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生まれ変わり令嬢は四度、恋をする  作者: あゆみノワ@書籍『完全別居〜』アイリスNEO
2章 ラフィニア・ノートスという少女

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8 

 

 ラフィニアがまもなく十五才になろうとしていた、ある日のこと。


「……ん? カイン、それラフィニアにと買った髪飾りじゃないのか? てっきりもう渡したんだと思っていたが……」


 廊下でぼんやりと立ち尽くしていると、不意にべーゼルに声をかけられカインははっと顔を上げた。


「えっ⁉ あっ……と、えぇ。まぁ……そうなん、ですけど……」


 手の中に握りしめていた小さな包みを見下ろし、小さく嘆息する。


 さぁ屋敷に戻ろうと考えておみやげを選びながら、ふと思い出したのだ。そう言えばラフィニアに以前釣り道具セットをあげた時、微妙な反応を返されたな、と。前々から欲しがっていたものだったしてっきり大喜びするものと思っていたのに反応が鈍いというか、しょんぼりとしていたように見えて。

 それを思い出して、十五才になったラフィニアに今度は少し女の子らしいものをと選んではみたのだが――。


 手のひらでキラキラと光る髪飾りをじっと見つめる。色とりどりの石がはめ込まれた虹色に光るきれいな品だ。これを見た時、ラフィニアみたいだなと思った。雨上がりの太陽に照らされた木の葉や川や、大地のようだって。まるでこの世界で生きる命の輝きを思い切り詰め込んだみたで、きれいだな、と。

 石はどれも大したものじゃない。一応は宝石らしいがどれも小粒で傷があったりそんなに質も良くなかったり、俺が給料で買ってやれる程度のものなんだからそう高価なわけもなく。でも薄緑や淡い赤、黄色、紫と色々な色を散りばめたそれは、ラフィニアが明るく笑った顔を想像させた。


 が、いざ屋敷へと戻ってきて渡そうとして、躊躇したのだ。一体何を思って自分がこれを選んだのか、ラフィニアに贈ろうと思ったのかにふと気がついて――。


 いつまでもラフィニアの部屋をノックしない俺に、ベーゼルがもう一度声をかける。


「……渡さないのか? せっかく買ったのに」

「……」


 ベーゼルの問いかけに、なんだかいたたまれない感情がわき出て黙り込んだ。

 そんなカインにベーゼルはしばしなんともいえない複雑そうな視線を送り、肩をポンポン、と叩くと。


「……あの子も十五才だからな。あっという間だぞ? 大人になって飛び立っていくのは」


 そんななんとも意味深な言葉を残して、去っていったのだった。


「……」


 あの子は自分と親子ほど年の差があるし、まして尊敬する主の一人娘なのだ。そんな相手にこんな感情を抱くなどあっていいことじゃない。けれど運命のようにも思えるこの強い気持ちを押し隠すのは、正直に言えばもう限界だった。 


「どうかしてるだろ……。あの子はまだ十六にもなってないんだぞ……?」


 ぽつりとつぶやく。

 そしていっそ今回は贈り物を買い損ねたとごまかして渡すのをやめてしまおうかとも思う。が、それはそれでがっかりさせてしまうんだろうと考えると思いきれない。


「……はぁ。何を考えてるんだ……。俺は……」


 なぜ普通に考えたら恋心を抱くには年の離れたラフィニアに、こんな感情を抱くようになったのか。いつの間にそんな感情が自分の中に芽生えていたのか。何度も自問自答してみるけれど、よく分からない。ただそれが自然だったとしか――。


 あの生きる喜びのかたまりみたいなラフィニアの輝きに、何度も挫けそうになる思いを救われて。ルナとの約束を守るためとは言えすっかり汚れてしまったこの手に嫌気がさすたびに、あの子はその手を取ってそんな影を振り払ってくれた。それが眩しくて、嬉しくて、守りたいと思った。

