119話:向き合うべきだ
「お前は・・・俺を止めるのか?」
「お前がこの国から去ることを止めはしない。ただ、そのやり方じゃ過去にケジメは付けられない」
石川泰麒、桐生蒼矢。両者は対峙している。
この日はハイジャックの決行当日なのだが、何者かが先回りして全てを妨害した結果、計画は失敗。元々、飛行機に乗り込むつもりだった石川泰麒は失敗が分かった途端逃走を図ったが、クラスメイトに追い詰められた結果が今である。
「お前、家族の住む家に行ったらしいな。わざわざ因縁の場所に行ったのに、最後には逃げに徹するのか」
「何か悪いか?都合の悪い事は見ない。人間とはそういうものだ」
「正論だ。俺はお前の事を知っている。何があったのか。どうして無法者になったのか。確かに、お前は悪くない。今のお前を形作ったのはお前の忌避する親だ」
「だったら良いじゃないか。息子は死んだ!それで良いだろ?あいつらだって消える事を望んでたんだ」
「でもよ、いてほしいって今は思ってるだろ?なら、生きてる事くらい伝えてやれよ。その上で絶交だと宣言しろ。それがケジメだ。最後かもしれないんだ、向き合うべきだろ」
「こんな10代のガキがなんで大人を気遣ってやるんだよ。話も聞かずに追い出した奴らに、かける暇は無い」
「なら、大人じゃなきゃ良いんだな?」
「は?」
その言葉が合図だった。2人の人物が後ろから現れた。
「妹と・・・桐生か」
「苗字呼びは俺も該当するけどまあその通りだ」
「妹は分かる。だが、何故お前の姉なんだ?あの時、真実を知っていて俺を責めたそいつが、何故いる?」
「理由はあるさ。こいつはな?お前と話したいとずっと望んでいたらしい。それに、お前を嵌めた奴らの顛末も知っている。この場にいても構わないだろう?」
「・・・で?俺はどんな説教をされればいい」
「説教・・・ね。本人達から聞けよ。俺はあくまで面と向かって話せる場を用意しただけだ」
まずは姉、沙羅が前に出る。
「久しぶり・・・だよね?気付かなかったよ。雰囲気がまるで違ったし、まさか一つ下の学年にいるなんて」
「前置きは良い。話す事だけ話せ」
「えっと、まずはごめんなさい。あの時、あなたはあの子を庇っていたし助けていたのに、私はイジメの対象になりたくなくて流された。あなたが消えてから、全てが公になってね。あなたを陥れた人達はこの場所を出ていったわ。誰も忘れてなんていないの。私達がやってしまった事も、ただ一人全てを背負った男の子の事は。だから、また一緒に」
「だからなんだ?見りゃ分かんだろ?俺はな、充実してんだ。今更戻る?そうやってまた俺は傷つけと?」
「そんなつもりは」
「それに、お前さ、俺の名前呼ばなかったよな?一度たりとも。怖いんだろ?テロリストになった俺が。なんだ?言い方間違えたら殺されるのか?そんな取り繕うだけしか出来ないなら」
冷たい目をして言葉を吐き出す。
「目障りだ。失せろ」
罪の意識はあれど被害者の気持ちが分からない。そんな奴はだいたい表面だけを取り繕って話すだけ。一応、関係者だと言うから連れてきたが、案の定想定通りだ。
「満足ですか?謝罪の言葉口にしたら楽になりました?そうですとも。私はボス以外誰からも愛されずに育った。私が救われなくても良いです。あなたが救われたならそれで良いでしょう。話は終わりだ」
「ハッ、拗ねてるだけじゃん」
「ん?」
妹が声を出す。
「あの時の記者、お兄ちゃんだよね?」
「ああ」
「色々聞いてたけどさ、あの返答聞いて何も思わなかったわけ?」
「その通りだが?」
「そう・・・変わっちゃったんだね。薄々気付いてたけど確信に変わった。私も反省した。あの時、お兄ちゃんがやってないって事を分かってた私が声をあげるべきだと。でもね?一番頑張ったのは・・・お母さんなんだよ」
「は?」
「さっきさ、公にされたって言われたでしょ。あれね、お母さんが調べ尽くしてお兄ちゃんがやってない事を証明したからなんだよ。お兄ちゃんは知らないでしょ。彼女なりに罪滅ぼししてた事」
「知る必要が無かったからな。だから何だ?」
「あの時お兄ちゃんの話は聞いた。だから、今度は私の話を、家族の話を聞いてほしい。お兄ちゃんが家族に戻りたくない事なんて分かってる。それでも、話し合えないままさよならは嫌だよ」
「それが、俺には聞く義理が無いとしても?」
「うん。蟠りは残したくないから」
「・・・良いぜ。話してみろよ。その裏切り者の家族の話って奴をよ」
全部話した。話したいと思ってた事全部。
お兄ちゃんが戻らないだろう事は蒼矢さんから聞いてた。
本当の家族って物を見つけてしまったから君を家族とは見ない可能性が高い。それでも話すか?
