふたち。前世の私によく似た一匹はペトラ、もう一匹の体の半分が白い毛に覆われた子をルナと名付けた。
ペトラはとんでもないわんぱくな男の子で、暇さえあれば外を元気に駆け回っている。の割に寂しがり屋で、ルナの姿が少しでも見えないと落ち着かなくなる辺りがとてもかわいい。
そしてルナは、パッと見は真っ白で清楚な美少女なんだけれど、性格は――。
「あっ!! こらっ!! ルナったら、勝手に外へ飛び出しちゃだめよっ!!」
「やれやれ……。ルナはとんだお転婆だな。どこへでも駆け出していくんたから……」
ぜいぜいと息を切らしながら、やっとのことでルナの白い体をつかまえる。子犬とはいえ、その体力はとんでもない。しかもそれが二匹ともなると、毎日が大騒ぎだ。
「柵をもっと高く丈夫なものにしなきゃだめね! ルナったら気になるものを見つけるとすぐに飛んでいっちゃうんだもの!」
思わず苦笑した私に、カインがにやりと笑う。
「まるで君みたいだな。君が転生したみたいだ」
「ええっ!? そんなぁ!!」
心外だ、と怒りたいところだけれど、確かに似ている気もする。
「私にっていうより、もしかしてらルナに似たのかもよ?」
「うーん……。ルナはもう少し大人しそうだった気もするが。でもまぁそれは病気のせいだったかもな。案外君と同じだったのかもな。くくっ!!」
「そうかもね!! なんたってルナはもうひとりの私だもの!!」
やっとつかまえたルナとペトラを抱き上げ頬ずりすれば、そのあたたかさとふわふわな感触に笑みがこぼれる。
「ふたりとも、今世はうんと幸せになるのよ! いっぱい走って遊んで、毎日精一杯楽しんで甘えてね!! 大好きよ!!」
今度こそルナもペトラも、うんと長生きをしておいしいものをたくさん食べて、いっぱい走り回ってくれるといい。
「ねっ!! ペトラ! ルナ!!」
その声に、二匹は「ワンッ!!」と仲良く同時に返事をしたのだった。