 ルナに対して感じた思いとはまた違う、守りたいという思い。

 叶うはずもない、いやそれどころか口にしてはいけないであろうそんな恋心に、何度目かのため息を吐き出した。


 間もなくカインは、停戦協定のために屋敷を離れることがすでに決まっていた。今度はラフィニアが長年研究してきた雪芋の栽培方法と当面飢えを防げるだろう量の雪芋持参で向かうことになっている。それが功を奏せば、きっと今度の停戦協定はうまくいくだろう。 

 けれどカインは長年の経験で知っていた。戦争というものがどれほど人々に深い傷を残し、その傷が長く人の心を蝕むのかを。


「……結果的に戦争が終われば、それでいい。だが局面が大きく動く時というのは思いもよらないことが起こるものだからな……。最悪の事態が起きることだって……。となれば、もしかしたらこれが最後の贈り物になる可能性も……」


 カインは何か嫌な予感を感じ取っていた。何か悪いことが起きるような予感を。だからこそこの贈り物をなかったことにして屋敷を出るのをためらっていたのだ。


「ま、好きになってしまったもんは仕方ない。口にしなければ……ずっと自分の中に収めておけばいいさ。見守ることは……できるだろ。この先も、ずっと……。となれば、せめてこの髪飾りだけでも……」


 やれやれとあきらめのため息を吐き出して、天を仰いだ。そして、髪飾りを手に思い切ってラフィニアの部屋をノックしたのだった。



 ◆◆◆


 その頃ベーゼルは、メリアナにぼやいていた。


「早い……。早いだろう……。なのにもう……」


 世界の終わりのような暗い顔をして先ほどから同じ言葉をぶつぶつ繰り返すべーゼルに、メリアナがあきれ顔でため息を吐き出した。


「あなたったら……、あの子がカインと運命的な何かを感じ取っているのはとっくに分かっていたことじゃありませんか。カインがそれを自覚したのは、つい最近みたいだけど……」


 ベーゼルはうぅむ、とうなる。

 さっきのカインの思い悩むその顔にも、ラフィニアに恋しているとはっきり書いてあった。そのカインが、ラフィニアへの贈り物を握りしめ、あの子の部屋へと向かうのを見ていた。散々迷った挙げ句、意を決したようにそわそわとドアをノックするのを。


「そんなことはとっくに分かっている! しかし、それでも気持ちは複雑だ……!」


 メリアナがくすりと笑う。


「本当にあのふたりはどんな縁でつながっているのかしら……。生まれた時からあの子にとってカインは特別だものね。ふふっ! あなたったら昔からやきもちを焼いて……!」


 小さな手を一生懸命にカインの顔に伸ばしては、それはもう嬉しそうに声を上げて笑うラフィニア。そしてその笑顔にとろけるような顔で微笑むカインの姿。それはラフィニアが成長しても変わらず。ラフィニアの目はいつもカインを追っていたし、カインもまたいつもラフィニアを守る騎士のように見守っていて。


「……ふんっ! しかし結婚を簡単には許すつもりはないぞ。カインが少しでも頼りないところをみせるようなら、ただでは……」

「あら? 結婚なんて気が早いわね。デビュタントだってまだなのに……」

「しかしあの子にはきっとこれからおかしな虫がわんさか寄ってくるに違いない……‼ そう考えると早めに身を固めておいた方が……」

「ならカインなら安心じゃありませんか。身分だって、和平調停が結ばれた折にはきっと陛下から爵位もいただけるでしょうし」

「そ……それはそうだろうが。カインはいい男だが、父親としての気持ちはまた別でっ……! ぐぅぅぅっ……」


 なんとも不毛なそんなやりとりが続けながら、ベーゼルとメリアナは思った。

 きっと運命の不思議な糸で結ばれたラフィニアとカインのことだ。あっという間にことは進んで、かわいいかわいい愛娘はカインとともに新しい人生を歩みだすのだろうなぁ、と。そしてそれはそれでとても幸せなことに違いないと微笑むのだった。


 

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