でも、違った。色々話す私を見る目は優しくて、まるで大きくなった娘でも見る父親の様な目だった。
家族には戻れない。それでも、拒絶されていない。それが分かっただけで私は嬉しかった。
お兄ちゃんの話も聞いた。自分の手が赤く染まった事も話してくれた。
聞いてて、やっぱり拒絶されてないって確信できた。けど、同時に悲しくなる。お兄ちゃんが話すボスって人は
息子、娘の事を厳しいながらも優しく愛情をかけながらよく見て育ててあげられる理想の父親だという事を思ってしまったから。
「みんな、色々やってたんだな」
「うん」
「てっきりさ、あんな顔して怒鳴って家追い出されたから、本当に要らないって思われてたんだろうけど、そうじゃなかったのかな」
「要らない訳ないよ。お兄ちゃんが悪いなんて思い込んでたからあんな行動を取ったけどさ、お兄ちゃんが帰ってこないって分かって探し始めたんだもん」
「探すくらいなら最初から追い出すなって言いたいな」
「本当にね。・・・やっぱり親には会いたくない?」
「ああ。この場にいないなら、わざわざ出向きたくはない」
「そうか。ならさ、妹の最後のわがまま聞いてくれる?」
「わがまま?」
「うん。私達は一生許されない事をしました。でも、罪滅ぼしや反省はしてきました。だから、家族にはなれなくても、アメリカに行った時には、友達として会いに行っても良いですか?逆に泰麒君がこの国に来たら、一緒に遊んでくれますか?」
「一応これでも無法者なんでね。大っぴらに何かをするのは無理」
「そう・・・だよね」
「まあ、仕事の時間とか安全性が確保出来るなら・・・構わないぜ」
「ありがとう!」
「うわっ!バカバカ!いきなりとびかかってくんな!」
じゃれつく二人を見ている。人間がくだらない事さえしなければ涙を浮かべながらじゃれつくなんて、無かった事だ。
「姉貴」
「ん」
「説得とかってのはさ、結局は伝えたいって気持ちなんだよ。あいつのボスってのがさ、良い親父だったから、あの二人が一生引き裂かれるなんて事は無しで終われたんだ。妹の方もありのままをぶつけたから、こんな光景が見れる。それに比べてお前は自分の事しか考えてない。傷を与えた加害者は姉貴で、泰麒は被害者だ。心の深い傷は10年単位で治す物だ。だが、自分を思ってくれる。自分の為に怒り、話し、行動してくれる人。それさえあれば抜け出せるんだよ。止まっていた円環からな。今回ので分かっただろ?姉貴のやり方じゃ、自分の掌にある望んだものは、いずれ指と指の間からすり抜けていくんだ。そしていつか・・・自分の目の前から消えていくんだ」
至極正論。しかし、姉貴は泣き出してしまった。
自業自得なのに何故泣くのか。そんな感情は俺には分からない。
そんな感情が欠落した俺でも一つだけ言えることがある。
この二人の為に今まで動いてきて良かったと。




